本編





『あっ!出て来ちゃダメ~!!』




ギャォォゥ・・・


ギャァォォ・・・




と、その時焦るパレッタの声と共に、姫神島の洞窟の出口から子ギャオスが飛んで来た。




「「ち、ちっちゃいギャオスだ!」」
「確かに卵生生物の幼体と、特徴がよく似ているわね・・・」
「あれが、朱雀の子・・・」
「戦うべき理由の一つ、か。」
「そして、樹君にとっては・・・」





「・・・待って!!」




喉の奥から出したような、樹の張りのある叫びに子ギャオスは母へ駆け寄らんとする羽ばたきを止め、樹の前に降り立つ。




「・・・ボクと一緒に、行こう。君達とボクの、お母さんの所に。」




そう言うと、樹は両手で二匹の頭をゆっくりと、優しく撫でる。
その様子は、つい先程までナイフを翳して暴言を吐いていた者の態度にはとても見えない程に、穏やかでかつ愛情に満ちていた。




ギャォォゥ・・・


ギャァォォ・・・




子ギャオスもさながら、兄弟と緩やかな時を過ごしているかのように落ち着き、樹の手に夢中になっていた。




『あたしがやっと、どうどう!って出来かけたあの子達を、あんなに簡単にどうどう!するなんて・・・』
「きっとあれが・・・樹さんがなりたかった樹さんなんです。」
「これでもう、大丈夫。ボクがこうしたら、確実に大人しくなるから。それと・・・色々と、ごめん。それから、ありがとう。」
「・・・はい。」




子ギャオスが完全に落ち着いた事を確かめた樹は憐太郎に会釈すると、二匹を連れて彼らにとっての母親代わり・・・自分達を守る為に無謀な戦いを挑み、今まさに命の危機に瀕しようとしている、親ギャオスの眼前まで歩み寄る。
うつ伏せ態勢の親の顔に、二匹の子は即座に飛び付いて悲痛な声を上げ、親も子供達の悲しみを少しでも取り払おうと、微かな鳴き声で応える。




「・・・ギャオス。」




もう1人の子供代わり・・・樹は喜怒哀楽が入り交じる視線と共に右手を、母になってくれた存在・・・ギャオスに向けて伸ばし、心からの「願い」を語り始めた。





「もう一度ボクを、『巫子』にして欲しい。多分君にとっては、これが今一番嫌な願いかもしれない。でもボクにとってはこれが、今一番叶えたい願いなんだ。確かにボクは、君に比べて体も心も弱い・・・あの時、ボクが君を憎しみで操るような事をしてしまったから、君はボクとの繋がりを切ったんだろうし、ボクの心も体も強かったら・・・そんな事しなくて、良かったのも分かってる。本当に、ごめんなさい・・・
でも、だからこそボクは・・・もっと強くなる為に、君の『巫子』に戻りたいんだ。母親代わりが嫌なら、母親じゃなくっていい。この騒ぎが終わって、君がやっぱりボクが『巫子』に相応しくないって思ったら、また繋がりを切ってくれていい。
けどボクはもう嫌な事から、弱い自分から逃げない。何があっても絶対に、諦めない。自分の事を、責めたりしない。目覚める時も眠る時も、明日の事を信じていたい・・・だから!あの子達を、この島を、君を守る為に・・・そしてあいつに、父さんに本心を伝えて、なりたい自分になる為に・・・!
ボクとまた、一つになってくれ!ギャオス!!」




樹は叫んだ。ありったけの、ありのままの願いを。
ギャオスは聞いた。一言一句、聞き逃す事無く。




・・・ギャオ、オォォォ・・・!




少しの沈黙の後、ギャオスは天を仰いで叫び・・・それと同時に砕けた勾玉が破棄されていた、エアロ・ボットの隠し場所でもあった廃工場の焚き火跡で、突如として火花が爆ぜた。
更に火花は連鎖して増えて行き、直ぐ様に炎となって燃え上がり、炎の中から数十の小さな赤い光が飛び出した。






「あっ、見て験司!」
「・・・光の、群れ?」
「何かを目指して向かっているように見えるけれど・・・」
「と言うか、あれが来た方向って・・・そうだ!拓斗、あの工場から来てる!」
「ほんとだ!何だ、ありゃ!?」




験司が言う「光の群れ」は真っ直ぐに樹へと向かい、その全てが差し伸べた右手の掌に集まり、一つの塊となって行く。




「憐太郎、これはもしや・・・」
「うん!きっとギャオスが、樹さんを・・・」




樹は無言で、だが万感の表情で掌の光の塊を見つめる。
そして、光の塊は輝きを止め・・・真紅の勾玉へと変わった。
それは樹の願いがギャオスへと届き、ギャオスが再び樹を朱雀の巫子に選び、樹がまたギャオスと繋がった事を意味していた。




「・・・あたたかい。この感じも、この思いも・・・感じるよ、君の鼓動を。ありがとう、ギャオス。
さぁ、ボクと君であの兵器を、父さんを止めるんだ・・・行こう!!」




ギャァオォォォォ・・・




歓喜と決意に満ちた樹の叫びと共に、天に掲げられた勾玉「祝融」から注がれる、ガイアの「G」による紅い光を纏いながら、ギャオスは再び力強く空へ飛び上がった。
ギャオスの全身の傷は瞬く間に癒えて行き、眼下の「子供達」を優しくも凛々しい眼差しで一瞥すると、ギャオスは海岸線まで目前に迫るエアロ・ボットへと向かって行く。




ギャォォゥ・・・


ギャァォォ・・・




『凄い・・・!あれだけボロボロだったのに、一瞬で傷が治った!これが「万物」をも越えるこの地球の、ガイアの「G」の力なんだね♪そんな凄い力を強い思いで引き出して「勾玉」で中継して伝える「四神の巫子」も、ガイアの「G」を「森羅万象」の力に変えちゃう四神も・・・くぅ~っ!!やっぱりヤバすぎる~っ!!』




子ギャオスは空を見上げて元気を取り戻した親へ喜びの声を上げ、四神と巫子の力を間近で見たパレッタもまた、子ギャオスにも負けない喜びの声を上げた。




「「おお~!!」」
「朱雀が、甦った・・・!」
「まるで火の鳥みたい・・・」
「そうかもな・・・いや、多分一緒って事だ。ギャオスもガメラと。」
「憐太郎と紀子が諦めない限り、ガメラが何度でも立ち上がるように・・・樹君が諦めない限り、朱雀は・・・ギャオスは何度でも立ち上がれるんだね・・・!」
「そうだよ、諦めなければ何度だって立ち上がれるんだ・・・だったら、僕も君の事を諦めない・・・!紀子、ガメラ・・・!」






『本機に超高速で接近する目標有り。
計測・・・目標は朱雀。』
「なにっ!朱雀だと!?」




一方、亨平もまたエアロ・ボットに迫るギャオスの存在を知る。
荷電粒子砲で駆逐は出来ずとも、再起不能には出来たと踏んでいた亨平にとって、驚きを隠せない様子だ。




「馬鹿な、荷電粒子砲は確かに奴に直撃していた筈だぞ・・・?」
『解析・・・
先程迄の朱雀と比較。
約95%の負傷の修復、約167%のエネルギーゲインを観測。
予測・・・
最も確率の高い理由の提示。
巫子による、朱雀へのガイアの「G」の供給。』
「っ!?まさか、樹が巫子に戻ったと言うのか!?やはり、勾玉は完全に処理出来ていなかったのか・・・!」




ギャァオォォォォ・・・




更なる動揺を受ける亨平をよそに、ギャオスは超音波メスでエアロ・ボットを攻撃する。
だが、エアロ・ボットは自動でE・シールドを張って超音波メスを防御し、透明な鉄壁の障壁はメスを入れる事を一切許さなかった。




ーー攻撃は防げたが、奴に攻撃すれば樹も傷付けてしまう・・・!
奴め、樹を人質に取った・・・否、それなら最初から勾玉を取り戻し、万全の状態で攻撃して来る筈。
つまりは・・・樹の、あいつの意思で朱雀に力を貸していると言う事なのか・・・
朱雀を介し、この俺に刃向かうと言うのか!樹・・・!!
・・・いいだろう。それなら痛みを伴ってでも、目を覚まさせてやる・・・!
もはやあいつは、俺の言う事を聞くつもりなど更々無い・・・ならば、それがどんなに愚かな行為であるのかを、その体に教えてやる!!
覚悟しろ・・・樹!!



「エアロ・ボット、朱雀を・・・樹を、攻撃するんだ!!」




亨平の非情の決断と共に、エアロ・ボットはE・シールドを解除すると共に中央部の発射口から上空のギャオスへ超高熱レーザーを発射した。
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