本編





「っ!?ギ、ギャオスッ!!」




街からギャオスを追って来た樹も、姫神島に到着。
久方振りに全力疾走した事で息も絶え絶えになりながらも、お構い無しとばかりにギャオスの元へ向かう。




「樹さん!?」
「樹君・・・!」
「遊樹君、城崎君。あの子が朱雀、ギャオスの巫子の逸見樹君よ。」
「巫子?って事は、守田さんと同じだ!!」
「でも、勾玉は持って無さそう?」
「やはり、巫子の拒絶反応への対策をしていないから未だに体は弱そうね・・・」
「オレが救ってやるって、何とも頼んでやったってのに、頑固親父のせいで・・・」
「はっ・・・お、お前達は・・・そ、その島に近寄るな!もし中に、入るなら・・・ボクが、容赦しないぞ!」




樹は護身用に持参していたカッターナイフをポケットから出し、長めに刃を出して憐太郎達に突き付ける。
呼吸は乱れながら、樹の目は姫神島の中にいる子ギャオスを守ろうと、確かに憐太郎達を捉えている。




「うおっ!」
「勾玉じゃなくて、カッターを出した!?」
「あの様子、相当錯乱しているわ・・・!」
「キレっぷりは、親父譲りってわけか?」
「樹さん、違うんだ!僕達は・・・」
「やめるんだ、樹君・・・私は君のお父さんの友人で、憐太郎の父の能登沢晋だ。久し振りだね、樹君。」
「あんたは・・・」
「君の事情は全て聞いている。君が朱雀の、ギャオスの巫子である事も、お父さんを憎んでいる事も、あの島の中にギャオスの子供がいる事も・・・だからこそ、私達はギャオスに危害を加えに来たんじゃない。今、こうして街で暴れている兵器を使ってギャオスを亡き者にしようとしているお父さんを止める為、ギャオスを守る為に来ているんだ。」
「えっ・・・!?」




自分の認識が間違っていた事と、父の暴走を知った樹は頭の整理が追い付かないあまり、カッターナイフを手放した。




「あいつが・・・あの兵器を?あいつがギャオスに、あんな事を・・・?」
「更にお父さんは、旧友の土井防衛大臣と組んでギャオスだけで無く憐太郎の命も狙っている。でもそのお父さんも、土井防衛大臣に利用されているんだ・・・樹君、私達は本気でこの歪んだ連鎖を止めたいと思っている。だから君の事も、守りたいんだ。」
「・・・でも、ボクがいた所で無駄だよ・・・今のボクには勾玉も無い、力も無い、何も無い・・・!あいつに言ってやりたい事があるから来たのに、あんな兵器使われたら無理に決まってるじゃないか!出来ないんだ、あいつを止める事なんて!不可能なんだ!ギャオスの力になる事なんて!」
「・・・確かに、出来っこ無いよ。そうやって無理、不可能って言ってたら。」




己の無力さを嘆く樹を、痛烈に否定する一言。
それを静かに言い放ったのは、憐太郎であった。




「「レ、レン!?」」
「お前ほんとボクを、イライラさせる事ばかり言ってくれるよね?お前こそ、巫子でも能力者でも超人でも無い、ただの人間の癖に・・・!」
「そうだ。僕は巫子でも能力者でも超人でも無い、ただの人間・・・でも、僕は無駄だと分かってても、あがいてあがいてあがき続ける・・・!どんなに無理な事でも、逃げずに立ち向かう!不可能なんて、言わない!
最後の最後まで・・・僕は絶対に、諦めたりなんかしない!!」
「!!」
「・・・偏狭だから『亨平』、昔から彼はそう言って自分の意見を曲げなかった。でも、本当は『公平に何でも進められる人になって欲しい』と言う願いがこもった名前なのにと、夕和(ゆあ)さんがよく言っていたよ。」
「夕和、母さんの名前・・・」
「だから、君が自分の意見がお父さんに聞いて貰えないと言うのなら、いっそ殴ってでもまずは話を聞き入れさせていいと思う・・・お父さんは、あいつはそうやって接するべき人間だからね。」
「と、父さんが殴ってでもって・・・言った?」
「あのレンの親父さんが・・・」
「ち、力ずくだ!」
「験司、能登沢さんってまさか昔は不良みたいな感じだったの?」
「いや、不良とは正反対の真面目な人だったと思うが・・・あのレンの親父って事を考えたら、やりかねねぇ所はあるぜ?」
「恐らく、一度行動に移したら実力行使を使ってでもやり通す人なのでしょうね・・・確かに、息子さんに遺伝していると言えるわ。」
「でも、父さんの言う通りだ・・・樹さんも、出来ないなんて言わないで!諦めたら、そこで全部終わっちゃう!でも、諦めない限りは終わらないんだ!僕達と一緒に、お父さんに間違ってるって言いに行こう!」
「・・・なんで君は、ボクにそんな事を言うんだよ。ボクは君に、酷い仕打ちしかしなかった。なのに、なんでボクを励まして・・・背中を押してくれるんだよ!」
「ただの人間の僕にだって出来るんだから、もっと辛い目に遭って来た樹さんなら出来る・・・そう思ったから。僕も、樹さんとの事を諦めたくないんだ。」
「・・・そうさ、ボクは辛い目ばかりの人生しか送れない、酷い存在さ。だって女に産まれたのに、男の自我が芽生えた中途半端な人間だから。男なのにスカートを着ないといけなくて、女なのに女子の着替えを見て恥ずかしがって、女子トイレに行けなくて・・・男でいたいのに、胸が出て来て!生理が来る!自分の体なのに、吐き気がする・・・!
でもこの苦しみを誰も、親も分かってくれないんだ!こんなボクだから、人間じゃないギャオスやあんた達みたいな人達しか、分かってくれないんだ・・・
ボクはもっと・・・もっと、優しい人になりたいのに・・・!」




樹は内に仕舞い続けた不平不満を、コンプレックスを初めて他人へと吐き出し・・・絞り出すような最後の願いの一言と共に、樹の左目から涙が流れる。




「・・・じゃあ、なればいいじゃないか!」
「!?」
「なりたい自分になるのに、邪魔や理由はいらない・・・諦めずに、頑張って立ち向かい続ければ、いつだってなれる!僕と紀子も諦めないで、色んな現実と戦い続けて・・・だから、今も一緒にいれるんだ。だから、樹さんも頑張って、諦めないで・・・そんな自分を誇ろうよ!」




それに対する、憐太郎からの自分の全てを肯定する熱い言葉に、樹の右目からも涙が溢れ出た。




「お前、男なんだろ?だったらグズグズするんじゃねぇ!言いたい事くらい、ちゃんと言いやがれ!レンはそうやって、辛い事やどんな壁も全部乗り越えて来たんだよ!」
「そうだぞ!レンがいるから、守田さんもガメラもいつでもがんばれるんだ!」
「レンは、心の強さなら最強です!親友のぼくが、保証します!」
「貴方が体だけじゃない、心も弱っている事は分かるわ・・・でも『病は気から』と言うように、難病を強い精神力で克服した例もあるの。」
「能登沢君も、私と会った頃は心が折れていたわ・・・でも頑張って立ち直って、強い男の子になれたの。貴方にだって出来るわ、逸見君!」
「きっとお父さんに全てを打ち明けられた時、君はなりたい自分になれる筈だ。だから樹君、私達と一緒にお父さんの所へ行こう。」
「・・・」
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