本編







同じ頃、住宅街に到着したGnosis達は各自散開し、各々のやり方で住民達を避難させていた。




「こっちだぁ!こっちに逃げろぉ!」




「慌てず、押さず、安全第一の避難をお願いします!」




「ちょっとこの野良バイク、借りるで・・・!みなさ~ん!危険やからこっちへ逃げて下さ~い!」




「こちらに逃げれば、大丈夫で~す!」
「子供やお年寄りは絶対押すなよ!ダイゴロウとの約束だ!」






「こちらです!落ち着いてこちらへ避難して下さい!こちらなら安全・・・あら?」




引田もまた、ホテル付近で住民を避難させていたが、逃げる人々から外れてエアロ・ボットが進攻している方へ行こうとする、男子2人の肩車の補助で歩く女性・・・パレッタ・拓斗・透太を発見し、すかさず駈け寄る。




「貴方達って、能登沢憐太郎さんの友達の遊樹拓斗さんと、城崎透太さんよね?」
「「あっ!Gnosisの人!!」」


――Gnosisって、平司君が作った「G」を調査する人達だったよね?
もしかして、あたしにとってまずい感じ・・・?


「それなら頼みがあります!この人の傷を、どうか治して下さい!!」
「この人、えっと、爾落人って人らしくて、変な弾を肩に撃たれてから、ずっと苦しそうなんです!」
「爾落人!?先天性「G」保持者が、こんな所に・・・?」


――そういえば、光サブリーダーが紀子さんと能登沢さんを探している派手な格好の人がいたと言っていたけど、もしかしてこの人の事?
遊樹さんと城崎さんがいるのも、その証拠かもしれないし・・・2人が助けて欲しいと言っているのなら、わたし達の敵では無さそう。
それなら・・・


「分かったわ。わたしが責任を持って、その人を治療します。ちょうどそこのホテルに治療キットがあるし、一刻を争う状態かもしれないから。」
「「あ、ありがとうございます!!」」
『えっ、あ、あたしはいいよ。一刻を争うのはエアロ・ボットちゃんを止める事だし・・・』
「エアロ・ボット・・・成程、そういう事ね。事情が半分掴めたわ。わたしの予想が正しいなら、確かに貴女は爾落人かもしれないけれど、爾落人でも無理が過ぎると死ぬのは普通の人間と同じなのよ?それに、同行者の2人の意見を尊重した方がいいとわたしが判断したからには、それに従って貰うわ。たとえどんな「G」を持った凄い爾落人でも、ね。そういうわけだから、貴方達2人はわたしに着いて来て。」
「「はい!」」
『ちょ、ちょっと~!?』




治療を拒むパレッタの意見を完全に無視し、引田は拓斗と透太に指示を出して半ば強引にパレッタを、Gnosisが貸し切っていた部屋に連れて行った。
ひどく動揺したまま、しかし逆らう力も無いパレッタは床に寝かしつけられ、引田は治療キットと取りに行く。




『ねぇ、やっぱりやめない?約1000歳のあたしがそう言ってるんだから、キミ達も言う事聞いた方が・・・』
「駄目ですよ。せっかくその肩の弾を抜いてもらえるチャンスなんですから。おとなしくしていて下さい。」
「まさか、パレッタさんも注射苦手なんですかぁ?」
『そっ、そんな事あるわけ無いじゃな~い♪あたしは、あくまで一番やるべきかなって事を優先したいだけで・・・』
「それなら、早くその謎の弾丸を摘出するのが最優先ね?その弾丸がわたしが知っているモノなら、尚更。それと2人共、手術が終わるまでその人の手と足を強く持っていて頂戴。今回の摘出手術に麻酔は使えないから、貴方達でその人を抑えて欲しいの。」
『へ、へえっ!?』
「「了解です!ドクター!」」
『えっ、な、なんで麻酔使わないの!?手術には麻酔が絶対いるでしょ!?』
「麻酔は使えばいいものじゃないの。少しでも投与量を間違えれば大変な事になるし、爾落人である貴女の体には一般女性と同じ量だと駄目かもしれない以上、簡単には使えないわ。大丈夫よ、今回の手術は貴女が変に抵抗さえしなければすぐに終わるし、逆に麻酔を使えばしばらくは体が動かせなくなって、エアロ・ボットを追うなんて無理になるわよ?」
『しょ、しょんな~!!』
「良かったじゃない、注射が無くて。そういうわけだから・・・いい加減、自称1000歳の人が子供みたいに騒ぐのはやめなさい!めっ!」




引田は親指だけ突き出した右手の握り拳ーーちょうどサムズアップの形ーーを、パレッタの顔面に突きつけながら彼女を叱咤する。
如何なる者も黙らせる、彼女の天下の宝刀・・・「めっ!」のポーズにたじろいだパレッタは、自然と抵抗するのを止めた。




『・・・は、はい。』
「・・・お母さんだ。」
「・・・保母さんだ。」
「さて、それじゃあ手術を始めるわよ。2人共、この人がどんなに暴れても必ず抑えていてね。」
「「り、了解です!」」
『うっ・・・そ、そんなに痛いの・・・?』
「貴女が抵抗しなければ、痛みは一瞬よ?分かったなら、傷口を出して・・・うーん、この傷ならこれを使って・・・」
『そ、それで取るの!?ほんとに!?』
「ええ、そうよ?嫌なら目を瞑っててもいいから、抵抗だけは止めて頂戴ね?じゃあ、始めるわよ・・・」






『いっ!!いっ、たあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃ!!』






「・・・はい、終わりよ。傷口の消毒と止血をするから、もう少しおとなしくしていてね?」
『は・・・ふぁい・・・』
「ほ、本当に一瞬で終わった・・・」
「Gnosis、すっげぇ・・・」




引田の言う通り、パレッタの肩の弾丸の摘出は引田の高速かつ的確な処置によって直ぐに終わった。
先程亨平の前で見せた威厳は何処へやら、涙目と震える声色でパレッタはそのまま消毒と止血を受けながら、「G」封じの弾丸が無くなった事で摘出前までまるで全身に重荷を付けられたかのように重かった自分の体が、みるみる内に軽くなって行くのを感じていた。




「だ、大丈夫ですか?パレッタさん。」
『うん、大丈夫だよ。あの痛みに比べたらぜんっぜん!それに弾丸が無くなってから、体がかるーくなったし。ほら、へーきへーき☆』
「なんか、思ったより暴れなかったですよね~?」
『あの子、物凄い医療の腕の持ち主よ。Gnosisなんかにいなかったら、院長にも簡単になれるかもなのに・・・何だか、ナイちゃんを思い出したな~。』
「ナイちゃんって、まさかあのナイチンゲールですか?」
『もちろん♪クリミア戦争の時に一度会った事があるんだけど、あの子って治療の為なら無理矢理にでも患者を押さえつけたり、偉い人に意見したり、死ぬ覚悟で戦場に行って兵士を治療してたの!』
「へぇ~!なんかイメージと違うっすね!」
「ちなみにその逸話、大体正解みたいよ。わたしも病院にいた頃はナイチンゲールの本をよく読んで、憧れてたから。その様子なら、もう大丈夫そうね?」
『当然よ!1000年色んな事があったけど、マイペースに生きて来たんだから!』
「そう。そんな人にナイチンゲールみたいと言われて、光栄だわ。じゃあ、今は無理矢理にでも休ませたい所だけど・・・」
『いや!あたしはエアロ・ボットちゃんを追うわよ!ぜったい!』
「・・・そう言うと思ったわ。それなら、わたしが同伴する事を条件に許可します。いい?」
『ほんと!?やった~!!』
「良かったですね、パレッタさん!」
「ここまで来たら、おれも透太も行くぜ!いいですよね?」
「じゃあ、貴方達は姫神島にいる能登沢さんと合流してからよ。いい?」
「「はい!」」
『う~んっ!!あ~りがと~!!』




寛大な引田の対応に感極まったパレッタは、引田に飛び付くように彼女に抱き付いた。
引田もまた、子供の相手をするかのようにパレッタの頭を撫でながら話を聞く。




「もう。貴女は子供なのか大人なのか、どっちなの?」
『いいじゃん、別に♪それより、キミってなんて名前?』
「わたしは引田深紗よ。」
『じゃあ、みぃちゃんね!けってーい!あたしは・・・えっと、どの名前に・・・』
「パレッタさん、よね?この名前だと問題があるかしら?」
『ん~、まぁいっか!みぃちゃんはあたしの命の恩人で、心の友なんだしね~☆』
「わたしは友達になると一言も言っていないのだけれど・・・こう言う時は、流れに逆らわない方がいいわね。それじゃあ、そろそろ行きましょうか?」
「「はい!」」
『は~いっ♪』
「じゃあ、早くレンのいるとこに向かおうぜ!!」
「守田さんも一緒にいるから、すぐにガメラも来てくれるかも。」
『いよいよ生で玄武に、ガメラに会えるのね~!ほら、いこ~よ!みぃちゃ~ん!』
「分かったわ。」


ーー・・・この弾丸、やはりリーダーが持っている「G」封じの弾丸と同じだった。
なら、パレッタさんを撃ったのは・・・土井大臣が言っていた「後輩」で、今エアロ・ボットを操っているのも、きっと同一人物。
まだ土井大臣はこの島にいるようだけど、パレッタさんはわたし達の元に置いていた方が安全。
あとの先の事は・・・貴方達次第よ。
能登沢さん、紀子さん・・・
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