本編







――・・・確かに、あの頃は輝かしい日々だった。
でも・・・今思えばあの時点で始まっていたのかもしれない。
だからこそ、ただ懐古するだけじゃ駄目なんだ。
憐太郎のように、私も出来る事があるなら動かないと・・・!




晋の回想がちょうど終わった時、彼の眼前に姫神島と憐太郎・紀子の周囲を囲む験司達、うつ伏せのまま動かないガメラが見えて来た。
亨平が言っていた事が本当だった事実が晋の心の不安と焦りを加速させ、足を更に早めさせる。




「憐太郎!験司君!」
「と、父さん!?」
「晋さん!?どうしてここに?」
「帰る途中の亨平に会って、聞いてきたんだ・・・これは一体、どうなっているんだい?」
「詳しい話は後でしますが、ガメラがギャオス・・・朱雀と戦って、紀子ごと意識不明になってるんです!勾玉も何故かヒビが入ってて・・・」
「紀子、いくら呼びかけても何も反応してくれないんだ・・・きっと無理にガメラの力を引き出したから・・・」
「とにかく、もうすぐここに土井大臣が来ます。見つかると面倒な事になるので早く避難を・・・」
「その必要は、無いっ!!」




と、その時拡声器を使っているわけでもないのに上空から声が聞こえて来たかと思うと、上空からヘリコプターが地面に向かって降下し、着陸。
エンジンとプロペラの停止を待つ事無く、中から大柄な男が現れる。




「くっそ、もう来やがったか・・・」
「えっ?まさか、あの人って・・・?」
「そう、あの人が土井平司。防衛大臣にして、Gnosisを組織した人。そして・・・験司のお兄さんよ。」
「験司兄ちゃんの、お兄さん!?」
「・・・まさか、ここでまたお会いするなんて・・・先輩。」




そう、彼・・・土井平司は防衛省を管轄する防衛大臣・Gnosisの発足・管理者だけで無く、験司の兄でもあったのだ。
平司が出て来るや、彼の来訪・遭遇だけは避けていたGnosis達は一気に焦燥・緊張感に包まれる。




「マ、マジかよぉ!!」
「なんでもう来たんや!?あの人!?」
「予定ではまだ、30分はここに来ない筈だったぞ・・・!」
「スケジュールを今日の土壇場で調整して、ここに来る予定時間をを早めたのね・・・わたし達の不意を突く為に。」
「そんな!よりにもよって今来る事無いのに!」
「今日は厄日だ・・・やっぱり、朝からダイゴロウが見れなかったからだ・・・」






「験司、それに光君。守田君は行方不明なのでは無かったのか?能登沢憐太郎君は、玄武とは無関係なのでは無かったのか?これはどういう事かな?」
「ちっ・・・まさか、予定を早めてまでここに来るとはな・・・」
「早めに下見に来ただけだよ、一応。だが・・・君達の考えや隠し事などお見通しなのも確かではあるがね。まぁ、まさか君までいるとは思わなかったが・・・久しぶりだね?能登沢晋君。」
「・・・お久しぶりです、先輩。」
「久しぶり?父さん、あの人と知り合いなの?」
「そうなんだよ、能登沢憐太郎君。私と君のお父さんは某大学の清水キャンパスに通っていてね、先輩と後輩の仲だったんだ・・・それにしても、本当に似ているねぇ?亜麻色の髪と、その目が・・・美愛に・・・!」




母の事まで知っているのか・・・そう憐太郎が疑問に思うより前に、母の名前を口にしながら自分を見る平司の目が過去への感慨や体格以上に、とても冷たい印象を感じさせる事に気付き、無意識の内に憐太郎も警戒態勢になる。
平司もまた憐太郎へ配慮もする事無く、ひたすら憐太郎への威圧を続ける。




「おい、やめろ。レンにプレッシャーかけんな・・・!」
「先輩、私の息子にまでその目を向けないで下さい・・・!」
「失礼な、験司に晋君。私は回顧していただけだ。美愛との思い出を・・・まぁ、それは関係ない事から話を続けよう。単刀直入に言うと、玄武と守田君を私に引き渡して貰いたい。」
「えっ?」
「そんな事、出来るか!紀子はGnosisに入った時から、オレ達が見て来たんだ。わがままだろうが今更、あんたに渡せるかよ・・・」
「しかし今こうして私と遭遇してしまったのは、守田君と玄武の目を覚まさせる方法が分からないからだろう?このまま分からないまま、ここに放置しておく気かな?それなら理由を探る事も実行する事も可能な私にギブする方が、全てにおいて確実だと思わないか?」
「確かに方法は分かりません・・・ですが、憐太郎君と紀子ちゃんを引き離すのが良くない事は分かります。貴方が玄武の『ガメラ』としての活躍をご存知なら、理屈として分かる筈です。」
「光君。従順な君が、まさか私にギブアドバイスするとは・・・私としては一度、『不純物』を排除して検証してみたいのだよ。四神には本来、巫子さえいればいいのだからね。」
「僕は・・・嫌です。紀子とガメラと、離れたくありません!必ず僕がなんとかします、だから・・・」
「君は黙っていてくれないか?憐太郎君。これは大人同士の話し合いなんだ。」
「・・・大人同士の話し合い?レンが不純物?ふざけんな・・・!玄武・・・いや、ガメラにはな・・・レンも必要な存在なんだよ!紀子が巫子としてここまでやってこれたのも、ガメラがガメラとしていれるのも、全部レンがいたからなんだよ・・・!なにも知らねぇあんたこそ・・・黙ってろ!」
「験司・・・」
「それに紀子ちゃんは、もう私の娘だ。そんな一方的な方法で娘を簡単に渡す父親なんていない。私には、拒否する権利がある!なので娘は・・・紀子は渡しませんよ、先輩。」
「父さん・・・!」




恩義、敬意、畏怖、重圧・・・それらが入り交じり、圧倒的に逆らえない相手である筈の平司へ向かって験司と晋は固い決意と表情でそう返答し、蛍と憐太郎は2人の強い思いに心を打たれる。
しかし、その一方で平司は拳を固く握り締め、静かに・・・だが強い怒りを露わにする。




「・・・お前も、私にギブアドバイスするのか!験司!!
お前はそうやってまた!私の欲しいモノを奪っていくのか!晋!!」
「それは、あなたも同じだ!僕達から紀子とガメラを奪おうとしてるじゃないですか!験司兄ちゃんも光先生も、父さんも僕に味方してくれた・・・だから、僕も絶対に譲らない!紀子もガメラも、あなたには渡さない!」
「黙っていろと言っただろう!この、グリーンユース(青二才)めが!!」
「わたしも、憐太郎さんやリーダーに賛同します。今の貴方の心理は、欲しいおもちゃが手に入らなくて癇癪を起こす子供のようです!」
「深紗さんが言うなら、俺だって言います!ガメラも紀子ちゃんも、渡さへんですよ!」
「岸田は変な大阪弁になってるが、おれもそう思いますぜぇ!」
「土井防衛大臣。今の貴方の言動は歴代の独裁者のものと極めて酷似しています・・・そんな考えに、我々は賛同出来ません。」
「貴方もダイゴロウを見ていないからそうなるんです!自分勝手なわがままは良くないと、ダイゴロウが最初に怪獣おじさんに言われた事ですよ!」
「ダイゴロウは関係無いけど、僕も今の大臣には反対です!」
「お前達まで・・・!そうして私から奪って行くならば!私が先に奪ってやる!『後輩』に渡した人工「G」、エアロ・ボットでな!!」
「「「!?」」」
「まさか・・・亨平は!?」
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