本編







その頃、福江島・逸見家。
未だ目覚めない樹をひとまず家に置いた亨平は、何処かへ向かおうとする。




「待っていろ、樹。今、俺が「G」から開放してやるからな・・・」
「・・・逸見!」



するとそこに現れたのは、亨平の予想だにしない訪問者・・・晋――かつての親友――だった。




「・・・能登沢、か・・・久しぶりだな。」
「久しぶり。ちょっとこの島に用事が出来て、どうしようかと思ったけど・・・君に会う事にした。」
「悪いが、今から俺は用事だ。家に上がって茶を飲む時間は無い。」
「そう・・・樹君は元気かい?確か幼稚園くらいからもう会ってないから・・・」
「今は風邪気味だが、元気にはしているから心配するな。それから樹に『君』付けはやめろ。男のようで不愉快だ。じゃあ・・・」
「逸見、君は今からどこへ行くんだ?」
「どこでもいいだろう?」
「・・・朱雀の所か?」
「なに?」
「私も自分なりに「G」と、君に近況の事は調べているんだ。7年前から君と樹君の音沙汰が無いのも、去年のガメラ出現の時に何度も防衛出動を進言したのも、Gnosisの活動を度々妨害しているのも・・・それが全て樹君が朱雀の巫子として「G」に関わったのがきっかけなのも知っている。だからこそ聞く・・・今から何処へ行くんだ?」
「・・・やはりそうか。能登沢、息子は来ているか?」
「来ているけど・・・憐太郎に会ったのか?」
「あぁ。俺も顔を見なくなって久しいが、お前に似たものを感じてまさかと思った。だからこそ、「G」に巻き込むのは感心しないな。玄武とか言うデカブツと一緒にヒーローごっこをさせるのが親としての責務か?」
「君もそこまで知っていたか・・・確かに心配で、出来ればして欲しくないのが本音だ。だけど私は憐太郎と心から対話して、それが憐太郎が最も望んでいる事だと分かった。なら子供の本心を尊重し、支え、見守るのも親としての責務だと私は思う。」
「詭弁を・・・子の未来を決めるのは親だ。親がきちんとしなければならないんだ。お前はそう言うが、例えばあのデカブツのせいで息子が死んでも同じ事が言えるのか?自分が止めていれば、と思わないのか?後悔してからでは、遅いんだぞ!」
「・・・それでも私は、憐太郎には自由で自分らしく生きて欲しい。逸見、君は樹君が「G」のせいで性が歪んだと思っているのだろうけど、それは違う。あれこそ樹君のありのままの姿なんだ。それを親が否定したらいけないだろ!」
「黙れ!お前まで樹を男扱いするのか!息子をわざわざ危険に放り込むお前が、俺に指図出来ると思うな!」
「そういう頑固を通り越してわがままな所は本当に昔から変わらないな、お前は・・・!」
「それより、息子が心配じゃないのか?姫神島で巫子なる少女と一緒に見かけたが、大変な事になっていたぞ?」
「なにっ!?」
「息子が心配なら、今すぐ姫神島に行け。それでも俺の邪魔をするかは、お前次第だがな。」
「・・・旧友として、お前は絶対に止める・・・!」




苦虫を噛んだような表情をしながら亨平を睨み、姫神島へ走り出す晋。
亨平の方は特に意に介す事もなく、町外れへと歩いて行く。
かつて同じ道を歩いていた2人は、もはや正反対の方向へとすれ違ってしまっていた。




「・・・晋、お前が俺の邪魔をすると言うならば、先にあの人に会って貰うぞ・・・そう、先輩に。」






「亨平・・・もう、あの頃には戻れないと言う事か。私とお前と彼女、そして先輩がいたあの頃に・・・」




そして2人は、ある同じ思い出を回想する。









『と、言うわけで亨平の入学を祝って、乾杯!』
『お前もじゃないか、晋!まぁ、思い切って清水に引越した俺達が合格しないのはおかしいけどな!』
『それもそうだ!よーし、待ってろよ!某大学!』






『やっぱり、某大学はサークルも一味違うな!晋、お前はどうする?』
『うーん、僕は・・・って、おわっ!!』
『ご、ごめん!急いでてー!』
『おい、待てこの・・・全く、先輩の癖にぶつかってきやがって・・・!晋、だいじょ・・・』




『大丈夫?』
『あ・・・は、はい。ありがとうございます・・・』




『土井美愛だ・・・』
『我が校の女神の登場よ!』
『いつみてもキレイだよなぁ・・・』
『でも、土井さんが手を差し伸べてるあの羨ましいの、誰なんだ?』




『私は二年生の土井美愛。貴方、新入生?』
『は、はい!能登沢晋と言います!これからもよろしくお願いします・・・その、なんというか、土井さんって・・・』
『?』
『・・・いいひと、ですね。』
『・・・ふふふっ、あははははっ!貴方・・・とても面白い人ね。キレイとかはよく言われるけど、そんな事言われたの初めて。』
『そ、そうですか?』
『ふふふっ。貴方みたいな人・・・私、嫌いじゃないわ。むしろ、好きよ。』
『・・・へっ?』




『『『な、なんだってーー!!』』』






『羨ましいなぁ、晋?入学式で転んだだけで、まさかこの学園のマドンナ・土井先輩に好かれるなんてな!』
『そんなんじゃないって、亨平!土井先輩とは・・・』
『そうよ、亨君。別に晋君が転んだからじゃなくて、あの一言が面白かっただけ。それから私と親しくするなら「土井先輩」じゃなくて「美愛さん」って呼ぶ事。いいわね?』
『『は、はぁ・・・』』
『このまま平司さん以外にはみんなの理想って言う、窮屈な姿で過ごすのかって思ってたけど・・・素敵だわ。』
『平司さん?』
『これから会わせてあげる・・・さっ、紹介するわ。私の親戚の、浦園平司さんよ。』
『ごきげんよう!!君が美愛の言っていた、能登沢晋君と逸見亨平君だね?私は浦園平司!以後お見知りおきを・・・』
『『よ、よろしくお願いします!先輩!』』






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