本編







「紀子!しっかりして!紀子!!起きてよ、紀子!!起きてってばぁ!!」




一方、憐太郎は両手で紀子の肩を掴んで体を揺すり、必死に彼女の意識を呼び起こそうとするも、やはり目覚める気配は無かった。




「・・・紀子、全然起きない・・・ガメラも動かないし、樹さんも起きないし・・・僕、どうしたら・・・」
「レン!!」




と、そこへ験司達Gnosisがようやく到着した。
験司と蛍は一目散に憐太郎と紀子の元に行き、他のメンバーは戦場の跡を各々見渡して現状の確認をする。




「能登沢君、大丈夫!?」
「験司兄ちゃん!それに光先生!?なんでここに・・・」
「そんなの後で説明する!だがまずはここで何があったのか、オレ達に説明しろ!」
「う、うん・・・」
「の、紀子さん!?なんて酷い傷なの!?」
「うわぁ・・・これ、一体全体どうなってんや!?」
「お、おぉい!ガメラがなんか、石像みたいになってんぞぉ!」
「朱雀もいない?確かにここに着く直前に反応が一つ消えてはいたが・・・」
「はっ!あそこにいるの、間違いなく朱雀の巫子の逸見樹君だよ!兄者!」
「本当だ!俺達Gnosisは数年前からお尋ね者扱いだったが、助けなくていい命なんて無いとダイゴロウも言っていた!救助するぞ!弟よ!」






「・・・それで、ガメラは危険な存在だから倒すって言ってギャオスと戦いになって、紀子が戦いを止める為に無理に力を使って、そしたらガメラが暴走して・・・」
「暴走?」
「朱雀・・・いや、ギャオスが最も危険な四神って言う伝承は、本当だったってわけか・・・!とにかく、逸見の子供と一緒にホテルに戻る・・・」
「その必要は無い!!」




更にその場に現れたのは、なんと亨平だった。
可能性こそあれど、今この場に最も来て欲しくない男の出現にGnosis達の空気は硬直する。




「ちっ、よりにもよってあいつかよ・・・」
「験司兄ちゃん、あの人は?」
「逸見亨平、朱雀の巫子の父親でGnosis最大の障害みたいなもんだ・・・!」
「貴様らにそう言う資格など無い!そこの男2人、樹に指一本でも触れるんじゃない!」




そう言うや亨平は拳銃を取り出し、樹を抱え上げようとした角兄弟に向けた。
突然過ぎる亨平からの脅迫に、角兄弟は両手を上げて降伏のポーズを取る。




「チャ、チャカだとぉ!?」
「じ、銃刀法違反っ!!」
「歩の言う通りだ、そんなもん仕舞え!」
「ならば樹から離れ、二度と近付くな!それが条件だ!」
「・・・分かった、だから銃を仕舞え!お前らも早く離れろ!」
「「は、はいっ!!」」




角兄弟がそそくさと離れるや、亨平は早足で樹の元に向かって勾玉の破片を拾い集め、樹を両手で抱えて持ち上げる。
あまりに一方的なやり方に、憐太郎はただ唖然とするしかなかった。




――な、なんなんだあの人・・・!?
樹さんが言っていたのって、本当だったって事・・・?



「相変わらず強引が過ぎるな、逸見亨平・・・」
「あのおっさん、ほんまいつも物騒やわ・・・」
「しぃ!お前、撃たれてぇのかぁ!」
「それに関西弁よ、岸田さん。関心しない言動なのは確かだけれ ど・・・」




「樹・・・なんて酷い怪我だ。貴様達、その玄武とか言うデカブツを使って樹を無理矢理連れて行こうとしたな?俺の娘をこんな目に遭わせよって・・・!まず元凶の朱雀を潰し、次に貴様らを徹底的に告発してやるからな、覚悟しておけ!」
「お前こそ、どこまで人の話を聞かねぇんだ!状況だけで都合良く解釈すんのが、正しいやり方なのかよ!」
「能登沢君は、樹さんの方から攻撃してきたと言っています!でも争いたくない能登沢君と、玄武の巫子の紀子ちゃんはどうにか説得を続けて、片方が死亡する最悪の事態は防いだ結果がこの状況です!樹さんが起きて、話を聞いたら・・・」
「うるさい!!貴様達に説得力も発言権も無いと言っているだろう!!俺は樹を普通の娘にしたいだけだ、邪魔をするな!!」
「・・・いや、間違ってるのはあんただ!」




ここで口論に介入してきたのは、憐太郎だった。
亨平の誤った認識と思想、樹との対話で知った「彼」の本心と憎悪を証明するかのような亨平の言動に、憐太郎は怒りすら感じていた。




「なに?」
「あんたがそんな父親だから、樹さんは苦しんでるんだ!樹さんは、ありのままの自分になりたいだけなのに・・・!きっとそうやって、樹さんの話もちゃんと聞いてないんだ!あんたも大人なら、人の話は最後まで聞いてよ!!」
「・・・!?」






憐太郎の糾弾の叫びに、亨平の脳裏をある記憶がよぎる。
今から20年は昔、殴られる学生の自分。
殴ったのは亨平にとって唯一無二だった親友で、彼は地面に倒れ込む自分に向かって、こう言った。




『亨平!人の話は、最後まで聞け!』





「・・・まさか、あいつもここに・・・?まぁいい、お前もそうしてそのデカブツと一緒にヒーローごっこをするつもりなら、いずれは潰す!覚悟しておけ!!」




亨平は憐太郎にまで敵意の眼差しを向けると、樹を連れて町へ歩いて行った。
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