本編
・・・ヴァァァォォオン・・・!!
と、その時ガメラが突然恐怖を感じる程に低く、おぞましい唸り声を上げた。
「どうしたの、ガメ・・・」
言いしえ無い不安を覚えた憐太郎は勾玉を使ってガメラと交感しようと試みるが、そこで憐太郎はある事に気付く。
「っ!?勾玉に、ヒビが!」
そう、常に傷一つ無い光沢を放っていた勾玉が、今にも割れて砕けてしまいそうな程に沢山のヒビが入っていた。
手の中で軽く握ってみても、ガメラと紀子の意思を感じない。
「なんで・・・なんでだよ、なんで勾玉がこんなになって、紀子もガメラも感じれないんだ・・・?ねぇ、答えてよガメラ・・・!?」
グァヴォォォォォォオオヴゥン・・・!
だがガメラは憐太郎の声を掻き消すかのように、今まで憐太郎が聞いた事の無い邪悪で畏怖の念に捕らわれそうな咆哮を上げる。
瞳も翠から一面白濁に変わり、感情どころか意思すらも伺い知れない。
誰が見ても、今のガメラは何かがおかしくなっていた。
「ガメ、ラ・・・?」
「・・・あれが本来の玄武の姿、『アヴァン』か。」
一方、物陰からガメラを見て男が呟く。
先程からガメラとギャオスの戦いを静観していたこの男の名は、加島玄奘。
彼もまた途方も無い「G」を持つ爾落人であり、四神同士の戦いを予期してこの地に赴いていた。
「かりそめの役割と人格で動いていたようだが、これでもう終わりだな。場合によっては、我が動かなければならぬやもしれん。凄まじき「G」そのものである四神の、ましてやアヴァンが関わるならば・・・『万物』を呼び起こす可能性がある。それだけは避けねばならない・・・たとえ、この身に変えても・・・!」
「なんだ?急にガメラがおかしくなってる、よね?ギャオスもそうおも・・・」
ギャヴォオォォォ・・・
樹もまたガメラの異変に気付き、ギャオスに問いかけようとするが、ギャオスもまたこれまでに無く好戦的になっていた。
――・・・えっ、ガメラが本当に昔の頃に戻ったって?
無理に力を使ったから勾玉が限界を迎えそうになって、その影響で?
・・・駄目だ、巫子は気絶してる。君が懸念してた、最悪の事態になったって事?
こうなったら、ボクと君がなんとかするしかない。こんな所で死ぬなんて、まっぴらゴメンだ。それならアイツを倒してでも・・・
・・・ギャォォォ・・・。
――・・・さよなら?
ど、どう言う事だよ、ギャオ・・・!?
その言葉が、樹が聞いたギャオスの最後の言葉だった。
その刹那に樹の勾玉が砕け散り、破片が無残に地面に落ちて行く。
ギャオスが自らの意思で勾玉の、樹とのリンクを切ったのだ。
「どう、して・・・だよ。ギャオ、ス・・・」
それと同時に樹の全身に急激な疲労感か走り、立っていられなくなった樹もまた地面に倒れ込み、そのまま意識を失ってしまった。
「あれ、あっちも倒れて・・・何が起こったんだ?」
ギャァオォォォォ・・・
憐太郎の理解が追いつかないまま、勾玉の契りから開放されてしまったガメラとギャオスは再度睨み合う。
しかし皮肉にも、今度は「壊すもの」と「護るもの」の立場が入れ変わっているが。
物陰から見る玄奘の眼差しも、一層きつくなる。
「起こってしまうのか。一万二千年前の悲劇が・・・」
グァヴォォォォォォオオヴゥン・・・
ギャァオォォォォ・・・
二体は咆哮を上げると共に、再戦を開始した。
まずギャオスが飛翔、上昇してガメラと距離を離しつつ超音波メスでガメラの首筋を切る。
しかし、激しく流血しているにも関わらずそれをまるで傷を意に介していないかのように、ガメラは超音波メスを受けながらガメラは腹の紋章を光らせ、口から火球を発射。
ブレイ・インパクトとは違う、どこか邪(よこしま)に燃える火球はギャオスに真っ直ぐ向かうも、ギャオスはすんでの所で回避する・・・が、火球は意思あるかのように急激に向きを変え、ギャオスの背中に直撃した。
ギャウウゥン・・・
「なに、あの火球・・・僕、あんな技知らない・・・!」
ギャオスの背中が燃え、痛みに耐えながらギャオスは黄色い煙を出して消火するが、その隙にガメラは飛び上がってギャオスに突撃。
そのままギャオスを地面に叩きつけ、更にガメラは左手でギャオスの首を掴んで拘束しながら、右手のエルボー・クローでギャオスの胴体を何度も切り付けた。
ギャオォォ、ギャァォォォ・・・
苦痛の絶叫を上げるギャオスの返り血でガメラの上半身は薄紫色に染まって行くが、それに構う事無く・・・いや、むしろ楽しんでいるかのように不気味な薄ら笑いのような唸りと共に、ガメラは攻撃を止めない。
「・・・そんな・・・!なんて酷くて、痛々しくて、嫌な戦い方なんだ・・・!」
「破壊と殺戮、ガイアの「G」の『創』と対となる『壊』に近しい存在・・・それがアヴァン。このままでは間違い無く、歪みが起こる・・・貴様も『人形』を介してこの争いを見ているのか、蛾雷夜・・・!」
玄奘は拳を固く握り締め、空を睨む。
その目線の先の遥か上空には一台のヘリコプターが飛んでおり、ポニーテールの女性が運転するヘリの中には大柄の男が乗っていた。
「・・・貴方もやはり来ていましたか。加島玄奘。」
「グッジョブ!!なんと素晴らしいんだ、玄武よ・・・ようやく、本当の姿に戻りつつある!私はこれを待っていた・・・ん?どうしたのかね?松田君?」
「いえ、どうも邪魔者もこの場にいるようでして。」
「邪魔者?それはギルティだが、一体何者なんだね?」
「ええ。『お父様』より生み出され、お父様と同じ力を持ちながら不完全故に捨てられ、数千年に渡ってお父様を妨害し続ける愚かなジャンク品です・・・」
「やめろ・・・やめてよ・・・!ガメラ・・・!君はそんな奴じゃないだろ・・・そんな楽しんで傷付けるような事、しないだろ・・・」
グァァヴヴヴゥゥゥゥン・・・
「だから、もうやめてよぉ!!そんな事しないで、また僕の知ってる優しいガメラに戻ってよぉ!!」
地上ではガメラによる残虐な攻撃が止む気配は無く、惨劇に頭が真っ白になりながらも憐太郎は悲痛な叫びでガメラを止めようとする。
グヴァァァァァウヴァァン・・・
だが、無常にもガメラは憐太郎の叫びに耳を貸す素振りすら見せず、ギャオスへの攻撃を続ける。
「こんなの、紀子が喜ぶわけないよ!僕だって、こんなやり方助かっても嫌なんだよ・・・だから、お願いだからやめろよぉ!!ねぇ、お願いだから・・・ガメラァ!!」
ギャァオォォォォ・・・
渾身の力を振り絞り、ギャオスは頭を振り回しながら超音波メスを拡散させて放ち、ガメラの頭・首・両手・腹を順番に切り裂く。
さしものガメラも左手を離し、隙を突いてギャオスは後退して鎌鼬でガメラの追撃を阻止しながら距離を取るが、あばら骨が見えそうな程に抉られた胴体からは黄色い煙を出す事は出来なくなり、多量の出血で体力も限界に近い。
なによりあれだけ傷を付けられ、自身の緑の鮮血に上半身を更に上塗りされながら、ガメラは戦意や覇気を全く失っていなかった。
「・・・光線が来ます、何かに捕まっていて下さい。」
「おおぅ、それはまたグロリアス!!」
拡散された超音波メスの一部はヘリにも迫っていたが、女性が一言そう言うやヘリを包むように楕円形の青いバリヤーが張られ、超音波メスをいとも簡単に弾いた。
更に弾かれた超音波メスは地上の玄奘目掛けて飛んで行くも、玄奘が手を翳すや超音波メスは虚空へと消えて行った。
「・・・「反転」か。人形が、小賢しい真似を。」
「「転移」、やはり複製していましたか。そうして真似事の力を増やした所で、お父様には決して勝てないと言うのに・・・」
ギャヴォォォ・・・
ギャオスは再び空高く舞い上がって空気を吸い込み、最後の力を出し切って超音波メスを放とうとする。
グァヴォォォォォォオオヴゥン・・・!
ガメラもまた空気を吸い、口内に溢れんばかりの業火を溜め込む。
お互い、最大級の一撃を放とうとしていた。
「やめろ・・・やめろ・・・やめてよぉ・・・!!」
懇願する憐太郎の思いは、やはりガメラには伝わっていない。
――こんなの、嫌だ・・・!
こんなの、ガメラじゃない・・・
こんなの・・・子供達が・・・透太や拓斗が・・・紀子が・・・僕が大好きな、ガメラじゃない!!
今のガメラが本当のガメラだろうと、関係ない!
僕が知ってるガメラは、みんなの守護神なんだ・・・怪獣や悪からみんなを守る、ヒーローなんだ・・・
いつでも僕と紀子に応えてくれる、僕らのガメラなんだ!
だから、僕は絶対に君を取り戻す!
勾玉が無くても!紀子が起きなくても!
僕の思いで・・・絶対に君を取り戻すって決めたんだ!!
そして、ガメラがギャオスより僅かに早く、火炎を吐こうとした、その時。
憐太郎がガメラの前に飛び出し、叫んだ。
「やめろおおおおおおおおおおおおおっ!!
ガメラアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」
・・・グァヴァァァヴン・・・!
しかし、余裕無きギャオスの超音波メスはその直後に放たれ、容赦無くガメラと憐太郎に迫る。
「・・・っ!!」
・・・が、超音波メスは憐太郎に一切当たる事は無かった。
巨大な何かが・・・そう、ガメラの手が阻んだからだった。
「ガ・・・ガメラ・・・!!」
すぐに勢いが弱まり、閃光の如く散り散りになった超音波メスを手で払い退け、一瞬憐太郎が見たガメラの眼差しは、いつもの強さと優しさを兼ね備えた翠に光る瞳だった。
ガメラはそのままうつ伏せの体勢になり、頭(こうべ)を下げ・・・動かなくなった。
ギャァオ、オォォォォ・・・
ギャオスもガメラが動きを止めた事を悟ると弱々しく飛び上がり、姫神島へ去って行った。
あとに残されたのは、目を覚まさない紀子・樹・ガメラ、呆然とする憐太郎だけであった。
「まさか、アヴァンと化した玄武を止めるとは・・・あの少年は巫子ではない、只のガイアの「G」の供給源だと思っていたが、認識を改める必要があるか・・・?」
――しかし、この目で見て四神、特に玄武は危険な存在なのは明白になった。引き続き、警戒しておかなければ・・・
だがもし、四神の力を引き出す最大の要素があの陳腐な概念ならば・・・あの少年が玄武を制止出来たのにも納得が行く。
・・・近い内に試してみるか。普通の人間が「G」を持つ者を「想う」事で、如何なる事になるのかを・・・あの2人に。
戦いを最後まで静観していた玄奘もまた、紀子に駆け寄る憐太郎を一瞥し、去って行った。