本編
ーー・・・もしかして、許されるのか?このボクが。
こんなに酷くて、陰湿で、中途半端な人間のボクが、許されるのか?
確かに、救いは求めた。その思いは、嘘なんかじゃない。
でも本当に、救われていいの・・・?
『黙れ!お前は確かに女の子なんだ!女がそんな格好でそんな事を言ったら駄目なんだ!分かったなら、もう二度とそんな真似をするな!』
『「G」、絶対に許さん・・・!俺の「娘」を狂わせよって・・・!俺は「G」など認めない・・・!報復してやる、必ずな・・・!』
ーー・・・いや、駄目だ。
まだボクは、救われちゃいけない。
たとえ痛みを伴っても、あいつを、この手で!
消すまではっ!!
「・・・そうさ、図に乗るな!この期に及んでまだ、ボクを知ったような口を聞くな!いい加減うるさいんだよ、お前ら!ボクはあいつを、ギャオスであいつを消してやるんだ!邪魔すんなって、言ってんだろぉ!!」
樹の心が再び憎悪に包まれたその時、負の感情に呼応するかのように樹の勾玉に禍々しい紫の光に覆われ始めた。
「「!?」」
樹と勾玉の異変に気付いたギャオスは必死に樹に語りかけるが、樹がギャオスに何も答える事は無く、ギャオスの全身もまた紫の光に覆われて行く。
ギャウウゥン・・・
「な、なんだ、あれ・・・」
「樹さんと朱雀が、恐ろしい力に・・・負の思念に囚われようとしてる・・・!」
「負の、力?」
「私とレンはいつも何かを守りたい、誰かを助けたいって言う『正』の思念でガメラに力を送っているの。でも今の樹さんは何かを苦しめたい、殺したい・・・そういう憎しみの思念を力にしようとしているの。もし、負の思念でガイアの「G」を扱おうとしたら、きっとアトランティス滅亡の時のような事になるかもしれない・・・!」
「そんな!じゃあ、早く止めないと!」
危険な状態になりつつある樹を制止しようと、憐太郎・紀子は樹に駆け寄ろうとする。
だが、その前に紫の光に包まれてしまったギャオスが飛び立ち、その風圧で2人は飛ばされそうになる。
「ぐうっ、なんて強い風だ・・・」
「さっきより、嫌な感じの風・・・でも、早く止めないと!樹さん!お願いですからもうやめて下さい!このままでは、貴方も破滅します!」
「朱雀の力は、「G」は、そんな事に使う為のものじゃない!目を覚ますんだ!」
「うるさい!うるさいって言ってるのが、分かんないのか!あいつを消して、ボクは嫌な事から解放されるんだ!あいつさえいなくなれば、ボクは本当のボクでいられるんだ!そうすれば、ボクはギャオスと一緒にいられる!家族になれる!
だからもう、あいつなんか・・・父さんなんか、いらないんだぁっ!!」
ギャオスは遥か雲の上にまで上昇すると翼を畳み、今度は竜巻のように旋回しながらガメラに目掛けて突っ込んで来る。
紅い槍の如く全てを貫き倒す、ギャオスの必殺技だ。
「樹さん!やめて!そんな事をしたら貴方も、朱雀も傷付くだけよ!」
「憎しみに囚われちゃ駄目だ!自分を取り戻すんだ!」
「黙れっ!!黙らないなら、ボクが黙らせてやるっ!!行けぇ!!ギャオス!!」
樹の激情を乗せ、ギャオスは瞬く間にガメラへ迫って来る。
もはや到達まであと数秒、回避する時間は無い。
「ちくしょう!なんで、なんでなんだよ!」
「・・・レン、ガメラ。あとはお願い・・・!」
「えっ、のり・・・!?」
憐太郎の困惑の声の、僅か1秒も無い間にガメラの全身が炎に包まれる。
そして憐太郎の叫びも無いまま、ガメラはブレイ・インパクトを発射。
烈火球はガメラと激突寸前にまで迫っていたギャオスと正面から衝突し、大爆発を起こした。
「う、うわああああっ!!」
周囲一帯は爆発により起こった大量の爆煙で何も見えなくなり、憐太郎は右手で目を覆いながらそれに耐える。
「・・・お、おさまったか・・・はっ!紀子!ガメラ!だいじょ・・・!?」
グァヴウゥゥゥヴァァン・・・
暫しの間を置いて爆煙が治まり、慌てて周囲を見渡した憐太郎の目に飛び込んで来たのは、言葉を失う程に壮絶な光景であった。
いつに間にか憐太郎の前にいたガメラは全身が傷付き、うなだれながら何とか立っている状態で、ガメラの前にはその身丈程はある巨大な岩の壁が、足元には紀子が倒れていた。
「ガ、ガメラ!!紀子!!」
憐太郎は即座に紀子の元に駆け寄り、顔を見上げてガメラの様子を、下を向いて腕に抱えた紀子の様子を確認し、ガメラと同じく全身を傷だらけの状態で目を瞑ったまま動かない紀子の体を上下に揺すり、彼女の意識を醒まそうとする。
しかし、紀子が目覚める気配は無い。
「紀子!しっかりして!紀子!のり・・・」
ギャァオォォォォ・・・
更に岩壁が崩れ、向かいにいた樹とギャオスの姿も露わとなる。
樹は既に降りていたギャオスの足元でただただ仰天の顔付きをしており、樹を守るように翼を折り曲げていたギャオスの傷もまた著しい負傷度で、そんなギャオスを囲むようにガメラのものと比べて半分程欠けた岩壁が出現していた。
「な、なんでボク、助かったんだ?」
ギャオスとの傷の共有以外、目立った傷が見当たらない樹はこの状況を疑問に思って辺りを見渡し、唐突に現れた岩壁を凝視する。
「こんなの、ギャオスが出せるわけがない。それじゃあ、まさか!?」
「・・・もしかして、紀子。君がやったの・・・?」
そう、紀子は憐太郎と樹、ひいてはガメラとギャオスを守る為、持てる力を全てをガメラに送り、紀子の指示を受けてガメラはブレイ・インパクトを発射すると同時に「地」の四大元素を使い、岩壁を作ったのだった。
しかし、その無理が祟って紀子は意識を失い、一種の昏睡状態に陥ってしまっていた。
「・・・やっぱりそうなのか、ガメラ。1人で、なんて事をするんだよ!紀子・・・!」
「この状況でまだボクを、ギャオスを救おうとしたのか?あの巫子は、まだ自分の言った事を実行しようとしたのか?」
「そうだよ・・・そうさ、紀子は諦めなかったんだ!こんなにボロボロになっても、貴方を救おうとしたんだ!貴方こそ、この期に及んでまだ分からないのか!この戦いに、意味なんてないんだって!」
「・・・!」
「紀子の思いを無駄にしない為にも、もうこれで終わりにしよう・・・もう、これで止めるんだ!戦いも、復讐も!」
紀子の残した思いに、憐太郎の言葉に、樹の心が激しく揺らぐ。
手は震え、目を潤わせ、押し寄せる感情の波に呑まれそうになる樹に、ギャオスもまた勾玉を介して語りかける。
「・・・ボクだって心から、こんな事はしたくなんて無いさ。でもそうしないとあいつへ・・・父さんへ思い続けてた事が、ボクがどんな嫌な事があっても耐えられた理由、父さんへしてやりたかったいろんな事が全部、無駄になってしまう気がして・・・けどそんなの、結局はこじつけなんだ。ただ駄々をこねてた、だけなんだ・・・」
「僕もガメラと紀子と再会する前まで、父さんと仲良くなかった。ただ僕が母さんの方が好きで、父さんが苦手だっただけなのに・・・でも、父さんがそれでもずっと僕を強く思ってくれてたって知ってから、嘘みたいに苦手意識がなくなったんだ・・・だから、貴方とお父さんもきっと気持ちがずれてるだけなんだ!お父さんが一方的で嫌なら、喧嘩してでも自分の気持ちを全部伝えなきゃ駄目だ!家族ってきっと、そう言うものなんだ!」
「・・・ボクの、気持ちを・・・」
ギャァオォォォォ・・・
「・・・ギャオス、君もそう思うのかい?あの2人の、言う通りだって。
じゃあ、やっぱり、ボクは・・・」