本編












翌朝、某所。
黒いスーツを着た筋骨逞しい男が、暗雲に覆われた空を見つめている。




「・・・来たかね!ギブミー!私は君を待っていたっ!!」




少しして、男の前にヘリコプターが着陸し、運転手がドアを開ける。
運転手は首元から垂れ下がるポニーテールがトレードマークの、美しい女性だった。




「さぁ、目の当たりにしようじゃないか!最高の「G」・・・四神をっ!!」






同刻、福江島では樹が家を出て姫神島に向かっている所だった。
あれから家に泊まって行った亨平が何故かおらず、今日は特に花嫁修業も無い日だったからだ。




「んっ?あれは?」




だが、姫神島の手前まで来た所で樹は何かに気付き、一旦足を止める。




「・・・やっぱり、この近くから気配がする。」
「じゃあ、あそこの洞窟が怪しいかな?」




この島では見慣れない、だが樹は一度だけ遭遇した事のある、自分と同年代の2人・・・憐太郎と紀子だ。
聞こえた会話内容から、2人の目的がギャオスであると察知した樹はすかさず崖を飛び越えるや、2人に詰め寄った。




「ちょっと、ここで何してるんだ!」
「あっ、すみません。僕らは・・・あっ!」
「どうしたの、レン?」
「いや、この子昨日の宿までの行きしなに見た気がして・・・とにかく、僕らは怪しい者じゃないんです!」
「私達は観光目的でこの島に来ただけです。この無人島も独特的な造りだったので、興味が湧いて立ち寄っただけなんですが・・・」
「「!?」」




本来の目的を悟られないよう、もっともな理由を付けて樹の警戒心を解こうとする2人。
しかし、紀子はふと目をやった樹の右手を見て、一瞬瞳孔を開く。



ーー・・・あれ、もしかして・・・勾玉?
それも赤い石榴の・・・朱雀の勾玉!?




樹が黄色のミサンガを使って右手首に巻き付けているのは、紛れも無い四神の勾玉だったからだ。
そして樹もまた、紀子の胸の勾玉に気付く。




「勾玉、ふーん。やっぱり、そう言う事じゃないか。あんたら、Gnosisの人?それともJ.G.R.Cとかいう人達の回し者?」
「い、いやぁ、何を言って・・・」
「いい加減バレてるんだから、正直になったら?ほら、何?その勾玉。」
「こ、これはお土産屋で買ったんですけど・・・」
「嘘を言うなっ!そんな上等な勾玉が、この島に売ってるものか!どんなに上っつらな言い訳を並べようと、ボクには分かるんだからな?昨日はリア充っぷりを見せ付けて、今日もまたボクを不愉快にする気か!」
「違います、落ち着いて私達の話を聞いて下さい。貴方、朱雀の巫子の逸見樹さんですよね?私は元Gnosis隊員の玄武の巫子の、守田紀子と言います。それから彼は能登沢憐太郎。訳あって協力して貰っていますが、玄武に力を与えられる以外は普通の少年です。」
「やっぱり、そうだったのか。噂の守護神ガメラの一番友達の少年少女、ってやつ?」
「私達の目的は朱雀の駆逐でも強奪でもありません。四神の正しい情報と、巫子を含めての保護です。なので私達は貴方や朱雀と争うつもりはないんです。だから・・・」
「そう言えば、ボクを丸め込めると思った?残念、そうはいかないよ。正義の味方気取りで逆上せあがってる人の言う事を聞く気は無いからね。」
「正義の味方気取り?それは、僕と紀子とガメラの事ですか?」
「そうだと、言ったら?」
「じゃあ、それは違うと僕は答える!僕達は気取りなんかじゃない!初めてガメラと怪獣を倒したあの日、僕と紀子の町は怪獣の火で焼けて、いっぱい人も死んだ・・・だから、もう悪い怪獣のせいで他の人がそんな目に遭わないように、ガメラと紀子と一緒に戦うって誓ったんだ!ひねくれてるだけの癖に、偉そうな事を言うな!」
「ちょっと、レン。落ち着いて。」
「あっ、そう。けどボクからしたら、やっぱりあんた達は見せ付けてるんだ。自分は「G」を正しく使っています、自分達が皆さんを守ります、だから「G」を悪く言わないで、って。でも「G」に関わりたくても関われない、望んでも無いのに勝手に守りたいからって閉じ込められる、ボクの性の違いまで「G」のせいにされて、「G」を憎めって強制される!そんな奴だって、いるんだよ!そんな奴からしたら、お前らみたいな見せ付ける連中の方が腹立たしいんだ!」
「違います、樹さん!私達は・・・」
「みんなそうやって、ボクから色んなものを奪っていくんだ!性別も、学校も、自由も!そして、ギャオスまでも!」
「僕達は他の四神や巫子と、仲良くしたいだけなんだ!なのになんで、そうやって自分を押し付けるんだ!それこそ、貴方の言う見せ付けだ!貴方は自分が嫌な事に抵抗するのを止めて、逃げて諦めただけの腰抜けだ!」
「ボクが、腰抜け?逃げて、諦めただけ?」
「僕も紀子も、何があっても逃げない!誰が立ち塞がっても諦めない!そう誓ったんだ!貴方は辛くても立ち向かったのか!最後の最後まで、戦ったのか!」
「うるさい!今会っただけのリア充が、偉そうな事言うな!」
「樹さんがお父さんから色々と強制させられていたらしいのは、私も上司から聞きました。確かに嫌で、逃げ出したくなる環境かもしれません。でも、本当に今を変えたいなら、辛くても立ち向かう意思こそが一番大切な事を、レンは教えてくれました。だから辛かった事やこれからどうしたいかを、私達に話して下さい。同じ巫子として、貴方に力になりたいんです。」




自分が内心後ろめたく思っていた事を憐太郎に追及され、激昂する樹に紀子は手を差し出す。
樹の力になりたい一心の思いが篭った紀子の手を見て、樹の目が一瞬緩む・・・が、すぐに樹の目は激怒の眼差しへと変わり、紀子の手を強く払った。




「っ!い、樹さん!?」
「紀子の優しさを・・・なんて事をするんだ!」
「勘違いしないでくれ。ボクは別に助けて欲しいなんて、言ってない!その施しみたいなのが腹が立つって、何回言ったら分かるんだよ!今を変える為にボクがすべきなのは、ボクをこんな人間にした、あいつへの復讐!それだけだ!
それにお前らはギャオスが、朱雀が見たかったんだろ?そんなに朱雀が見たいなら、今見せてやるよ・・・!
来い、ギャオス!」




・・・ァオォォォォ・・・!




樹は真紅の勾玉「祝融」を空にかざし、その名を叫ぶ。
すると周囲の空気そのものが振動し始め、姫神島のくり貫かれたような天井の穴から巨大な影が飛び立ち、暫しして樹の真後ろに降り立つ。




「うわぁっ!こ、これが・・・」
「四神・南方守護の、朱雀・・・!」




ギャァオォォォォ・・・




紅い鳥・・・朱雀ーー樹が呼ぶ今の名はギャオスーーが、憐太郎と紀子の前に現れた。
空気を揺らし、凄まじいプレッシャーを放ちながらギャオスは2人を真紅の眼光で捕らえ、紀子の勾玉を凝視する。




「・・・奇遇だね。どうもギャオスも玄武、いや、ガメラに用があるみたいだ。だから早くガメラを呼びなよ。」
「えっ?」
「いえ、ガメラは呼びません。今ここにガメラを呼んだら、それこそただの争いになる。そう思いますので。」
「そっちはそうでも、こっちは事情が違うんだ。いい加減事情の違いを理解しなよ。」
「じゃあ、そっちの事情をちゃんと言え!一方的だって、こっちも言ってるだろ!」
「ちっ、巫子でもない癖にいちいち勘に触るな、お前。なんかどうも、ガメラは危険な存在だから放っておけないって、ギャオスが言ってるんだ。」
「ガメラが、危険?」
「そうさ。今の守護神ガメラ様の姿からは信じられないくらい、おぞましい奴だったって。」
「昔はそうだったかもしれませんが、今のガメラはレンが飼っていた亀を依代にして、その亀の人格で動いています。だから・・・」
「でも『可能性』は、まだ残ってるんだろ?そのもしもが恐ろしいから、ギャオスはそう言っているんだ。それとその可能性を潰す為なら、お前らも殺せるって!」




ギャヴォォォ・・・




そう言うや樹は右手を憐太郎と紀子に向け、それと同時にギャオスは翼に付いた両手に空気を凝縮させると、真空波にして2人へ放った。




「っ!!紀子、危ないっ!!」
「きゃあっ!!」




すんでの所で憐太郎が自身の体ごと紀子を右へ弾き、真空波をかわす事に成功した。
だが、真空波はまた同時にかなりの高熱も放っており、真空波の通った後から波状に岩や雑草が煙を上げながら焼け焦げ、憐太郎の左手も軽度の火傷を負った。




「ありがとう・・・って、レン!?貴方、左手が火傷してるじゃない!」
「ううん、これくらいどうって事ないさ。紀子が無事で、何よりだよ・・・」
「ねぇ、こんな状況でいちゃつくのもどうだと思うけど?早くガメラを呼ばないと、お前ら死ぬんだよ?別にこの崖から落とせば当分死体なんて見つからないだろうし、証拠も無い。あっ、そもそもギャオスは人間だって食べれるんだ、これからに向けて餌にした方が・・・」




猛禽類の類を彷彿とさせるギャオスの口を見ながら、残酷に言い捨てる樹。
その表情からは、人殺しへの抵抗感は全く感じ取れない。




「・・・紀子、ガメラを呼ぼう。」
「えっ!?でも、ここで呼んだら!」
「争いになる、分かってる。でもあの人に僕達の言葉を伝えるには、朱雀と一緒に一回黙らせるしかないって思うんだ。一発殴らないと分からない相手だっているし、きっとあの人はそう言う人なんだ。なんか男っぽいし。」
「もう・・・レンったら不良みたいな事言って。樹さんにまた言われそう・・・だけど、強情なくらいに自分は間違ってない、それしか言わないのなら、他に方法も無いみたいね・・・」
「それに、もしガメラが本当に危険な存在だとしても、そうなったら僕と紀子で止めればいい。僕と紀子とガメラの絆は、そんなので切れたりしない。だから・・・」
「・・・うん。そうね。ほんと、レンは強い男の子になったわね。」
「よしてよ、そういう言い方。」
「でも、だからこそ・・・私は貴方を信じられる。これまでも、これからも・・・!分かった、行きましょう!レン!」
「もちろん!」
「「・・・ガメラ!」」




・・・グァヴァァァヴン・・・!




2人は勾玉をつかみ合うように手を合わせ、勾玉が緑の閃光を放つ。
それから間も無く、2人のすぐ横の海から激しい水飛沫を撒き散らしながら大きな円盤が飛び上がり、2人の後ろに着陸すると同時に周囲を煙で包む。




ヴォウァァァァォォオン・・・




そして、煙が晴れ・・・ガメラがその姿を現した。




「出たな、ガメラ・・・!思い知らせてやる、あんたらなんて所詮、見せ付けだって事を!」




ギャァオォォォォ・・・




ギャオスは強くガメラを睨み、ガメラもまたギャオスを睨む。
玄武と朱雀、北と南、向かい合わせに位置された二体の四神が一万年振りに出会い、それぞれの思惑を交えながら、今まさに戦おうとしていた。
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