本編







しばらくして、部屋を出た験司はホテルの庭先で晋と話していた。
用件は明日の朝までの退去についての事の更なる相談・・・と憐太郎と紀子には言っているが、もう一つの本当の用件を話す為に、2人が部屋で帰り支度をしている間に離れた場所で話していたのだった。




「・・・分かった。もっと観光したかったけど、紀子ちゃんが危ないのなら仕方ないね。」
「久々の旅行・・・って言うよりオレ達の手伝いをさせておきながら、すみません。」
「いいや、験司君には色々嫌な事をさせているからね。私はただ黙って知らないふりをしているだけでいいんだ、君に比べたら全然楽な身分だよ。」
「オレからすりゃ、お互い様です・・・だって、絶対晋さんの秘密の方が辛いはずだ。美愛さんの死の真実を、レンに言えないなんて・・・」
「・・・あの日、君と私で決めた事だ。全てを解き明かすまでは、どんなに辛くても口をつぐむと誓った。だから真実を解き明かすまで、憐太郎に言うわけにはいかない。」
「・・・その意地の強さ、ほんとレンは晋さんに似たんだなぁ・・・あっ、それに関して二つ分かった事があります。まず、原因は「G」ではあったんですが・・・どうもウイルスよりも小さい、今まで確認された中では最も微小な「G」によるものみたいです。まだ感染例は数える程しかありませんが、症状は全く同じでした。そしてもう一つ・・・美愛さんが感染した日に、つがる市で兄を目撃したとの情報がありました。」
「やはり、か・・・」
「だからこそ、オレが解き明かしてみせます。最初は兄に言われてなし崩しでなったGnosis隊長の座を、限界まで利用して、必ず・・・!」
「・・・ありがとう、験司君。」




怒り、使命、恐怖、羨望、そして愛情。
様々な感情がこもった、力強い目で験司は晋を見つめ、晋は返事代わりにゆっくりと首を縦に振った。



ーー・・・先輩、もし貴方が全ての元凶なのなら、その悪意に満ちた事実を今の憐太郎に伝えるわけにはいかない。
「G」と、ガメラと紀子ちゃんと共に生きようとしている、憐太郎の思いをあざ笑うような事をするわけには・・・いかないんだ。
そうだろう、美愛・・・







ーー・・・おねがい・・・
あなたが・・・まもって・・・
あいる、を・・・れん、を・・・
・・・やくそく、よ・・・?




彼女との最後の時を思い出し、晋の目頭が少しだけ濡れると同時に、あの日からの決意をより固くするのだった。







晋との会話を終えた験司は、気分晴らしに町中を歩いていた。
明日の兄との対面に向けての、頭の整理もあったのだが・・・すぐにそれどころでは無くなった。




「・・・げっ、よりによってお前と出くわすのかよ。」
「貴様、Gnosisのリーダーだな・・・!」




そう、逸見亨平だ。
彼の故郷なので可能性はあるのだが、だとしても験司にとってはいつだろうと出会いたくない人物だった。
2012年以降、亨平はGnosisが調査しそうな場所を予測しては彼らの前に現れ、妨害行為を繰り返していた。
極力Gnosisの活動は内密にしたい以上、自衛隊員である亨平に圧力をかけにくく、亨平自身も圧力程度でとても抑えられるような男では無いのは火を見るより明らかだった。




「なんだ、今日もオレ達の邪魔しにきやがったのか?それともお盆帰りか?」
「貴様には関係無い。今すぐこの島から出て行け。さもなくば貴様らの全てを世間に晒し、徹底的に糾弾してやる。」
「あのな、確かにお前は自衛隊員だから少々の手回しや融通が利くかもしれねぇ。だが、お前1人でオレ達に勝てるなんて思うんじゃねぇ。それにオレ達の邪魔をすんのもお前の子供が・・・」
「黙れ!「G」などを信奉する貴様らの話など、聞く気はないわ!とにかく、一刻も早く消えろ!俺の故郷を、これ以上土足で踏み荒らすなあっ!!」




験司の言葉を遮るように、亨平は絶叫した。
もはや人間性の不一致では済まされないその血走った目が、亨平の今の怒りの状態を指し示しており、もし刃物があれば今にも験司を刺しに行きかねない危険すら感じさせる。




「・・・はぁ、これじゃあ喧嘩にもならねぇな。明日になったら消えてやるし、お前の子供にも会わねぇから安心しろ。お前がいるんじゃ、余計にな。」
「ふん、害悪共が・・・!」




最後まで険悪のまま、2人は別々の方向へ去って行った。




「害悪はどっちだ。現実を受け入れられない、石頭がよ・・・」






ーー・・・とう、さん・・・
くるしいよ・・・
たすけて・・・





「・・・絶対に許さん・・・こんな現実、俺は認めんぞ・・・!」



亨平の脳裏に過ぎる、自分の背中におぶさりながら苦しみに耐え、助けを請う我が子の記憶。
こみ上げる激怒の感情を歯を食いしばって抑えながら、亨平は町外れの立ち入り禁止の看板が入り口に立ててある廃工場にたどり着き、工場内の半分程を占拠する巨大な機械を見上げた。





「だからこそ・・・そんな現実は、「G」は俺が壊す・・・完膚無きまでに!」
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