本編





「レン!紀子!」




と、そこへ2人の背後から声を掛けたのは特徴的なギザギザ頭の男・・・験司だった。
上層部や同業者に不審に思われない程度に能登沢家へ顔を出してはいるのだが、憐太郎にとっては幼少期、紀子にとってはGnosis所属期より会う機会が減っている分、見知ったその声に2人は嬉々としながら同時に振り返る。




「「あっ、験司兄ちゃん!」」
「相変わらずのハモりっぷりだな、じゃりん子共。折角の再会を喜びたいとこだが・・・レン、紀子。ちょっとオレ達の部屋に来てくれ。」
「いいけど、どうしたの?験司兄ちゃん、なんかよそよそしいけど・・・」
「・・・それもオレ達の部屋で話す。いいからとっとと来い。」








数十分後、憐太郎達と同じホテルの団体室。
室内には学校での雑務が残っている副隊長・光蛍を除き、Gnosisメンバーが全員集まっていた。




「しっかし、朱雀も巫子もこの島にいるのはとっくに分かってるってのに、何でか尻尾が掴めねぇんだよなあ。おかしいだろ!」
「巫子の家に『あの者』がいる限り、詳細な調査は不可能だろう。下手に動けば我々の事を告発すると言っているし、事実我々Gnosisの活動の数々が世間に明かされかねない証拠もあるようだ・・・」
「白虎の方も、いつ行っても毎回あのシスコン兄貴が俺らの邪魔して全然調査出来ひんし、最悪やでもう!」
「岸田さん、最後辺り完全に関西弁よ。でもだからこそ、紀子さんが朱雀の気配を掴めたのはかなりの躍進ね・・・今回は『あれ』さえなければなんだけど。」
「・・・弟よ、俺も個人的に調べてみたんだが・・・」
「えっ、兄者いつの間にそんな事してたの?まだここに来て1時間も経ってないのに・・・」
「・・・この島では、ダイゴロウが放送されてないんだ!何故だ!」
「こっちが何故だ、だよ!こんな時まで何調べてるのさ兄者!」





「お前ら、入るぞ。」
「「「リーダー!」」」
「それに紀子ちゃん!」
「久しぶりね、紀子さん。あとでまた軽く診察させてね。」
「お久しぶりです。診察お願いしますね、引田さん。あっ、歩さん。この前の話ですけど・・・」
「そうそう!それそれ!」
「いやいや、本件忘れんなよアニオタ共ぉ!ってか、おめぇいつぞやの坊主じゃねぇか!」
「ど、どうも。」
「いいんでっか?この子部外者じゃ・・・」
「オレと蛍が良いと判断したが、不満か?」
「い、いえ。めっそうもありません!」
「岸田さん、能登沢さんはもう紀子さんのパートナーなんだから部外者なんて言わないの!関西弁も、めっ!」
「は、はいぃっ!!」
「・・・能登沢憐太郎、13歳。中学一年生になって守田と目測ほぼ同じ身長になったか・・・メモしておこう。」
「えっ、それは嬉し・・・じゃなくて!」
「どけぃ蓮浦!この子には俺が用があるんだ!」
「ごふっ!」
「能登沢憐太郎君!守田から聞いたんだが、君は特撮が!ダイゴロウは好きか!」
「は、はい。一応毎週見てます。」
「さ、す、が、だぁ!!ならば話は早い!憐太郎君・・・いや、レン!俺がここで調査した結果なんだがダイゴロウは・・・」
「だから、お前らぁ!本件を忘れんなって言ってんだろぉ!3、2・・・」
「待て首藤!さり気無く新品一眼レフのテストをしようと・・・」
「はぁい、チィィィズッ!!」


 
一眼レフのシャッター音と同時に全員が各々のポーズを取り、その刹那に繰り出された験司による首藤への鉄拳制裁を持って、返事に再び静寂が訪れた。




「あ、あべ・・・し・・・」
「すまねぇな、レン、紀子。相変わらずのバカ共で。」
「ううん。何か、みんな変わらないままで安心した。」
「験司兄ちゃん達、凄い所にいたんだね・・・」
「さて、本題だ。いきなりだがお前ら、部屋に戻ったらすぐ帰りの支度をして、明日の夕方までにはこの島を出ろ。晋さんにはもう話してある。」
「えっ、なんで!?」
「明日ここに来るんだよ・・・土井大臣が。」
「!」
「土井大臣?」
「土井平司防衛大臣・・・つまり、防衛省で一番偉い奴で、オレ達Gnosisを発足し、直接管理している上司みたいな存在だ。明日の昼に巨大「G」出現後の現場訪問・調査の形で福岡に来る予定なんだが、それが終わったらここに来るつもりらしい。偶然ならいいが・・・もし紀子がここにいるのが分かってんのだったら、って思ってな。」
「えっ、でもその人験司兄ちゃん達の上司なんでしょ?なら・・・」
「その人に一番知られたくねぇんだよ。実はな・・・例えば半年前のあの時、紀子やガメラに使った『爾落のエキス』ってあっただろ?あれは約600年前に死んだエザヴェルって言う「反向」の爾落人の遺体を使ったんだが、遺体はその土井大臣の指示でフランス・オルレアンの土の中から見つけた。でもよ、600年も前に無造作に土の中にあった爾落人の死体を、正確な場所まで知ってるなんて、おかしくねぇか?」
「た、確かに・・・」
「その死体も確実に約600年前から誰の手も加えられてない筈なのに、今さっき死んだみたいに綺麗な死体だったの。まるで時間が止まったみたいに・・・」
「それに・・・お前ら、対「G」装備出せ。」




験司の指示を受け、Gnosis達は鞄から各々何かを取り出す。
首藤・岸田・蓮浦・引田はナイフ、角兄弟は折り畳み式の棒、験司は銃の弾丸を持っており、そのどれにも不可思議な方陣が刻まれていた。




「あれ、あの模様付いたナイフどっかで・・・?」
「全部対「G」用の装備よ、レン。蛍先生が一度だけ見せてくれたでしよ?」
「あっ、そうだった!」
「ったく、蛍の奴もあっさりと・・・まぁ、こいつらについてはそう言う物なんだが、こいつらに対「G」の力があるのは刻印されてる「G」封じの方陣があるからだ。んで、この印の元は2012年の北朝鮮民主化革命のほんの少し前に韓国に現れた、グエムルって巨大「G」が暴れた雨水処理場で見つけた札に書いてあったんだが・・・レン、これをオレ達に教えたのは誰だと思う?」
「コンドウさ・・・大臣?」
「正解だ。しかもあの『サンジューロー』が使ってたって情報までな。流浪の革命家が、ガンヘッドが来るまで「G」封じの札を使って巨大「G」と戦ってたなんて、なんで知ってんだ?そもそも未だ情報が錯綜してるこの事件のそんな細かい事実を、なんで現地に行ってないあの人が知ってんだ?・・・気味が悪ぃんだよ、あの人は・・・だからこそ、そんな人に紀子を好きにさせるわけにはいかねぇんだ・・・!」
「験司兄ちゃん・・・」




と、その時験司のガラケーが揺れ、メールを受信した事を知らせた。
それだけでメールを送って来た相手を悟った験司はすぐにガラケーを取り、内容を確認する。




「あれ、験司兄ちゃんメール?」
「蛍さんから?」
「えっ、そうなの!?よく分かったね、紀子?」
「これは任務の時に使うガラケーで、情報が外部に流出しないように本体以外にメールや着信の記録が残らないようになってるの。それでここにいないのは蛍さんだけだから、って思って。」
「ご名答だ、紀子。どうやらお前を探してる奴がつがる市にいたらしい。」
「やっぱりね・・・」
「ある意味、守田をここに呼んだのは正解だったと言う事か。」
「俺もショックだ・・・」
「そうだよね、兄者。せっかく紀子ちゃんが自由になったと思ったのに・・・」
「明日の朝はダイゴロウタイムなのに、リアルタイムで見れないとは・・・」
「いや、そう言う問題じゃないよ兄者!録画してるんだから帰れば見れるでしょ!」
「お前も首藤みたいに黙らされてぇのか!・・・まぁ、それであいつも明日の朝までにここに来るそうだ。」
「えっ!蛍さん、来るんでっか!」
「岸田さん、関西弁喋ってるって気付いてる?」
「まさか光先生も来るなんて・・・びっくりだなぁ・・・」




一同が蛍の突然の合流に驚く中、紀子は験司に近付き、ガラケーの画面を見る。




「・・・験司兄ちゃん、蛍さんが来る理由って私の安否だけじゃないよね?明日、平司さんが来るから・・・だよね?」
「・・・はぁ。巫子になったら推理力まで上がるのか?まぁ・・・そうだ。土井大臣と対峙するオレの支え棒になりに行くつもりらしい・・・ったく、オレはそんなヤワな奴じゃねぇってのによ。」
「ふふっ。分かってる。でも私の方がレンより験司兄ちゃんと一緒にいたんだから、それくらい分かるよ。」
「まっ、確かにそうだな。」




「・・・んっ!ん~っ・・・あれ、まだ朝じゃねぇのか?」
「「「・・・起きた。」」」
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