本編







「父さん、僕と紀子の荷物降ろし終わったから、紀子と海岸見に行きたいんだ!いいでしょ?」
「はいはい。行って来ていいよ。」
「やった!ありがとう、父さん!じゃあ行こっ!紀子!」
「分かってるから、そんなに急かさないで。それじゃあ、後はよろしくお願いします。」
「大丈夫。楽しんで来ておいで。」




1時間程過ぎて、宿泊先のホテルに到着した憐太郎達は自分の部屋での荷物の整理を終え、憐太郎と紀子は絶景を見に足早にホテルを去って行った。
何時にも増して元気な息子と、彼に感化されるようにここ半年一番の微笑みを見せる娘代わりの背中を見送りながら、晋は1人思いにふける。




「・・・美愛、空の彼方から見てるか?憐太郎はもう、誰の心配いらないくらいに元気になったぞ。しかも、私にも分け隔てなく・・・亜衣琉も今の憐太郎を見たら、きっと喜ぶよ。あとは紀子ちゃんがいつ、本当に我が家に馴染んでくれるかだけど・・・なに、絶対大丈夫。憐太郎が私に心を開く日が来てくれたんだ、時間がきっと、紀子ちゃんの心の傷を癒してくれるさ。」


ーーそれにしても・・・亨平は今この故郷にちゃんと帰っているのだろうか?
樹・・・君がここにいるのに・・・






一方、海岸に着いた憐太郎・紀子は大きく平らな岩に座り、どこまでも広がる海を見ていた。
ちなみに姫神島はここからもっと南西の方角にあり、島民も全く寄り付かないような無人島であるので、絶景に夢中の2人は存在すら知らない。




「・・・凄いね、紀子。」
「うん・・・もし空が飛べたら、あの水平線をいつまでも飛んで行けそう・・・」
「ガメラに頼んで、連れて行って貰う?」
「駄目よ。ガメラが本当に必要な時は、巨大「G」が現れた時なんだから。」
「でも、ガメラもずっと寝てたら暇だと思うんだけど・・・」
「実はね、レン。玄武になる前から、ガメラって寝るのが好きだったの。レンと別れてからも私がちゃんと世話してたし、レンといた頃もその兆候ってあったわよ?」
「・・・そういえば、半年前に僕が世話してた時も寝てる時が多かったかも・・・」
「でしょ?それに眠っている間にも体にガイアの「G」のエネルギーを貯めているの。だから変に起こして元々のエネルギーが足りなかったら、苦戦しちゃうわ。」
「そうなんだ・・・じゃあ、ガメラは寝るのも仕事なんだね。」
「まぁ、そういう事かな。」
「うーん、こうして僕も紀子とガメラの力になってるつもりだけど、まだまだだなぁ・・・」
「そんな事ないわ。私にとってもガメラにとっても、貴方の思いの力は必要不可欠。もしレンがいなかったら、クモンガや昨日現れたジーダス・・・他の戦いもきっと勝てなかった。私が痛みに耐えられるのも、ガメラが全力以上の力を出せるのも、レンがいるから。あの日、レンが玄武を『ガメラ』にしてくれたからなのよ。」
「紀子・・・」
「私がレンの家に来てすぐの頃、私に言ってくれたよね。『私が巫子になった事には、必ず意味がある』って。なら、私の隣にはレンがいて欲しい。貴方の思いを隣で感じて、貴方の力があって完成する答えなの。それなら私、どんな理由があってもきっと受け入れられる。それに私、強くなんてないんだよ?貴方は晋さんとのわだかまりを乗り越えられたけど、私はまだ、お父さんとお母さんとの・・・」
「・・・じゃあ、父さんを『父さん』って呼ぶ練習をしようよ!」
「えっ?」
「あっ、分かりにくくてごめん・・・僕の父さんを『父さん』って呼ぶ練習さ。だって、父さんはこんな僕でも仲良くなれた人なんだ。今なら分かるんだ・・・ずっと避けてた僕をずっと愛してくれた、父さんの凄さが。そんな父さんなら、紀子にとって『父さん』にもなれる!絶対大丈夫!」
「レン・・・ありがとう。いつも私を信じてくれて。そうだね・・・頑張ってみる。」
「うん!紀子ならできるよ!だって、僕の大好きな紀子なら出来るって信じてるからね。」


ーー・・・不思議。
レンにそう言われると、根拠もないのに出来るって思える。
まるで、魔法にかけられたみたいに。
いや・・・根拠なら、ここにある。
だって、世界で一番愛しい人がそう言ってくれているんだから・・・


「そうだ、紀子。『朱雀』はいそう?」
「・・・ほんのわずかだけど、気配はする。多分、私がガメラと遠くから話してるくらいの感じだから、詳しい場所は分からないけど・・・今、きっと巫子とそう遠くない所で交感してるわ。」





翡翠の勾玉を胸元から出した紀子は目を瞑り、意識を集中させて自分と同じ気配を察知する。
紀子達がここ福江島に来たもう一つの目的・・・それは昨晩四神の一体である「朱雀」の気配を感じたからであった。




「そうか・・・でも、もし朱雀が見つかったらガメラの、僕達の味方になってくれるのかな?」
「分からない・・・・既に覚醒して竜宮(いせみ)島にいる青龍は新しい巫子の影響でおとなしくしているけど、朱雀は四神の中で最も危険な存在と伝えられているの。一説では、アトランティスを滅ぼした原因だとも取れる古文書の記述や伝承が伝わっていたりするし・・・」
「・・・もし、それが本当だったら怖いね・・・ガメラも紀子もどうなるか、分からないかもしれない・・・けど、巫子が紀子みたいに優しくって強い子だったら、同じ悲劇は繰り返さないはず。だから巫子に会って、四神同士で争いにならないように話さないとね。」
「・・・そうね。レンの言う通り。だからこそ、早く見つけないと。Gnosisの調査では一応巫子は発見してるはずなんだけど・・・」
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