本編
ジイィグオォォォォヴゥ・・・
ジーダスは瓦礫を乱暴に撥ね除けて起き上がり、食事を妨害したガメラに向けて襟巻を広げると、咆哮と併せてガメラへの威嚇行動を取る。
グァヴウゥゥゥヴァァン・・・
しかし、ガメラがその程度の威嚇に怖じ気づく訳が無く、自分の欲望のままに人々の平和を乱したジーダスを睨み、正義の叫びを上げる。
両者共に、臨戦態勢が整った様子だ。
「向こうも戦う気みたい・・・だけど!」
「ガメラ!あいつを絶対に許したら駄目だ!僕達で、倒すんだ!」
ヴォウァァァァォォオン・・・!
憐太郎と紀子の思いを受け、ガメラは口を開いて灼熱の火炎を吐いた。
火炎はジーダスに直撃し、瞬く間に全身に回った炎がジーダスの体を焼いて行く。
ジグヴゥゥ・・・
炎を苦手とするジーダスはこの火炎攻撃から逃れようと、全力で背後目掛けて跳躍し、火炎を振り払った。
ガメラは続けて火炎噴射を吐くが、ジーダスは火炎が届かない範囲からガメラの周囲を疾走し、ガメラの狙いを撹乱する。
「す、素早い・・・!ガメラの反応が、全然追いつけてない・・・」
「ちくしょう!逃げてばっかりで、卑怯だぞ!」
埒が開かないこの状況を打破しようと、ガメラは瓦礫を力強く踏みしめながら、逃げるジーダスへ向かって行く。
だが、ジーダスはガメラの接近は許さないとばかりに、突如立ち止まると口から錨のように鋭い紫色の舌をガメラ目掛けて伸ばした。
突然の反撃にガメラの回避行動は間に合わず、ガメラの右肩は錨の舌に貫かれ、悲鳴と共に緑色の血が噴き出す。
「うあっ・・・!!」
「紀子!ガメラ!」
ガメラの傷と痛みは巫子である紀子にも反映され、激痛から紀子は右肩を手で抑えながらうずくまった。
服の色で分かりずらくはあったが、紀子の右肩にも傷ができ、赤い血が服を染める。
「紀子、大丈夫!?」
「う、うん・・・これくらい、ガメラの辛さに比べたら・・・」
グァヴウゥゥゥヴァァン・・・
ガメラの右肩から舌を戻し、ジーダスはすぐさま舌を伸ばしてガメラの左肩を狙う。
しかし、何としても二度目の攻撃は受けまいとガメラは素早く腰を落とし、姿勢を低くする事で舌を回避した。
腹を狙った三度目の攻撃も、足からのジェット噴射で空中へ飛び、すんでの所で避けつつ、火炎噴射でジーダスを牽制する。
「よし!そのまま行くんだ!ガメラ!」
「だけど、あの距離を保たれたままじゃ反撃は出来ないわ・・・せめて、もっと遠くまで届く攻撃方法があれば・・・」
「もっと遠くまで・・・ガメラのジェットを全力にしたら、光線みたいになるかな・・・?」
グォウウウウウ・・・
憐太郎がふと呟いた一言・・・その言葉に、ガメラが反応した。
ガメラは着地し、今度は両手を甲羅の中に引っ込める。
すると両手がしまわれた穴の中から橙色の光が漏れ出し、みるみるうちに光の勢いを増して行く。
ジイィグオォォォォヴゥ・・・
ガメラが自分に向かって何かをしようとしている事を悟ったジーダスは背後へ跳躍し、ガメラと更に距離を取ろうとする。
しかし、ガメラにとってはジーダスが攻撃を止める事こそが一番の狙いであり、それは同時にガメラがジーダスの遠距離戦術を打ち砕く技を編み出した事を意味していた。
ヴォウァァァァォォオン・・・
ジーダスを眼光の先にしっかりと捉えたガメラが吼えた、その時。
ガメラの両手の穴から、火花と共に黄色い熱線が放たれた。
二つの熱線はまるで地を這う蛇のように激しくうねりながら、瞬く間にジーダスへ向かって行ったかと思うと、今まさに着陸しようとしたジーダスの体の両脇に直撃した。
ジィグヴゥ・・・
灼熱の熱線を浴びたジーダスの体は煮えたぎるマグマを浴びたかの如く焼けて行き、ジーダスは悲鳴を上げて地面に倒れ込む。
ジーダスが動きを止めたのを逃さず、ガメラは再びジーダスへ歩み始めた。
「やった!!」
「超高熱の、光線・・・スピードも到達距離も凄い!レン、あの技はもしかして貴方の言葉を聞いて閃いたガメラが新しく出した技じゃないかしら!」
「ほ、ほんとに!?じゃあ、あの技は燃えるジェットの光!『バーナー』だ!行けぇ!ガメラ!」
ガメラはまたしても距離を取ろうとするジーダスにバーナーを放ち、力のままにジーダスを福岡ドームに叩きつけた。
体中が爛れながらも三度起き上がったジーダスは全力でガメラの背後に目掛けて疾走し、急停止して道路を滑りながら槍の舌をガメラへ伸ばす。
だが、ガメラは腕を振り上げた体勢で体を左へ逸らして舌を回避し、肘から暗器「エルボー・クロー」を出すと、そのままクローでジーダスの舌を叩き切った。
紫の血を噴き出しながら舌は弱々しくジーダスの口に戻り、舌を失った激痛からジーダスの動きが鈍くなる。
「よし!今だ、ガメラ!エルボーロケットっ!!」
「クロー、でしょ。」
ガメラはクローを出したまま足からジェットを噴射し、ジーダスへ飛んで行った。
もはや今のジーダスにガメラを翻弄する俊敏さは無く、ガメラの両肘からの双撃がジーダスの胸を切り裂き、血を辺りに撒き散らしながらジーダスは悶える。
追い討ちの火炎噴射もまともに受け、自らを脅かす敵への敵対心だけで立ち、焼けて黒く変色したボロ布のような襟巻でガメラを威嚇するジーダスに、反撃の余力は残されていなかった。
「覚悟しろ、怪獣!行こう!紀子!ガメラ!」
「ええ!ガメラ・・・!私とレンの思いを、力に!」
勾玉からの閃光に包まれる、憐太郎と紀子の高ぶる意志を受け、ガメラの腹の紋章から炎がたぎり、ガメラの全身が火炎に覆われていく。
「ブレイ!インパクトーーーッ!!」
そしてガメラはその身の炎全てを一つにし、烈火球「ブレイ・インパクト」として発射した。
烈火球は敵へのあがきを続けるジーダスを貫き、ジーダスの体を炎で焼き消して行く。
ジィグオォヴゥ・・・!
断末魔の叫びだけを残し、ジーダスは跡形も無く爆炎の中に消え去って行った。
それをかき消すガメラの咆哮が、この街から恐怖が無くなった事を人々に示した。
ヴォウァァァァォォオン・・・
「やっ、たぁ!!やったよ、紀子!ガメラ!」
「うん・・・ありがとう、レン。ガメラ。」
ガメラとジーダスの戦いを見守っていた人々も、続々と瓦礫の山の陰から姿を現し、街に平和を取り戻した者の勇姿を目に焼き付ける。
「あれが、玄武・・・」
「玄武じゃないよ~?『ガメラ』だよ~!」
「ガメラが私達を助けてくれたわ!やっぱり噂は本当だったのよ!」
「あぁ、守護神様・・・ありがたや、ありがたや。」
「つよいぞ、ガメラ!つよいぞ!ガメラ~!」
ガメラを称える人々の声を背に、憐太郎と紀子を右手に乗せたガメラはジェット噴射で夜空の彼方へ飛んで行く。
「・・・ありがとう、みんなの守護神!ありがとう、ガメラ!」
ガメラに命を救われた少女は、両親の温かい手の感触を肩に受けながら、ガメラが見えなくなった後もいつまでも空を見上げていた。