本編
「・・・ガメラ、お願い・・・!」
何処かから聞こえる、祈りを捧げる少女の声。
すると握られた少女の掌から、緑の光が瞬く。
そして、その光が深き水の底で眠っていた大いなる存在を呼び起こし、「それ」はゆっくりと翠の瞳を開いた・・・
・・・グァヴァァァヴン・・・!
「に、にげろぉぉぉぉっ!!」
ジイィグオォォォォヴゥ・・・
2017年・夏。
九州最大の街・福岡は巨大な影への恐怖と悲鳴に包まれていた。
ジイィグオォォォォヴゥ・・・
業火が映し出す、この街を一変させた異形な生物の姿。
やや曲がった二本足と、鋭い爪を掲げる二つの手。
背中からしなやかな尾の先にまで不規則に生えた、木板のような棘。
爬虫類独特の皮膚を染める、毒々しい色の体を左右に動かし、獲物を探す非情な眼差し。
この、南国の蜥蜴に似た姿をした巨大「G」の名はジーダス。
博多湾から福岡市に上陸したジーダスは好物である人間を求め、街を破壊しながら逃げ惑う人々を喰らっていた。
「た、助けてぇぇっ!!」
「嫌だ・・・嫌だあああああっ!!」
「がぁぁぁぁぁぁ!!」
追い詰められた人々の決死の叫びも、全てジーダスが飲み込んでしまう。
だが、ジーダスの尽きぬ欲求は未だ満たされぬ事は無く、次の見境無き欲望の眼光の矛先は、小さな少女に向けられた。
「ひ・・・ひぅっ・・・!」
ジーダスの足の爪の間に捕らえられた少女は、恐怖の余り悲鳴を出す事も出来ず、声を引きつらせた嗚咽を繰り返す。
「やめてぇ!!その子を離してぇっ!!」
「ば、化け物っ!!食べるなら、俺を食べろ!!だからっ!茉姫だけはっ!!」
ジーダスのすぐ右隣で、少女の両親が目の前の怪物へ必死に懇願するが、ジーダスにただの獲物でしかないこの2人の言葉を聞く気は毛頭無かった。
何故ならば、子供の後に両親を喰らえばいいだけの話だからである。
ジイィォヴゥ・・・
ァォォオン・・・!
・・・が、空に浮かぶ雲の彼方から、ジーダス目掛けて真っ直ぐ向かって来る巨大な影が一つあった。
空を切る音と共に「それ」はマッハを超えるスピードを全く落とす事無く、雲を裂いて業火の中のジーダスへ突っ込んで行く。
ジイィグオォォォォヴゥ・・・
一方ジーダスは頭を上げ、遂に捕らえた獲物を喰らおうとしていた。
両親は驚愕の余り声を失い、少女は迫る最期への恐怖に両手で頭を抱え、下を向いて本能的な自衛行動をとる。
「・・・っ!!たすけて・・・がめら・・・!!」
弱々しく、震える声で少女が呟いた・・・その瞬間。
突如としてジーダスの体が左横へ吹き飛び、勢い良く宙を舞った後、ビルの瓦礫に叩き付けられた。
ジグヴゥゥ・・・
更にジーダスが立っていた場所に大きな円盤状の「何か」が降り、四つのジェットを噴射して静止すると、地響きを起こして別の姿を現した。
グァヴウゥゥゥヴァァン・・・
腹に炎の刻印を宿す、玄の体に背負った緑の甲羅。
噴射口を付けた太い足と手と、少女を守る尾。
そして振り返りざまに少女を覗き込む、翠の瞳と一対の鋭い牙が生えた口を持った、優しげな顔。
「が・・・ガメラ!!」
ヴォウァァァァォォオン・・・
そう、この巨大「G」は昨年の秋に永き眠りから目覚め、人々の平和を脅かす日本中の巨大「G」と戦っている守護神。
アトランティス文明の遺産にして、四方の象徴・四神の北方守護を司る「玄武」・・・またの名を、ガメラ。
「君、大丈夫!?怪我してない!?」
「怖かったよね・・・でも、もう大丈夫よ。1人で歩ける?」
「は、はい・・・」
「あそこにいるのが、君のお父さんとお母さんね。」
「じゃあ、僕達と一緒に行こっか。」
「あ、ありがとうございます・・・!」
続いて少女に駆け寄ったのは、ツンツンとした髪型の少年と、緑の勾玉を首から掛けた赤い服の少女だった。
少年の名は能登沢憐太郎。
少女の名は守田紀子。
2人は玄武・ガメラを覚醒させた張本人であり、紀子は胸の勾玉を介してガメラに力を与える巫子、憐太郎は紀子とガメラの支えとして同行しているが、彼もガメラの「友達」として力を与えられる存在である。
「この子のご両親ですね?」
「この子なら無事ですよ。さぁ、行っていいよ。」
「う、うわあぁ~んっ!!」
「まきぃっ!!良かった・・・良かったぁ・・・!!」
「茉姫を助けて頂いて、本当にありがとうございます!!」
「あ、あれ?君達も子供じゃないか!」
「あなた達は・・・?」
「私とレンですか?」
「僕と紀子は・・・友達なんです。ガメラの。」