‐GetterⅡ‐ 逸見樹のある一週間









アレクと別れた後、下校したボクはまっすぐ家に帰って父さんと、つかの間の家族の時間を過ごす。
明日までには絶対帰らないといけないから、過ごせたのは二時間もなかったし、父さんがあまりにも流行りとかサブカルに疎くて話題を考えるのが大変だったけど、それでもボクにとっては最高の時間だった。






「「「・・・いただきます。」」」




それと、最後に「花嫁修業」としてボクが作った五島うどんを、晩ご飯として家族揃って食べながらの「テスト」。
この前はアウトだったけど、恐れも迷いも迷いも捨てて、満ち足りた心のままに作った今日の五島うどんなら、きっと大丈夫。




「・・・美味しい。樹、会わない間にここまで料理の腕が上達していたのか?」
「まぁ、一応ね。でもボクにとっては、じいちゃんから認められないと意味は無いんだけど・・・」
「・・・うむ、ワシとしてはまだちょいと柔らかめに感じたが・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・いい加減結論を言え、親父。」
「なんじゃ、客人の亨平の方がシビレ四尾連(しびれ)湖を切らしよって。みのタメを知らんのか?」
「なんだ、それは!」
「一昔前のクイズ番組ネタだよ、父さん。」
「結果なら、合格じゃ!」
「ほんと!?やった!ありがとう、じいちゃん!」
「だから、結果が出ているなら早く言え!」
「何事も、焦ってはならんと言う事じゃ。樹の方が分かっとるな?」
「焦らせたのは親父だろう・・・」
「それで本当に、合格でいいの?」
「あまちゃん判定じゃがの?まぁ、ワシからすればと言うだけで、亨平のような普通の人には全然問題無いわい。じぇじぇじぇ~!」
「ふふっ、なんせ今日のボクは素敵で無敵、らしいから。」
「・・・いつから大喜利会場になったんだ?この家は。」
「それは良い事じゃ!今日の学校も、そんな感じで過ごせたと言うなら、何よりじゃよ・・・ビバ!アレクサンドル君!」
「だからアレキサンダーだって、もう。アレクでいいし。あっ、そうだ。実はボク、アレク以外にもう1人友達が出来て・・・」








それからしばらくして、父さんが帰る時間が来た。




「・・・樹、お前は自分の成すべき事を自分で出来る『強さ』をもう持っている。本当の『強さ』を持ったお前なら、絶対に『優しい人』になれる・・・それをこの目で確かめてやれないのがもどかしいが、お前には親父やアレク君に太田君・・・それにギャオスが、俺がいる。例え何処にいようとも、俺はいつでも信じているぞ。」
「うん。ありがとう・・・父さん。」




良かった、父さんへの憎しみを捨てられて。
良かった、能登沢一家とじいちゃんとギャオスがいてくれて。
良かった、アレクと太田さんが友達になってくれて。
良かった、父さんがボクを受け入れてくれて。
良かった、母さんがボクを産んでくれて。
もしかしたらボクの人生で一番、幸せを感じてるかもしれない。
そんな今のボクなら、胸を張ってこう言える。
「優しい人」になる、って。




「いっテキーラじゃ!亨平!」
「ああ、樹の事は頼んだぞ。親父。
樹、では行ってくる。」
「いってらっしゃい。父さん。」








あっ、それから渡辺とよせあつめブラザーズだけど、父親が自衛隊員だと分かったからか特に何の反撃も報復もして来る事は無く、地方のニュースで報道されただけで「最低なヤツら」と言う風評は瞬く間に島中に伝わり、家族揃って白眼視され続けた結果、一週間くらいして全員この島を出て行った。
まさに「島八分」と言うか、まぁ誰がどう見ても因果応報でしか無いし、正直ざまぁみろって思うのと同時に、償わずに逃げやがった、と思ったりもした。
でもボクとしては、ギャオスに知られなかっただけいいと思って欲しいけどね・・・きっとギャオスが知ったなら、あいつらを地球の裏側まで追い詰めて、切るか喰うだろうから。Kill(キル)なだけに。
・・・って、なんかじいちゃんみたいな事言っちゃった。
こんな事が言えるのもきっと、じいちゃんと父さんと・・・アレクがいるから、かな?
あっ、そうだ。ギャオスに聞かないと・・・母さんみたいな人になれれば、ボクが「優しい人」になれるかどうか。
双子の「妹」達にとってボクは、ちゃんと「お兄ちゃん」になれてるか。
それと・・・明日の事について、ね。
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