‐GetterⅡ‐ 逸見樹のある一週間









家に帰って来て、じいちゃんに今日の事を全部話して、目一杯慰めて貰って・・・やっと落ち着いた頃、アレクがボクの鞄を持って家に来た。
でもボクはまだ、アレクと顔を合わせたくなかったからじいちゃんだけが出て、少し話した後にアレクは帰って行った。
ほんと、最悪だ。ボクを助けてくれた相手に、会いたくないって言って突き放すなんて。
ボクはやっぱり「優しい人」には、なれなかったみたいだ・・・




「ほれ、樹。忘れ物じゃ。」
「ありがとう、じいちゃん。」
「いやいや、お礼ならワシじゃなくてアレキ・・・なんちゃら君に言わんとな?そうそう、そのアレキなんちゃら君が言うには、クサれ4人衆がお前さんに悪意を持ってあんな事をした『証拠』があったみたいでの、アレキなんちゃら君は一応3バカ共を殴った罰で明日、クサれ4人衆は一週間の謹慎処分になるそうじゃが、お前さんは何にも悪くないと言う事になったそうじゃよ。」
「そうなんだ・・・」
「それで明日、クサれ4人衆が親と一緒にお前さんと、アレキなんちゃら君に謝りたいそうじゃが・・・学校、行けそうかの?」
「・・・分からないけど、なるべく行くよう努力する。」
「そうか。まぁ、無理はせんでな。それで、樹に一つ話しておかなければならん事が出来たんじゃが・・・」
「えっ?」




そしてボクはじいちゃんから、とんでもない事を聞いてしまった。




「これはあんまり、話したくはなかったんじゃが・・・ワイフ、琉南(るな)は元は沖縄産まれでな、ちょうど樹くらいの頃に第二次世界大戦末期の『沖縄戦』に巻き込まれてしもうて、沖縄全土が連合国軍に占領された後・・・米兵から、犯されたんじゃ。」
「えっ・・・!?ばあちゃんが!?そんな事、父さんからも聞いた事無いよ!?」
「亨平にも話しとらんからな。琉南共々、話す必要は無いと思っとったからの・・・じゃが、今日の事を聞いて話さずにはおられんくなった。まさか、樹まで似たような目に遇うなんて・・・神様は、なんと残酷なんじゃ・・・!」
「・・・それで、ばあちゃんは沖縄を離れて大阪の泉佐野に行った、って事?」
「じゃな。沖縄におると、どうしてもその時の事を思い出すから、と言うとった。それで、高度経済成長期に出稼ぎに来とったワシと出会って、結婚する直前にワシもその事を知ったんじゃ。ワシも呆然としたが・・・ド忘れが激しい今でも、その時に言った言葉をはっきり覚えとる。」
「なんて、言ったの?」
「『俺が、嫌な事は全て忘れさせてやる。だから一緒に、色んな事を愛してみよう』、とな。その言葉が、マリッジブルーになっとった琉南に届いて、結ばれたと言うわけじゃ。じゃからの・・・琉南がワシと出会ったように、きっと樹にも嫌な事を忘れさせてくれる、素敵な人が見付かる。結婚する気なんてさらさら無いと言っとった亨平ですら、夕和さんと言う素敵なワイフと運命的に出逢って、結ばれたしのう。」
「・・・ボクにそんな人、見付かるかな?」
「見付かる!絶対にじゃ!神様なんて信じなくっていい。ワシらの・・・お前さんが信じる人の事だけは、信じとればええ。信じる者は救われる、と言うしのう?」
「ふふっ・・・いやそれって神様を信じなさい、って言葉だよ?それにキリシタンばかりのここで神様なんて信じなくていい、って不味くない?」
「いいんじゃ!信じるものは人それぞれで。心の支えになればええんじゃからのう・・・
あとな、男だって泣きたい時は泣けばいいんじゃぞ?樹。ワシも琉南が逝った時、一日中涙が枯れ果てるくらい泣いたわい・・・いつも笑顔で、と言っとるが・・・今おるのは、ワシだけじゃぞ?」
「・・・ありがとう、じいちゃ・・・
じいちゃああああん!!」
「おー、よしよし。こうしてお前さんをあやすのは、いつ以来じゃったかのう?」
「こわかった・・・!こわかったよぉ・・・!!」
「当然じゃ。樹が、琉南がされたのは、人間が異性に対してやる最低最悪の事じゃからの・・・!じゃが、人間みんなを嫌いになってはいかんぞ。アレクサンドリア君のような、良い子じゃっておるんじゃから。」
「アレキサンダー、だってぇ・・・!でも、アレクがいてくれて・・・よかったぁ・・・」
「そうじゃ。アレク君を、大切にな・・・」




その後、ボクはじいちゃんの胸で覚えていないくらい、泣き続けた。
涙が・・・恐怖が、悲しみが、ボクの中から枯れ果てるまで。
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