‐GetterⅡ‐ 逸見樹のある一週間











水曜日。
学校では特に何も無かったけど、夜に紀子から電話が掛かって来た。




『学校、どう?上手くやれてる?』
「まぁ一応、って感じ。毎日話し掛けて来るクラスのリーダー的な男子は1人いるけど、それ以外はそれなりにやれてるかな?紀子はどうなの?憐太郎との関係を隠しながらだから、難しいと思うけど。」
『そう、ね・・・私も個人的にはそれなり、かな。』
「個人的には?」
『うん。同世代の子と話すなんて、今まで全然経験無かったから、私は結構戸惑いながらやっているんだけど・・・周りは私が美人とか綺麗とか優等生だとか言って騒ぎ立てて、結果的に人気者になってるみたいな感じで・・・あっ、決して自慢話じゃなくて・・・』
「分かってる。むしろ一方的に周りが囃し立てるから迷惑に思ってるとこ、あるでしょ?」
『・・・正直。そうそう、それに関係してちょっと樹に相談したい事があって・・・』
「ボクに?どうしたの?」
『えっと、そうやって変にチヤホヤされ出してから、同級生の2年や後輩の1年だけじゃなくて、先輩の3年生の男子からも声を掛けられる事が増えて来たんだけど、この前態度が悪い事で有名な男子の先輩がしつこく絡んで来た時、いきなり教室にレンが来て・・・』








「・・・止めて下さいよ。守田さん、困ってるじゃないですか。」
「レ・・・能登沢君!?」
「あぁ?お前は引っ込んでろ。今オレは紀子ちゃんと取り込み中なんだよ。」
「でも明らかに迷惑そうですけど、見て分からないんですか?」
「うるせぇなぁ!先輩が引っ込んでろ、って言ってんのが分かんねぇのか!これ以上うぜぇ真似するならぶん殴んぞ!殴られたくねぇなら消えろ!」
「・・・どうぞ?殴った時点で、先に手出した先輩の負けですから。言っときますけど・・・俺は先輩が帰るまで、やめろって言い続けますから。」
「能登沢君、私は大丈夫だから一旦帰って。もうすぐ昼休みも終わるし・・・」
「大丈夫じゃないから来たんだけど・・・」
「オレは大丈夫じゃねぇなぁ?折角紀子ちゃんと楽しくお喋りしてたってのに、クソ生意気な後輩がうぜぇんだよ!なぁ?お前らもそう思うよな?」
「「「・・・」」」
「・・・うぜぇのはお前だろ、『紀子ちゃん』とか気持ち悪い呼び方しやがって・・・」
「おい、今てめぇ何ボヤいた?」
「なんでも?それより先輩、帰る気になりました?」
「だまれってんだよ!この餓鬼!!」
「・・・今、なんてった?」




先輩はそう言って、レンに殴り掛かったんだけど・・・レンは先輩のパンチをかわして、勢い余って机に倒れた先輩の胸ぐらを掴んで・・・




「なっ・・・!?」
「今、『餓鬼』って言ったな?意味分かって使ってんのか?『餓鬼』って地獄にいる鬼だぞ?罪人の服や肉を剥ぎ取る常に飢えた鬼だぞ?それを分かってて、俺をそう呼んだのか!?どうなんだ!!」
「う、うぜぇ事言ってんじゃ・・・」
「うせぇのは、どう考えても紀子にべったり纏わり付いてるお前だろ!!自分勝手にギャーギャーわめいてるお前の方がどう考えても『餓鬼』だろ!!分かって無いのはお前だろ!!」
「っ!!て、てんめぇ・・・!」
「・・・まぁいいさ、俺が鬼扱いされるのは。紀子を守れるなら俺は鬼にも、悪魔にだってなってやる・・・そしたらお前みたいな奴、一撃で黙らせられるしなぁ!!」
「レン、駄目!!お願い・・・もうやめて、レン・・・!」
「のり・・・ごめん。」




私が止めて無かったら、多分レンが先に先輩を殴ってたかもしれない・・・それくらい、あの時のレンは怒ってた。
その後、遊樹君と城崎君が先生を連れて来て、明らかに先輩が悪いからって事でお互いに厳重注意で済んで、それ以降は多少私とレンの関係が噂になったくらいで、私に言い寄る男子は全然いなくなった。
レンもあの後、一応呼び出されたお父さんとの帰り道で、色々言われてから大人しめになったんだけど・・・






「紀子が嫌な男に絡まれて嫌な気持ちは、私も分かるけど・・・脅迫まがいの暴言は感心しないな、憐太郎。」
「でも、クラスの誰もあいつを止めなかったし、先生すらぼ・・・俺にまずとやかく言って来たし。だから俺が、紀子を守らないといけないんだ。もっと強くなって、土井平司なんかからも・・・」
「それでも、正しい事をしたとしても・・・守りたい相手から正しいと思われないやり方をしてしまえば、それはもう意味が無いんだ。分かるね?憐太郎には、何事も力ずくでやって欲しくは無いんだ・・・昔の私や亨平のように。」
「・・・何か、凄く説得力ある。ごめんなさい。」








「・・・へぇ、まさかの二学期デビューってわけ?」
『あの後から急に体を鍛え始めたり、自分の事をちょっと無理して「俺」って言い出すようになったんだけど、まさかここまで過激な事を自分からするなんて・・・お父さんはもしかしたらお母さん、美愛さんの血が入っているからじゃないか、って言ってた。私は覚えて無いけど、美愛さんは何かに抑圧されるのが一番嫌いで、目的の為なら手段を選ばない意外と過激な一面もあったらしいから。』
「まぁそうかもしれないけど、絶対お父さんの血も入ってるよね?この前いきなりボクの父さんを殴ったみたいに、いざとなったら実力行使する所とか。」
『私もそう思う・・・それで相談なんだけど、レンの事を止めた方がいいのかな?このままだと、前までの優しいレンじゃ無くなる気がして・・・』
「うーん・・・ボクとしては、やっちゃいけないと内心分かってるけど、そうしなきゃ堪らないくらいの決意があるからやってる所もあるんだろうし、もし痛い目を見るような事をしてるなら、相応の時に痛い目を見るだろうから、ほっといてもいいんじゃない?防衛大臣から絶許扱いされたら、そりゃ意地張ってでも強くなろうとするし、あいつの心はそんな事できっと淀まない。似たような事して痛い目見たボクが、保証するよ。」
『ふふっ、そうかもね。でも分かった、取り返しの付かない事をしそうになったら止めるけど、それまでは見守ろうと思う。遊樹君や城崎君、それにお父さんもいるし、レンをこんな事に巻き込んだ責任は私にあるから、私だってレンを守ってみせるわ。ありがとう。』
「ううん。まぁ、「G」やガメラが無くったって憐太郎は君と再会した時点で君を守ろうと、強くなろうとして結局二学期デビューしてたと思うし、最強のストッパーが君なのも一緒かな?」
『一応私、「守田」だしね。』
「と言うかさ、かなりやらかしたのを分かっててボクに、電話で相談して来てるよね?」
『・・・バレたか。』








それから1時間くらい雑談して、電話は終わった。
憐太郎が前までのボクみたいに、なりかけてるのは驚いたな。まぁ反抗期には入ってるし、「男」ってそう言う生き物なのかもしれない。
「男なら誰かの為に強くなれ、歯を食いしばって思いっきり守り抜け」、って何かの歌であったし。
・・・そう言えば紀子が、憐太郎のお母さんの話をしてたけど、ボクは母さんの事は全く覚えていない。
当然だ。ボクが物覚えの付かない頃に、死んだんだから。
でも昔からじいちゃんや、仲直りしてから父さんからどんな人かは聞いた。
人見知りで、大人しくて、虫も殺せなさそうな感じで・・・でもとっても頭が良くて、料理が上手くて、優しくて、勇気があった人らしい。
その出会いは、自衛隊の訓練の無理が祟って街中で日射病で倒れた父さんを、介抱して病院まで連れて行ったのがきっかけで、父さんが一方的に母さんに惚れて猛アタックして、結婚まで至ったとの事。
要は「ナイチンゲール症候群」、なのかな?
写真は仏壇で毎日のように見るけど、ボクをロングヘアーにして本当に女にしたみたいな感じで、ボクがお母さん似なのが誰が見ても分かる。
要はギャオスと、正反対な母親だったみたいだ。
ギャオスもいい母親だけど、ボクがもし親になれるなら・・・やっぱり母さんみたいな人に、なりたいかな?ギャオスは「強い」母親って感じだし。
そうなれたら、きっと「優しい人」にもなれてるのかな?
今度、ギャオスに聞いてみよう。
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