‐GetterⅡ‐ 逸見樹のある一週間











火曜日。
この曜日と木曜は、ちょっと嫌だ。
だってボクが一番苦手な、体育があるから。
男子と一緒も、女子と一緒もダメだから、ボクは体育館の倉庫で着替えている。
何とも言えない臭いはするけど、みんなの為にもこれはしょうがない。
女子からすれば男子と一緒に、男子からすれば女子と一緒に着替えるようなものなんだから、そんなの嫌に決まってる。
男子はボクの身体を「女」として見るだろうし、女子は覗きをしてる「男」を見るかのような侮蔑の目で、ボクを見るんだろうし・・・何よりボクが、年頃の女子の着替えを見るなんて恥ずかしくて、耐えられない。
体育の授業と、生理が来た日はボクが「女」なのを思い知らされるから、ほんと嫌になる・・・でも、だとしてもボクは性転換の手術は絶対受けたくない。
母さんが唯一ボクにくれたこの「カラダ」に、メスは入れたく無いから。
とりあえずある意味ちょうど、水泳が終わった9月に転校して来てほんと良かったと思う。




「・・・はぁ。部屋の隅、またホコリ溜まってるし。ちゃんと掃除してよ、もう・・・んっ?また微妙に開いてる。建て付けも悪いなぁ。」




体操着に着替え終わって部屋から出ようとすると、倉庫の扉が微妙に開いていた。
こうして最近、扉が微妙に開いてる事がたまにある。そこそこ古いけど普通に閉まる筈の扉なのに・・・もしかして、学校の七不思議?ボクは聞いた事無いけど。






『あれ、やっぱもう来てんじゃん。最近早いな、お前ら?』
「ア、アレクか。だって、一番乗りしてこの広々とした体育館を一人占めしたくてさ~。」
「いやいや、俺忘れんなって!」
「俺も俺も!アレクも今日は早いよな?」
『俺はイツキと2人で男同士の会話がしたかっただけなんだけど、お前らに先越されたせいで台無しじゃんか!なっ、イツキ!』
「えっ?そうなの?」




倉庫から出ると、コートにはアレクと濱名・平山・椎葉の3人がいた。
この3人はいつも一緒につるんでるお調子者トリオで、3人共数年前にこの島に引っ越して来た者同士だからか、自分達の事を「よせあつめブラザーズ」って呼んでる多分、学生あるあるの関係性。
それ以外だとたまに、女子の渡辺とつるんでるのを見るくらいかな?
ボクとはそれなりに話す事があるくらいで、渡辺とはろくに話した事は無いけど、アレクみたいにこう言うクラスメイトとも話せるのが、「優しい人」なんだろうか?
とりあえずは、アレクの相手をしないと。




「別にボクは話す事、無いよ?と言うかまた扉がちゃんと閉まってなかったり、ちゃんと倉庫の掃除してないから、先生に言っといてよ。」
『また?ったく、この俺をメッセンジャーボーイにするなんてさぁ。』
「ボクが言うよりアレクが言った方が、間違いなくクレームも通りやすいし。」
『だよね~?まっ、しゃーない。アレクさんが言っといてあげよう!』
「ありがとう、頼むよ。」
「アレクってマジ優しいよなー!」
「アレク様々だぞ、逸見~。」
「うん、分かってるって。」
「あ、ナベ来た!」
「・・・」




話している間に、渡辺を含めた女子達が来た。
渡辺って寡黙と言うか、とってもクールな感じの女子だ。ボク以上に話さないけど、人付き合いが悪い印象は無くて黒髪ロングが良く似合う結構な美人、だからかクラス人気は高め。
ああ言う女子が将来、有名人になったりするんだろうなぁ。




『なぁ、イツキってほんとにあの中に好みの女子とかいないワケ?』
「うん、残念だけどいないかな。ほんとに。」
「おっ、男子トークが始まったぜ?」
「これぞ男と男の付き合い、だよな!」
「俺は、A組の太田ちゃん!」
『いや、お前の好みは聞いて無いってば!』
「しかも、隣のクラスの女子だよね?」
『はい、正論来ました!よって解散!』
「「「え~っ!」」」




男と男の付き合い、か。
身体だけ「女」のボクにはどうしても限界はあるけど、せめてこう言う馬鹿騒ぎには付き合ってあげたいな。
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