本編
「…見事だな。」
「いえ、まだまだですよ。」
八重樫はヒュプナスの死骸を見下ろすと凌を労う。それから「G」との戦闘の証である変形した小型防弾盾をそこらに手放すと壁に寄り掛かった。
「まだ名前を聞いてなかったな。」
「…東條凌。あなたと同じ警視庁所属の特殊捜査課巡査長です。」
「俺は八重樫大輔。SAT制圧班の長だ。」
八重樫は凌と握手を求め、凌はそれに応える。
「お前は何年生きてるんだ?」
「…まだ、26年です。」
「やはり若いな。俺はざっと数えて700年だ。」
「700年…ですか。俺も殺されない限りそれ以上生きるんですよね?」
「あぁ、だが驚く事はない。会った事はないが中には4000年生きている爾落人がいるらしい。」
「4000年…」
4000年。爾落人はそんなにも長く生きるのだろうか。凌は同じ爾落人としてイマイチ実感が湧かない。
「お前は上司や同僚に自分が爾落人である事を明かしているか?」
「…ごく一部ですがあえて知らせている人がいます。」
「周りに信頼できる人がいるのは良い事だ。だが無闇に言い触らさない事だな。上に知られれば…どうなるか分からんぞ。」
「あなたは同僚に自分が爾落人だと教えていないんですか?」
「あぁ。爾落人や能力者ではない人物はあまり信用できないからな。」
どうやら八重樫は「G」を大した判断材料もなく危険視する同僚や一般人を信用していないらしい
「お互い爾落人である事については口外しない。約束できるか?」
「…はい。」
「まぁ、爾落人とはそう巡り逢えるものでもない。同業者なら尚更な。これから宜しく頼む。」
そう言いつつ八重樫は、隊員の遺体の傍らに落ちている弾痕の残った小型防弾盾を拾い上げた。
「もう少し語らいたいがそうもいかないな。」
「え?」
「人が来る。多分生き残った隊員達だ。信用できない他人に「G」との関わりを見られるのは避けたい、だろ?」
「…えぇ。」
凌は自分が反射させる光を背景と同じ波長に変換させる。すると彼の姿は見えなくなった。
「! そうか、お前は光に関係する現象を…」
「八重樫!」
瞬間、別ルートからヒュプナスを索敵していた菅波らが八重樫と合流する。
八重樫は菅波のある変化を自分の能力で感じ取った。
凌は八重樫が何事もなかったかの様に菅波らと話しているのを確認し、自分の携帯電話を回収すると空港を後にした。
これが東條凌と八重樫大輔の出逢いだった。奇遇にもテログループと「G」が彼らを引き合わせたのだ。