本編


「お前、具体的には何の爾落だ?」


八重樫はヒュプナスを警戒しながら追撃した隊員の後を追う。
途中、隊員の死体が散乱していたが気にする余裕はなかった。


「光撃。レーザーや光弾、ライトセーバー的な光刃など光を駆使した攻撃の他、光に関係する現象を操れます。」
「ライトセーバー? そんな騎士みたいな武器を道具も無しに生成できるのか?」
「…えぇ、その気になれば。あなたの能力も教えてください。これではアンフェアだ。」


凌は初対面の八重樫にやや不満げに問う。八重樫は辺りの人間の気配を確認すると話し出す。


「俺は捕捉の爾落だ。人間、能力者、爾落人、「G」の気配を感じ取れる。おまけに高速で移動する物体も目視できる。」
「それで俺の気配を…」
「あぁ。だが敵味方までは分からない。人質に紛れていたテロリストは見抜けなかった。そこまで俺の力は便利じゃないんだ……!」


八重樫は新たな隊員の死体を発見する。だがその隊員の階級章は八重樫と同じだった。その人物は同じ隊長の黒瀬だったのだ。


「黒瀬…」


黒瀬の目を見開いた死に顔に堪えかねた八重樫は手の平を優しくかざすと目をつむらせた。
だがヒュプナスは感傷に浸る余裕は与えない。


「! 正面から来るぞ。構えろ!」


八重樫は小型防弾盾と自動小銃を構え、凌は黙って両肘から先に光刃を発生させると身構えた。


ヒュプナスは間もなくして通路の角から姿を現し、八重樫を襲撃した。八重樫はヒュプナスの動きを捕捉し目視した上で銃撃していたが弾丸が追い付かない。


「!」


電光石火の速さで八重樫の懐に潜り込んだヒュプナスは鉤爪で斬りかかる。
八重樫は動きを見切って小型防弾盾で鉤爪を受け止めるが、盾の素材は持ちこたえそうにない。
さらにもう一方の鉤爪が八重樫の頭を切り裂こうと彼の頭を捉えようとしている。


刹那、凌の光刃がヒュプナスの右手首を切り落とした。


右手を失ったヒュプナスは奇声をあげ、八重樫から離れると柱や遮蔽物の陰から陰へ移動して凌を警戒し始めた。


凌は両手の指を銃に模擬した形に作るとヒュプナスに狙いを合わせる。
それから2丁拳銃の要領で連続して放たれる赤いレーザーだが中々命中しない。


「クッ……綾さんがいれば…」
「来るぞ!」


ヒュプナスは壁を這って凌に接近した。
凌は再び両肘から先に光刃を発生させ、ヒュプナスの左手首を切り落とそうと光刃を振るう。


右手の光刃は鉤爪に受け止められ、それを想定していた凌は左手の光刃で斬り掛かった。だがヒュプナスは鉤爪の位置を移動させて両手の光刃を受け止めた。


「!」


八重樫はチャンスを逃さない。彼は隙だらけのヒュプナスに走り寄るとほぼ零距離から頭部を銃撃した。自動小銃の弾倉が空になるまで。


これによりヒュプナスは致命的なダメージを負い、さらに隙が生じる。その瞬間、凌は右脚に光刃を纏わせてヒュプナスの胴に回し蹴りを見舞う。


真っ二つにされた内上半身は地球の重力に従って落下する。それからすかさずヒュプナスの頭部を両手の光刃で切断した。
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