本編
驚愕する隊員を見据えた構成員は、至近距離からの銃撃をものともせず隊員の身体を切り裂いた。
「ぐぁぁっ!」
「「G」だ! 撃ち殺せ!」
一部始終を見ていた黒瀬は指示を出し、偶然それを見ていた民間人は我先に逃げ出す。
それを尻目に変貌した構成員は銃撃を四つん這いの動きで避け、近くにいた隊員の喉を切り裂く。
続いて別の隊員の懐に潜ると鉤爪で防弾ベストごと腹をえぐる形で切り裂いた。
隊員は繰り返し構成員に銃撃を浴びせるが変貌した彼に命中する様子はない。
ある時構成員が柱の陰を通過したかと思うと、彼の姿は人間ではなくなった。
それは人型でありながら人間とは掛け離れた身体能力と殺戮本能を誇る「G」―――ヒュプナスに変貌していた。
「!」
完全に覚醒したヒュプナスは壁に張り付いたまま移動すると隊員を通り過ぎ様に切り裂く。さらに逃げ遅れた民間人も殺害した。
まさにこの状況はヒュプナスによる無双だった。
ある程度隊員を一掃したヒュプナスは続いて柱を這って登り、二階吹き抜けから狙撃していた狙撃支援班隊員に襲い掛かる。
「来るなぁぁっ!」
隊員はスコープを覗かず射撃するが、狙撃銃は高速で移動する対象には命中率は悪い。1発もヒュプナスに掠る事なく懐への侵入を許してしまう。
隊員が1人殺られ、逃げ出していた隊員も逃さずその鉤爪で殺された。
「追え! 「G」を外に出すな!」
生き残っていた黒瀬の指示に隊員はすぐさまヒュプナスの後を追い、稼動していないエスカレーターを上がった。遅れて菅波班も別のルートから後を追い始める。
しかし同じく生き残りの八重樫には分かっていた。自分達だけではあの「G」は仕留められないと。
「隊長、指示を。」
部下が自分に指示を求めている。未知の恐怖を任務で紛らわせたいのだろう。しかし死ぬと分かっている指示を出せる筈もなかった。
「…お前達は動けない民間人や隊員を外へ避難させろ。」
「…え?」
「良いからやれ!」
「りょ…了解!」
八重樫班の隊員は怪我で動けない民間人やまだ息のある隊員を協力して避難させ始める。
残った八重樫は「G」を倒す策を巡らす。その間に意識せずとも感じる人間の気配の数が減っていく。
彼は焦りつつもある事を思い出し辺りを見回す。
…居た。やはり爾落人と思われる若い男性は逃げていなかった。八重樫は男性に近付く。近付くにつれあの男性は爾落人だと確信する。
「お前、爾落人だな。あの「G」を倒せるか?」
八重樫が話しかけた爾落人―――東條凌は返答する。
「…えぇ、恐らく。」
「協力しろ。来い。」
八重樫は有無を言わせない態度で凌を連れ出した。