本編


「はぁ……」


警視庁特殊捜査課巡査長の東條凌は、心から自分の運の悪さを呪った。


本日、上からの命を受けた倉島は大阪府警に旅立った。移動手段は飛行機だ。凌は空港まで倉島を送って離陸を見守った後、帰ろうとした矢先に火器を武装したテログループがコンコース一体型ターミナルビルを占拠。人質の一人として確保されたのだった。


人質はコンコースの中央に円形に集められ、携帯電話を没収されていた。周りにはサブマシンガンを武装したテログループが監視の目を光らせている。


テログループは「GUARD」と名乗り、日本政府に海外の指定口座へ20億円を振り込む事と、燃料満たんの逃走用飛行機とパイロットを要求。ターミナルビルに立て篭もった。


その気になって凌がGUARD構成員を制圧すれば早い話だが、敵の人数が多かった。下手に動いて構成員を刺激しては人質が危険だし、何より他人に自分が爾落人であるのを知られるのは避けたかった。


ここは専門家の「彼ら」に任せれば良い。凌は落ち着いてその時が来るのを待った。


空港の外は警視庁や報道のヘリコプターが飛び交い、空港周辺には機動隊が配置されていた。その周辺も制服警官やパトカーが押し寄せる報道の人間や野次馬を制している。


「彼ら」は部外者に目撃されぬようGUARD構成員の死角からターミナルビルへ接近していた。


その「彼ら」は紺色のアサルトスーツに身を包み、防弾ベストの上からタクティカルベストを着込んでいる。防弾バイザー付きのヘルメットに片手には透明の小型防弾盾を携え防御に抜かりはない。武装は片手に自動小銃とベルトにマウントしてある予備の自動小銃。


彼らは特殊急襲部隊。通称SAT(Special Assault Team)は日本警察が有するテロ対策部隊だ。
主な任務はハイジャック事件、重要施設占拠等の重大テロ事件への対処である。最近は上からの命令次第で「G」の排除も行う駒に成り下がった節も見受けられるが日本警察最強の部署である事に変わりはない。


その日本警察最強の部隊の重要な班の隊長を担う1人である八重樫大輔は、数々の戦場を経験したような据わった目をしている。
彼にはある能力で空港にいる人間の正確な人数と大体の位置が分かっていた。さらにはその中に紛れている爾落人と「G」も。


GUARDに爾落人が加担しているのだろうか? もしそうだとするなら厄介な話になる。何かしらの「G」を保有しているとするなら尚更だ。
八重樫は1人思惑を巡らせながら隊員を率いて突入ポイントへ向かった。
2/18ページ
スキ