本編
予告の日、帝都博物館。結局特捜課は「G」ハンターへの具体的な対策を講じられないままその日が来た。
警視庁以下、捜査二課と特捜課、所轄署の面々はそれぞれの役割を果たそうと奮起させている。
警視庁の「G」ハンター対策としては、博物館の周囲3kmにある全ての道路には検問を設置し、パトカーの巡回を強化。
博物館内部の警備装置として各ブロック毎には警備用のシャッターが設置され、緊急時にはそれぞれを隔離できるようになっている。
宝石が展示されている部屋にはあらゆる方向から赤外線が照射され、少しでも触れれば警報が鳴る仕組みだ。さらにそこに通じる扉は電子ロックとチェーンで閉ざされている。
「これらが「G」ハンターにとって障害であるかが期待できないけど無いよりマシよね。」
捜査員の応援として駆け付けた特捜課の面々は博物館を一周すると宝石展示室の手前の部屋へやってきた。
そこの部屋は展示室に向かうには避けては通れず、ここに多くの捜査員が割かれている。
「恐らく、これだけやっても奴なら突破しますよ。綾さん、奴を捕まえる作戦か何かはありますか?」
「「G」ハンターが何の能力者か見当がつかない以上、対策の立てようがないわね。でも私か東條君が「G」ハンターを足止めしている間にシャッター内に閉じ込められれば捕まえるチャンスはあるかも。」
「とりあえず逃げられないように隔離する、そういう事ですね。」
「そうよ。だけど奴が何を仕掛けてくるか分からない以上、遭遇するまでは手分けして待ち伏せた方が良いかもしれないわ。」
「同感です。」
「じゃあ私は東通路に張ってるから東條君は北通路に張っておいて。通路は2つしかないからどちらかが必ず遭遇する筈よ。」
「分かりました。」
「…オレはどうすれば?」
置いてけぼりをくらった感のある一樹が綾に問う。
「宮代君は瀬上さんと一緒にいて、何か動きがあれば逐次連絡を入れて。」
「へい。」
綾と凌は所定の位置へ移動し、一樹は指示を出している瀬上の近くで待機した。
予告の時間まで残り5分。
時間が迫るにつれ捜査員の警戒も強まる。
『こちら11班。裏門付近において不審人物を発見、職質かけます。』
11班は所轄署員で構成された班だった。所轄署への手柄を恐れる大槻は手を打つ。
「所轄署員に任せておけん。誰か確認に向かえ。」
「課長、確認には私が行きます。」
「よし、行け。」
「瀬上班、動きます。」
配備される捜査員は皆、目立たないようにイヤホンを、袖にはピンマイクを身につけている。
瀬上は袖に備えているピンマイクに呟くと捜査員数名を率いて確認に向かう。
この動きに一樹は慌てて綾に連絡を入れた。
「瀬上さん達が動いた。どうすれば良い?」
『聞いてたわ。とりあえずそこに居て、奴は必ず来る筈よ。』
「よし。」
それから数分して大槻が異変に気付く。いい加減に連絡が来ても良い筈の瀬上が音信不通なのだ。
「瀬上? 瀬上どうした!?」
「どうしたんです?」
「確認に向かった瀬上から応答がない。連れて行った捜査員もだ。」
「何かあったのでしょうか。」
「多分な。」
大槻は迫りつつある脅威に頭を抱えた。
東通路に張っている綾は目前を行き来する捜査員を注視しながら一樹の通信に応じる。
『綾さん、瀬上班と連絡が取れないようです。』
「もう始まったのかしら……!」
綾はその時、目の前を通過した1人の制服警官に気が付いた。警官が単独で行動? この状況でそれはおかしい。
綾は凌に連絡を入れると警官が向かったと思われる展示室へ進んだ。
時計の長針と短針はもうすぐ重なり合おうとしていた。