本編


「私は巡査部長の二階堂です。」
「能力者か。ここの責任者はいないのか?」
「本日、責任者である倉島警部は不在です。」
「ここは特殊捜査"課"なのに責任者は警部なのか?」


部外者なら抱く当然の疑問に凌が答える。


「この部署は新設された事になっていますがまだ試験的に設置されている側面も強いのでまだ人員が疎らなんです。
それ故に一個係しか課内に編制できず係長が課長を兼任しているようなもので。責任者が警視正ではなく警部なのはその為です。
ちなみにその機能に問題がなければ全国の都道府県警に同じような部署が設置されるんですよ。その時は勿論、責任者には相応の階級の人物が置かれます。」
「あぁ、そういう事か。」


八重樫は椅子に座り早々に話を切り出した。


「あまり時間がないから単刀直入に言うぞ。」
「どうぞ。」
「東條、お前にもSAT隊員としてこっちに来て欲しい。」
「引き抜き、ですか。」
「俺が上に話をつける。SATに来ないか?」


凌は考え込み、綾は不安げに彼の回答を待った。八重樫は続ける。


「撤収後にお前の経歴を調べさせてもらった。今の部署に異動する前はSIT(特殊犯捜査係)の突入班に居たそうじゃないか。その経験はSATでも活きると思う。」
「…八重樫さん、折角のお誘いですがお断りします。」


凌は断固とした態度で断り、綾は彼の返答に安堵する。


「何故だ?」


予測はしていた。しかし八重樫は理由を聞かずにはいられなかった。


「あなたが感じた通り、同僚にも自分と同じ存在や分かってくれる人もいるし、上司の理解も得ている。今の部署には恵まれていると思っています。」
「やはりそう答えるか……」
「…すみません。」
「謝らなくてもいい、今回は駄目元で来たんだ。別に誘いを蹴ったからって懲罰はないさ。」


八重樫は立ち上がる。


「もう帰るんですか?」
「用件は済んだし、下に同僚を待たせてる。「G」について何か察知したら連絡を入れる。それとそこの2人も俺の力について口外するなよ。」
「や…八重樫さん。」


用件を済ました八重樫は立ち去ろうとするが、一樹は恐る恐る彼を呼び止めた。


「何だ? 爾落人。」
「オレは宮代一樹です。警視庁にはオレ達以外にも爾落人や能力者はいるんですか?」
「…そう言えばお前ら以外にも爾落人が1人いたな。あれは確か刑事部の階層だった。」


八重樫は去る。彼の発言が特捜課に与えた衝撃は大きかった。


「この部署以外にも爾落人が…?」
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