第二章 ジラクノオモイ


 隆文達の車は灯台の駐車場を出た。それを見計らい、木の影から姿を見せた真人。

「もう行ったみたいだ。」
「そう。とりあえず一安心だね。」

 一息ついた2人。真人は少女に目を向けた。灯台の最上階から一気に駆け下りたというのに、息一つ乱していない。

「あのさ、昨日会ったよね?」
「ああ!見た顔だと思ったら昨日の!また会えたね。」
「いや……その……」

 また会えたのはいいが、状況が滅茶苦茶だった。真人は正直、何と声をかけたらいいか分からなかった。

「びっくりさせちゃったね。」
「まあね……あんな超能力があるなんて……」
「超能力じゃないよ。「G」だよ。」
「「G」?」
「そ。そして、私はその力を使う爾落人って訳。」
「爾落人……」

 爾落人と言われても、真人はその筋に詳しい訳じゃない。少女の言っている事は全く分からない。


「爾落人……聞いた事はあるけど……」
「それより、こんな時間に何をしてるの?」
「ああ!!」


「遅いじゃない!何してたのよ!」

 予想通り。美奈は怒っている。あの少女を灯台に置いて来てしまったが、そんな事よりも、牛乳が心配だった。

「仕方ないだろ?今日に限ってあちこち売り切れてたんだから。港まで行ったんだ。」
「へぇ~」

 かろうじて牛乳は無事だった。バイクの座席下は意外にも平気だった。それでなんとか美奈の機嫌は保たれた。

「まあいいわ。じゃ、ちょっと待っててね。今作って来るから。」

 牛乳を持って、美奈は台所の奥に向かった。やっと休める。真人はリビングのソファに座る。

「はぁ……また名前聞きそびれたなぁ……」

 そう言いながら、テレビを付けようとリモコンを手に取った瞬間だった。

「あ……」

 窓の外に人の影が見えた。それはまさしく、さっきの少女だった。しかし、灯台からここまで、歩きでこんな短時間で来れるはずが無かった。

「な……なんで……」

 少女は窓の近くまでやってきて、ノックをしようとした、それをやめさせるように身振りをしながら、真人の方から近づいて窓を開けた。

「やっほ。来ちゃった。」
「来ちゃったじゃないよ……何だって……」
「まだ、名前聞いて無かったよね。」

「真人!だれ!?」

 今の会話を聞かれたようだ。真人は少女に家から離れるように促した後、テレビを付けた。

「テレビだよテレビ!俺じゃないよ!」
「何?真人テレビと話してたの!?」
「いや……まあ……ねぇ……」

 真人は少女を隠すのに必死だった。美奈の声が聞こえなくなると、テレビの音量を少し上げ、再び少女に話しかける。

「なあ、今夜は帰ってくれないか?また明日ゆっくり話聞くからさ。」
「そうは言っても……私にだって事情はあるんだよ?君の口が軽く無いか、確かめなきゃ。」
「わかってるわかってる。灯台での事は一切口外しないって誓うから。な、いいだろ?」
「う~ん…………いいよ。じゃあさ、名前だけいい?」
「名前?」
「もう会うの3回目なのに、お互い名前も知らないのは、おかしいでしょ?」
「ああ……まあな。俺は長瀬真人って言うんだ。」
「真人……か。いい名前だね。」
「ほら、そっちの名前は?」
「ななみ。桧垣菜奈美。」
「菜奈美……」
「じゃまたねっ。」
「あっ……」

 そうして、さっさと行ってしまった少女、菜奈美。しばらくの間、真人はその場に立ち尽くしていた。
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