第二章 ジラクノオモイ
「ケーキ……ねぇ。」
学校帰り、真人と美奈は繁華街のケーキ屋にいた。プレゼントと悩んではいたが、結局ケーキで落ち着いた。美奈も、長瀬家に出入りしている身として一緒に祝うと言う。
「真人のセンスにゴハンじゃ信用できないし、私が今夜の夕食を担当するわ。」
「待て。俺の記憶が間違ってなければ、お前の料理以上にまずい料理はこの世に存在していない事になってんだよ。」
「失礼ね!」
「いいから、今年は俺に選ばせてくれ。」
慎重にケーキを見定める真人。店の端の方で、不満そうにそれを眺めている美奈。
「うん。これだな。」
「ちょっと見せて……」
真人が買おうとしているのは、3人で食べるにはちょうどよいサイズの、普通のケーキだった。それを見て溜め息1つこぼす美奈。
「はぁ……覚えてないの?依子さん、タルトが好きだって言ってたでしょ?」
「でも、誕生日にタルトって……」
「そんなんだから、いつまで経っても長瀬真人のままなのよアンタは。」
「はあ……?」
「すみません!このマンゴータルトください!」
勝手に注文してしまった美奈。しかし、真人は考えていた。
「このタルト……3人で食べるには大きいよな……」
家に戻り、タルトを冷蔵庫にしまった。料理をしたがる美奈を押さえつけ、部屋の飾り付けをさせる事で落ち着かせた真人。
「ねぇ!依子さんって今年でいくつになるの?」
「21だよ。俺と4つ違い。」
「へえ!そうなんだ。」
「はあ!?お前知らなかったか?」
「ウチにもお姉ちゃんいるから、ごちゃごちゃになっちゃって……」
やれやれと、キッチンに戻る真人。パーティー仕様のメニューは作り慣れていないが、材料が良ければ、案外どうにかなるものだ。それは、依子が就職してからずっと家事をしてきた真人のカンがそう言わせた。
「真人!」
「何だ!」
「依子さん、今日残業だって!」
「はあ!?」
今し方、依子から電話が入ったらしい。美奈に代わり、真人が電話に出る。
『ゴメンね真人!どうしても抜けられなくって……帰るの、多分12時すぎるわ!』
「ああ……そう。ゴハンは?」
『先に美奈ちゃんと2人で食べてていいよ!もしかしたら、こっちで適当に食べるかもしれないから。』
「………………ああ。わかった」
電話を切った真人。なんとなくだが、声をかけずらい感じがした真人。
「真人……」
「美奈、ゴハン、食べるだろ?」
「え……うん……」
美奈は感じていた。ああやって強がってこそいるが、真人は今寂しくてしょうがない状態にある。自分がいる事で、真人の寂しさがまぎれるのであればと、今夜は真人の家に泊まる事にした。
「だから、やっぱり私に作らせてよ。」
「つってもなぁ……」
夕食は自分が作ると言って出た美奈。真人としても、依子が夕食を取らないとなった今、自分が作る事へのこだわりを持っていなかった。
「じゃあ……任せた。」
「オッケー!それじゃ……」
真人がキッチンに並べた材料を見て、冷蔵庫の中を見渡す美奈。一体何が出来上がるのかと、真人はキッチンから目を離さなかった。
「あ……牛乳が切れそう……」
「牛乳?」
「うん。」
そう言いながら、美奈は真人にパックを見せた。残りの量が半分しか無い。
「ホワイトソースでも作るのか?」
「うん。だけどこれじゃ……」
「わかった。」
真人はバイクのカギを取り出し、玄関に向かった。
「ちょっと真人?」
「いいのいいの。ゴハン作ってもらうんだから、買い出しはやるよ。ちょっと行って来る。」