第二章 ジラクノオモイ
「隆文!」
「これは……」
曇った空の向こうから、何かが飛んできた。ちらついている雪混じりの視界でも、その正体ははっきり分かる。円盤、空を飛ぶ円盤だ。
「まさか、あれがガメラ!?」
坊主と紀子の後ろに降りた円盤から、手と足も頭が飛び出してきた。そう、坊主達がガメラを呼んだということになる。俺は銃口をガメラに向け、蘭子も前に出た。
「おっさん!」
「坊主!これが俺達の覚悟だ!お前達の友情は、それを撃ち破れるか!?」
まず2発、俺はガメラに向かって発砲した。流石は「G」封じの術の拳銃だ。頭に銃弾を受けたガメラは怯んだ。そして、蘭子はガメラの足元の雪に手を向けた。雪は大きく舞い上がり、ガメラはその衝撃を前に一歩下がった。
「やめてください!」
「やめろ!」
2人の制止を尻目に、俺達は攻撃を続けた。しかし、俺は次第にこの行為の違和感を感じるようになる。そして、先に蘭子が攻撃を止めた。
「どうして……」
「蘭子…」
「どうして反撃しないの!?私達は、戦いを仕掛けたのに!何故?」
「……」
「おっさん、分かんないか?」
「?」
「ガメラは、人間の味方だからだよ。」
「それ、理由になってるか?」
「でも、ガメラはおっさんを攻撃しなかっただろ?」
「……」
立ち尽くす俺達を、ガメラはじっと見つめている。そして、坊主達と目を合わせた。
「ガメラ……」
「レン。ガメラに考えがあるみたい。」
「…いいぜ。頼むぜガメラ!」
ガメラは両足を甲羅の中に引っ込めた。そして、俺と蘭子を掴み、甲羅の上に乗せた。続けて、坊主達も甲羅の上に乗ってきた。
「どういうつもりだ?」
「ガメラが、2人を乗せて飛びたいって。おっさん、ラッキーだぜ。」
「何だと……」
状況が読めないまま、ガメラは両足からのジェット噴射で飛び上がった。降りしきる雪が、時折顔に当たるが、眺めは良いものだ。
「おっさん、このまま雲の上行くか?」
「馬鹿野郎!んな事したら凍死する!限度を知れ!」
俺の心情を察したのか、ガメラは街が見渡せる程度の高度をゆっくりと飛んでいく。
「おっさん、分かっただろ?ガメラは良い奴なんだ。」
「……信じられない。正直に言うとな。坊主。このガメラとはどうやって?」
「こいつはな、俺がずっと世話していたんだ。」
「……心を開くだけの理由はあるようだな。」
「?」
「その、紀子って子も。お前ら、付き合ってるのか?」
「つっつつつっつきあってっる……よ。」
「はっ、その分だと、手を握るのがやっとだな?」
「そんな事は無い!」
「じゃあ、キスも済ませたのか?」
「えっ……」
「レンと……」
2人の顔が紅潮した。流石にからかいすぎたか。蘭子が目で、もうやめろと訴えているのが見えた。
「はっはっは。いや、悪いな。」
「……いいんですか?あなた、さっきまでガメラや私を狙っていたんですよ?」
「少なくとも、お前らの前ではやりづらくなった。それに、このガメラには、今の俺達ではかなわないし、君も、純粋な爾落人ではなさそうだからな。」
「私達を、見逃してくれるんですね?」
「1つ教えてくれ。君たちは、「G」に対する感情が普通とは違う。「G」の大部分は、この街を襲ったクモの怪獣のような、害悪でしかない。世間の「G」に対する目は、まだまだ冷たいぞ?」
「関係ありません。レンは、私がどんな存在になっても、私として見てくれました。」
「紀子に対する気持ちは、「G」では揺るがない。」
「そう……でも、それは「G」によって変わりゆくもの全てを受け入れる覚悟があってこそ言えることなのよ。」
「ありますよ。俺にも、紀子にも。」
蘭子の問いに、迷う事無く答えた坊主達。その返答を聞いて、少し笑みを浮かべた蘭子の顔を見て、俺は自分の出した結論が間違っていない事をはっきりとさせた。
「坊主、いや憐太郎。」
「!?」
「彼女、守ってやれよ。」
「はい。必ず。」