第二章 ジラクノオモイ


「真人、お昼食べよ。」
「ああ。」

 昼休みになり、真人と美奈、咲菜の3人で席を囲んだ。

「アダルトカップルもいいけど、昨日の人もキレイな人だったわぁ~」
「そう?タバコ吸ってる女の人にはなりたく無いなぁ……」
「美奈は余計な先入観があるね。ああいう女の人が、ミステリアスな雰囲気出してていいのよ~」
「真人はどう思う?」

 いきなり話を真人に振った美奈。入るつもりの無かった話題を振られてしまい、多少困惑する真人。

「いや……別にそんな……」
「ちょっと!もう少し真剣に考えてよね!」
「大体……ん?」

 ふと廊下の方に目を向けた真人。何やら、廊下の方が大騒ぎになっている。

「あれ何だ?」
「あっ真人!」

 上手くその場をしのげた真人。廊下にいる男子の元に駆け寄った。

「どうしたんだよ?」
「いや、制服を着てない女の子が……」
「え?」

 まさかと思いつつ、廊下の先に目を向けた真人。そして、真人の予感は現実と化した。

「マジかよ……」
「真人?」

 気になった美奈と咲菜も廊下に出た。

「あっ、真人!美奈!」

 そこには、嬉しそうに手を振っている菜奈美の姿があった。

「真……」

 とっさに菜奈美の口をふさぎ、そのまま外に連れ出してしまった真人。美奈も後を追った。

「美奈~その子だぁれ~」




「何やってるんだよぉ!」

 屋上に続く階段に菜奈美を引っ張って来た真人。少し不機嫌そうな表情をしている菜奈美。

「だって……退屈だったし……」
「あのな!この辺りにはまだ、あいつらがうろついているんだよ!もしもの事があったら……」
「ちょっと真人、怒鳴りすぎじゃない?」

 真人の様子を見かねて言う美奈。しかし、そんな美奈の言葉に耳を傾けない真人。

「そんなに怒らないでよ……」
「お前に勝手な行動されるのはな、はっきり言って迷惑なんだよ!」
「迷惑……」
「ああ!だから早く帰って、大人しくしていろ!」
「…………わかったよ。」

 次の瞬間、一瞬にして菜奈美は姿を消した。時間を止め、その間に立ち去ったらしい。

「真人、ちょっと言い過ぎたんじゃない?」
「菜奈美には勝手な行動をしてほしくないんだ。これ位がちょうどいいんだよ。」
「でも、どうして菜奈美ちゃんがここに来たのかを考えるべきだったんじゃないの?」
「え…………」


「真人のバカ……」

 そういう言葉をこぼしつつ、菜奈美は家路についていた。

「君の事だな?御浜町の爾落人とは。」
「!?」

 自分を爾落人と呼ぶ者の声に思わず身構えてしまった菜奈美。しかし、そこにいたのはあの男達では無かった。

「あなた……爾落人じゃ無さそうね。何者?」
「魔術師……とでも言っておこうかな?」

 そう、翔子だった。そんな翔子の態度から察するに、敵意は無い。それが菜奈美の出した結論だった。

「初めまして。私は北条翔子。「G」の後天的能力者。転移の爾を持つ者だ。そして、あの者達に君の所在を話してしまった責任者でもある。」
「え…………」



「…………」

 授業が終わり、家に戻って来た真人とそれに付いてきた美奈。しかし、菜奈美の姿はどこにも無かった。

「やっぱり、菜奈美ちゃん帰って無いね。」
「あいつ……」
「菜奈美ちゃん、真人に会いたくて学校に行ったんだよ。それを邪魔の一言で追い返すなんて……」
「いや、あいつ、4000年生きてるとは言え、現代の学校がどんなものなのかを見てみたかったんじゃないかな……友達を、作りたかったとか……」
「ちょっといいか?君たち。」

 玄関の先で話していた真人と美奈の後ろ。そこから突然聞こえて来た声に振り向く。そこには、銃を構えていた隆文がいた。

「さあ、爾落人を出してくれ。」
「あなたは……」
「くっ……」
「動かないで。」

 逃げ出そうとした真人の手を掴んだ蘭子。真人と美奈はもう逃げられない。

「俺達を……どうするつもりなんですか?」
「大人しくしている。それだけでいいんだ。」




「あの2人の狙いは、君の命だ。」
「ええ……」

 わかっていた。しかし翔子から、改めてその話をされるのはどこか辛かった。

「私の知っている爾落人に、加島玄奘という男がいてな、奴はあの男、川崎隆文と名乗っていたかな、そいつに嘘を吹き込んだ。」
「嘘?」
「女、渋川蘭子を能力者にしたのは恐らく玄奘だ。そして、渋川を想っている川崎に玄奘はこう言ったんだ。『能力戻すには、爾落人の命を捧げるしか無い』とな。」
「でも、「G」の能力を取り去るには……」
「ああ、私の知る限り、ある能力を持つ能力者、あるいはその爾落人に頼るしか無い。」
「その通りです。」

「つまり、玄奘の目的は君の命を奪う事にあるんだ。自分の手を汚さずして。」
「でも、全てが間違いなら、それをちゃんと説明できれば……」
「私も立ち会おう。私からなら、彼らも信用するだろう。」

 そう言い終わった瞬間に、翔子の携帯が鳴った。電話の相手は、連絡先を聞いていた隆文からのものだった。

「はい、私ですが。」
『北条さん。今、もしかしてあの爾落人と一緒にいる、なんて事ありませんか?』
「まあ……な。だが、場所を教えようとは考えていない。」
『では伝えていただけますか?今夜、大切な人と一緒に港で待っていると。』
「…………わかった。」

 電話を切った翔子。ややイラついた様子を見せながら、今の電話の内容を菜奈美に伝えた。

「君の大切な人って一体誰だい?」
「……真人…………」
「なら、話は簡単だ。恐らく、その真人という者は今、あいつらに捕まっている。」
「え?」
「チッ……最後の最後にこんな手段を使うなんて……」
「場所は?場所はどこですか?」
「…………行くのか?」
「はい…………」
「……今夜、港で待っているとだけ言っていた。」
「ありがとうございます。」
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