第二章 ジラクノオモイ
「ここを使ってね。」
依子が菜奈美を連れて入ったのは、両親が使っていた部屋だった。家具の配置などは、10年前のままになっている。
「いいの?大切な場所なんじゃ……」
「大丈夫よ。しばらくの間になっちゃうかもしれないけど、菜奈美ちゃんは私と真人の家族よ。」
「依子さん……」
「じゃ、私はゴハンの準備するから、真人、後よろしく。」
そう言って、真人と菜奈美を残して去ってしまった依子。菜奈美は部屋の中を見渡している。
「こんなに広い部屋……」
「まあ、父さんと母さんが使っていた部屋だからね。実質、部屋の広さは2人分だよ。」
「これが……」
菜奈美は立てかけてあった写真立てを手にとった。写真には、白衣を着た男女が写っている。言うまでもなく、真人の両親だ。
「真人のお父さんとお母さんって何をしてた人なの?」
「エネルギー分野の学者だったんだ。難しい事はよくわかんないけど、最後に研究してたのは、どこかで発見された新しいエネルギーの可能性とか……だったかな?」
「新しいエネルギーの可能性?」
菜奈美は気になった。もし、自分の考えている通りならば……
翌朝
「…………」
家にかくまうと言ったはいいが、学校に行く間の事を全く考えていなかった真人。
「しばらく、有給でも取って、私が面倒を見るって手もあるけど……」
と依子は言うが、それはさせたく無かった真人。やはり、昼間は1人で菜奈美を部屋に置いておく他無かった。
「大丈夫だよ。お留守番くらい、私1人でできるよ。」
「信用ならないんだよ。いつの間にか色々壊しそうだから……」
「でも、自分を狙っている人がいるとなれば、外には絶対出ないだろうし、多分私、昼間は寝てばっかだと思うよ。」
「まあ……それならいいんだけど……」
菜奈美を信用していない訳じゃ無かった。とにかく、このままでは遅刻してしまう。仕方なく、真人は学校に行く事にした。
「じゃあ菜奈美、行って来るけど、くれぐれも大人しくしていてくれよ。」
「わかってるわかってる。平気だよ。」
そう言って、笑顔で真人を送り出す菜奈美。菜奈美の笑顔を前にすると、言葉も出なかった真人。ゆっくりと玄関のドアを閉めた。
「真人、菜奈美ちゃんに惚れちゃった?」
「そんなんじゃねぇよ!」
「おはよ!真人!」
今日も相変わらず、美奈と一緒に登校だ。菜奈美が来ても、これだけは変わらない。
「あれからどうだった?」
「んまぁ~普通だったよ。特に変わった事も無いし。」
「だけど、いつまでも真人の家にいられる訳じゃない……よね?」
「…………」
そうだ。美奈に言われるまでは実感は無かったが、確かに、いずれ菜奈美と別れる日は来る。
「ま、まあ、今はかくまってるって名目だからいいんだ。余計な事言うなよ。」
「そうだね。あ、見てよ真人。」
「ん?」
美奈が指差した先を見て、真人は驚きを見せた。あの時、菜奈美を襲った男が校門の前に立っている。
すぐに分かった。目的は間違いなく自分であると真人は感づいた。とっさに、美奈の影に隠れる真人。
「ちょっと真人?」
「悪い……ちょっとの間だ……」
「…………」
何とか隆文をやり過ごす事ができた真人。そのまま昇降口に入る。
「真人どうしたのよ?」
「はぁ……菜奈美を狙っていた男なんだ。あの人。」
「え?」
真人は気づかなかった。自分の事を避けた人の男子生徒の存在を隆文は見破った事に。
「やはりな……」