第二章 ジラクノオモイ
「はい。お腹空いただろ?」
時間は丁度昼過ぎになる。真人は菜奈美の分の昼食も作り、テーブルに並べた。さっき外出して材料を買ってきた。そこまで立派な物にする必要は無く、チャーハン程度の物しか作らなかったが、昼食にしたら立派なものである。真人の腕にかかれば朝飯前だ。
「美味しそう!でもいいの?ご馳走になっちゃって。」
「いいよ。遠慮しないで。」
「でも、私もう帰るよ?」
「あの灯台にか?しばらくは帰れないよ。」
「ええ!?どうして?」
「昨日あんな事があったから、警察がいるんだ。もしかしたらしばらく張り込むかもしれないぞ?」
「警察かぁ……めんどくさいなぁ……やっぱり、寝床を探すのは難しい。」
「そんなに腐るなって。二階の俺の部屋になら、かくまってやれるかもだぜ?姉さん、昼間は家にいないから。」
「あ?そうやって、か弱い女の子を自分の部屋に連れ込む気?へんたーい。」
「バーカ。4000歳のババアなんか誰が連れ込むかよ。」
「あ!言ったわね?体はピチピチの18歳よ!何なら今見せてあげましょうか!?」
「バカ!変な真似するなぁ!!」
「真人いる!?」
「!?」
玄関の外で誰がの声が聞こえてきた。あの声は美奈だ。
「美奈!?どうして……」
「美奈って誰?」
「そうかっ……今日は午前授業……」
「真人、美奈って……」
「菜奈美、二階の適当な部屋に隠れろ!今すぐ!」
菜奈美を二階に追いやり、玄関のドアを開けた真人。ちょっと怒った顔をしている美奈がそこにいた。
「や、やあ美奈、どうしたんだ?」
「依子さんから聞いたから、真人が今日、体調を崩してるって。」
「そ、そうか。でももう大丈夫だよ。さっき昼飯食ったし……」
「ダメ、今日欠席したのに、もう大丈夫なんてありえないよ。ほら、早く部屋に戻って寝なさい……」
ズカズカと家に上がって来た美奈の目に入ったのは、2人分の昼食だった。
「あ……」
「ねぇ?これどういう事?」
「…………み、美奈の分も作ってたんだ。」
「嘘でしょ?今、私が来たら驚いてた!誰?誰がいるの?」
「誰もいないから!頼むから帰って……」
「まさか真人……」
「え?」
「幽霊が見えるとか!?」
「失礼ねぇ!幽霊なんかじゃないわよ!」
二階から顔を出し、大声を張り上げて反論した菜奈美。
「……だれ?」
ああ……
今、真人が置かれている状況は最悪だった。完全に怒っている美奈と、状況を読み込めてない菜奈美。
「真人、この人は……」
「我が家に伝わる……4000年前の秘宝です……」
「ふざけないで!今日学校休んだのもこの人と……」
「待てよ美奈!とりあえず話聞けって!」
「落ち着いてられないわよ!何なの?ちゃんと説明するまでは帰らないから!」
「……(どうしよう……)」
困惑している中、菜奈美が口を開いた。
「実は私、行き倒れなんです!」
美奈も真人も、この菜奈美の発現には目が点になった。
「昨日の夜、街を歩いていたら意識が朦朧として……そこを真人に拾われたんです。ね?」
「私、真人が帰って来た所にいたけど、行き倒れの女の子なんかいなかった!」
「あ、そっか。」
「そっかじゃない!」
「もう!依子さんに黙ってこんな子連れ込んで!」
「あ、それなら大丈夫だよ。真人のお姉さんには既にお話してあるから。」
「…………え?」
その時だった。玄関のドアが開く音が聞こえてきた。そしてリビングに入ってきた依子。
「ただいま。今日は早く仕事が終わったわ。ちゃんと留守番してた?菜奈美ちゃん。」
「はい。」
「ええ!?」
「つまり、話を整理するとこういう事?姉さんが起きたら既に菜奈美がいて、ちょっと話したらすぐに意気投合して、朝ご飯も一緒に食べたと。」
真人が起きる前から、依子は菜奈美の事を知っていたという事だ。真人が今日休んだ本当の理由を依子は察していたという事にもなる。
「姉さんに挨拶してたなら言ってくれよ。その方がやりやすかったよ……」
「いやいや、ちょっとしたサプライズだよ。」
「あのな!」
「はいはい、痴話喧嘩はそれまで。せっかく美奈ちゃんもいるし、これから晩ご飯でも食べない?」
「すみません、私これからバイトなので……」
「あらそう?残念ね……」
バイトに出かける美奈を3人で見送る為に玄関に集まった。
「美奈、この事は誰にも言わないでくれよ。特に飯塚の奴には。」
「わかってるわよ。そんな事したら、アンタはともかく、菜奈美ちゃんに迷惑だから。」
「一言余計。」
「じゃあまた明日。」
美奈がいなくなり、家の中は一段階静かになった。
「じゃ、夕飯の支度をしましょうか。」
「じゃあ私手伝いますよ。」
「ちょっと姉さん?」
「いいの。早く帰れる日くらい、作らせてよ。」