第二章 ジラクノオモイ


「おはよー!」

 朝の通学路、肩を落としながら歩いている美奈に咲菜が寄ってきた。この時間、2人が鉢合わせするのは珍しい事だった。

「あれ?長瀬君は?」
「体調不良だって。さっき真人の姉さんと会って聞いたの。」
「へぇ~、ダンナがいなくて寂しい?」
「べっつに!そんなんじゃないし。」
「とか何とか言っちゃって……あれ?」
「どうした?」
「あれ、見て見なよ。」

 学校の校門の傍ら、見覚えのある人物が立っていた。バイト先の常連客である、通常アダルトカップルの1人、蘭子だった。

「ねぇ!!そうだよね?」
「うん……でもなんでこんな所にいるんだろ?」

 蘭子は登校してくる生徒1人1人の顔をチェックしていた。昨日の少年がここの生徒であるという確信の元の行動だ。

「?」

 美奈と咲菜の顔は、蘭子も覚えていた。しかし、だからといって気にするほどの事でも無かった。
 お互いにそれ以上目を合わせる事無く、美奈達は校舎の中に入って行った。

「……いないわね……」

 もうそろそろ生徒も来なくなってきた。HRの時間が迫っている。

「今日は欠席かな……」



 HRの時間になり、蘭子は隆文の元に戻った。隆文は学校前の通りに通じる場所にあるファミレスにいた。

「いなかったわ。昨日の子。」
「そうか……朝早くから悪いな。」
「いいのよ。それにしても……今日は休みなのか、それとも遅刻して来るのか……」
「手がかり無し……という事だな。」
「しばらくは様子見じゃない?下手に動く訳には行かないし、他に当ては無いし。」
「だな。この通りなら大抵の生徒は通るから、いい拠点にできる。もし本当に今日欠席なら、いずれ現れるに違いない。」
「朝食まだなの。何か頼んでいい?」
「ああ、頼め頼め、じゃんじゃん頼めよ。」
「そんなに食べない。」
「ハハ……ん?あれは……」

 レストランの目の前、数台のパトカーが、サイレンを流しながら通りを走って行った。方向は、あの灯台だった。

「あれ?まさか昨日の事でか?」
「ちょっと……派手にやっちゃったから……」
「ああ……そうだな。」

 あの灯台の最上階の展望フロアは、昨夜蘭子が放った衝撃波によってめちゃくちゃな状態だった。

「かえって好都合だな。」
「え?」
「これであの爾落人は、あの灯台に戻って来ない。そうだろ?」
「まあね……」
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