本編











「な、なんだ!てめぇ!」
「知る必要は無い・・・貴様らもろとも、ここで死ぬのだからなぁ!」




夜、とある日本家屋を襲う未知数の恐怖。
黒い外套で全身を隠したこの男は突然としてこの家に現れ、今まさに兄と妹が男の恐怖に晒されていた。




「!」
「穂野香!逃げろ!」




怯える妹に兄が促す。
兄妹に向かって瞬時に差し出した男の手から、無数の針が飛び出したからだ。
兄は妹を軽く突き飛ばして針の脅威から妹を守り、兄は身を屈めて針を避ける。
針は壁に当たり、当たった際の威力を示すかの如く巨大な穴を空けた。




「逃げるな・・・黙って死ね!」
「死ねって言われて死んでたら、とっくの昔に死んでるっての!」




再び男の手から針が放たれ、兄は急いで起き上がって針を避ける。
畳に針が列を成して突き刺さり、縁側で途切れるまで続いた。
だが、次に針が向かったのは、妹がいる隣の部屋だった。




「っ!てめぇ!」
「元々貴様には用は無い・・・大人しくあの娘が死ぬ所を見ていろ!」




妹を狙う男の針を阻止しようと、兄は庭から男のいる部屋に向かおうとする。
だが男は右手だけを外へ向け、兄を阻んだ。




「くっ・・・!」




避けられないと判断した兄は、両手を前に出す。
すると彼の周囲に突然風が起こり、意志を持つかの様に風は迫る針を防ぐ壁となった。






「・・・!」




一方、妹は必死に針から逃げていた。
襖を開けては閉め、廊下を走って針を阻もうとする。




「無駄無駄ぁ!」




だが、それでも針の追撃は襖や壁を突き破り、止む事はなかった。




「往生際の悪い女だ!早く死ね!」
「・・・っ!」




針を阻む物は無くなり、妹は玄関前にまで追い詰められてしまった。
彼女の命を奪おうと、ダイレクトに迫る尖った刺客。




「穂野香ーっ!!」




叫ぶ兄は、無意識の内に右手の手刀を男に向かって突き出していた。
その右手には風が宿り、刃の形となって彼の手から放たれる。
風の刃は音の速さのようなスピードで男に向かい、針を発射する男の両手を切り裂いた。




「ぐ、ぐああああっ!」




オーバーが裂け、男の手から鮮血がほとばしる。
それに気を取られて攻撃を止めた隙に兄は男を蹴り飛ばし、すかさず妹のそばに寄った。




「おにい・・・ちゃん・・・!」
「穂野香!大丈夫か!」
「う・・・ん。」
「早く、早く逃げるぞ!」




兄妹は慌てて玄関から外へ走り去って行き、血に染まった両手を垂らし、苦しげな声を漏らしながら男が見つめる。




「ぐうっ・・・逃がさん・・・逃がさんぞ!必ず・・・必ず!貴様らの命を・・・!」






2017年・秋。
兄妹は、こうして逃亡の旅に出た。






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