本編











西暦240年、後に四国と呼ばれる地。
この一帯を支配していた「くに」・邪馬台国は今、壊滅の業火に包まれていた。




アグァッ・・・
アグォァァァアア・・・




業火の中にいたのは、まるで魔の力が具現化したかのような巨大な獣。
茶色く重厚な体に、大地すら砕きそうな四つ足。
家屋を容易く破壊する尾。
不釣り合いな程に大きな顔の上部と口の左右からは禍々しい角が伸びており、目は常に何者も威圧する鋭い眼差しをしている。
この魔獣は突然邪馬台国に現れ、破壊活動を始めていた。




「うわあああっ!」
「早く、早く逃げろっ!」




人々は魔獣を恐れながら、がむしゃらに炎の中を駆ける。
この国の中でも最大級の栄華と人口を誇った邪馬台国であったが、もはやそれは全て失われつつあった。




「皆の衆!早くこちらへ逃げなさい!」
「ひ・・・」
「卑弥呼様!」




と、そこへ風と共に逃げる人々の前に現れたのは、白衣と琥珀(コハク)の勾玉を身に付けた亜麻色の髪の女性。
彼女こそ、かつて争いの最中にあった邪馬台国に平和をもたらした救世主(メシア)であり、邪馬台国を統治する女王・卑弥呼。




グウィウォォォォォウン・・・




更に卑弥呼の後ろには、大きな白い獣がいた。
女性的なしなやかな体付き、背中から突き出た無数の透明な棘。
細くも何処か立派な二本の足で立ち、手には気を失った母と男の子の親子を大切そうに握っている。
体高を超える程に長い尾の後ろには怯える人々がおり、両脇と頭頂部からも棘が突き出る爬虫類の特徴を持った顔は逃げる人々を慈悲の瞳で見守っていた。




「おお、白虎様!」
「・・・そこの2人。この親子の事を頼んだ。」
「「は、はい!」」




白虎と呼ばれた白い獣は人々の前に親子を置き、若い男2人が親子を抱えて再び走り出す。




「ありがとうございます、卑弥呼様!」
「ああ、白虎様・・・!ありがたや・・・」




卑弥呼と白虎の脇を、人々は何度も頭を下げながら通って行く。
白虎の体の至る所は傷付き、卑弥呼の体の同じ箇所にも傷が現れていた。
だが、白虎も卑弥呼もそれを全く意に返さず、毅然とした目で魔獣を見る。




アグァッ・・・
アグォァァァアア・・・




「さあ、来るがいい!この『くに』と民、わらわと白虎が守る!」




グウィウォォォォォウン・・・




卑弥呼が魔獣を指差すと共に勾玉が黄色く光り、腕を上げた白虎の体の両脇から薄い膜が伸びる。
辺りには炎を消し去らん勢いで風が吹きすさび、そのまま飛び上がった白虎は魔獣へと向かって行った・・・
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