‐Gift‐ オノゴロからの贈り物











数日後、小笠原諸島・竜宮(いせみ)島。
この島は小笠原諸島の東の端に位置し、ある欧州出身の元貴族の豪邸しか存在しない、存在自体を知る者が少ない小さな島である。





「もしもし、古手です・・・あっ、土井様ですね・・・えっ?私が案内を・・・はい、分かりました。今からそちらに向かいます。それでは。」
「華、どうした?」
「今、土井大臣から案内を頼まれたの。だから、今から行って来るわね・・・そう言うわけでジュリア様、途中で大変申し訳ありませんが・・・今から、大戸島まで行って参ります。極力早めにお戻りしますので、七並べの続きはそれからで宜しいでしょうか?」
『う~ん・・・分かった!いいよ!でも早くかえってきてね!はな!』
「承知致しました♪では、行って参ります。」




その豪邸の一室から、帯刀した長髪の青年と青い瞳の黒髪の少女を部屋に置いて、青と白を基調にした高級なメイド服を着た茶髪の女性が出て行った。
女性は早足で廊下の端に向かい、重厚な黒い貨物用のエレベーターに乗り込むと、「6」のボタンを三回押す。
するとエレベーターはドアが閉まるや、通常のエレベーターの倍近くの速度で降下して行き、屋敷の地下深くでやや余裕を持って停止すると、今度は直進して行った。
暫くしてエレベーターが停止し、ドアが開くとそこには先程まで女性がいた屋敷とは全く違う雰囲気の、無機質な銀一色の廊下が待ち受けていた。




「うーん、速いのはいいけど・・・どうも慣れないわねぇ・・・」




少し気だるそうに不満を呟きながら女性はエレベーターから出て、廊下の奥の扉を開けて中に入る。
中は部屋・・・と言うにはあまりにも広大な、飛行機の格納庫を上回る規模のスペースが広がっており、女性から見て右側にある空母のカタパルトに似た巨大な台座には、手足を「G」封じの紋様が刻まれた錠と鎖で固定されたパラグラーが、気力も体力も尽きかけた疲労困憊の表情をしながら寝転がっていた。




ーー・・・可哀想に、この巨大「G」も・・・


「古手君ッ!こっちだよ!!」




いずれ待ち受けるパラグラーの末路を内心で憂いる女性に、部屋全体に響くような大声で大柄の男が話しかけて来た。
彼が女性を呼び出した張本人であり、傍にはもう1人男が立っている。




「こんにちは・・・あれ?その方はどなたですか?」
「紹介しよう!彼は私の新たなギブアンドテイクの相手、倉島敏之警部だよ!!」
「倉島です。宜しく。」




そう・・・特捜課の係長・倉島だ。
立ち振舞いは特捜課にいる時と然して変わらないものの、その雰囲気は特捜課の面々に見せる温厚な印象と打って変わった、底知れない冷徹さを漂わせており、倉島と初対面の女性も後者の印象を受けた。




ーーなに、この人・・・?
優しそうなお巡りさんに見えるけど・・・何だか違うような・・・?


「今日は倉島君にここの研究成果を見せていたのだが、あのとっておきのギフトを見せたくなってね!ただ、時々しか来ない私がガイドするよりも、グレイス家の看護長の君にガイドして貰った方が確実だと思ったんだよ。」
「お嬢さん、案内して貰えるかな?」
「は、はい。承りました。」




倉島への違和感が拭えないまま、女性は男性の希望する場所への案内を始める。
その最中にも倉島と男性は何やら含みのある会話をしており、聞いてはならないと思いながらも、女性は無意識の会話を耳に入れてしまう。




「いやぁ、それにしてもグッジョブだよ。倉島君。『他の何かに自在に体を変身させる「G」』をギブして欲しいと、ここ数年思っていたからね・・・!流石は「G」を律する特捜課だよ・・・」
「いえいえ、あんなヒーローモドキしか出来ないクズがやんごとなき方の役に立つのなら、奴にも存在価値があったと言うものですよ。特捜課を纏める身として、私も光栄です。」
「まぁ、そう言わずに・・・どんなに人間としては無価値でも、「G」を持っているだけで私はグッドだと思うよ。何故なら、この世界は「G」のグローバルだからね!」
「相変わらず、貴方は「G」に取り憑かれておりますなぁ?正直、昔の私なら何一つ理解出来なかったかもしれませんが・・・「G」を許そうと思えて来ている今の私なら、少しは理解出来ますよ。」
「グッジョブ!倉島君、君は真実に気付いたんだ!「機関」による下らない教義から漸く醒めたんだよ!「G」を受け入れる為に君には私が、「G」を極める為に私には君が必要と言う事なのさッ!」
「そうですね・・・ではどうか、確かめさせて下さい。私が「G」を信じられるのかどうかを・・・ね。」
「大丈夫だよ、そのゲットな心意気さえあれば!まさにグレイトッ!!」
「・・・あの、お2人共。もうすぐ到着しますが・・・?」
「そうか!ここまでグッジョブだったね、古手君・・・
では倉島君、お見せしようッ!これが2020年に『予見』の一族・東雲家からギフトされた、ゴッドの亡骸・・・『象蛇(しょうだ)ノ像』だよ!!」




やがて3人が辿り着いたのは、水族館に置かれているものとほぼ同じサイズの水槽、その中腹付近を通る通路であり、水槽の中には一つの巨大「G」の全身骨格が浮かんでいた。
全体的な形は恐竜を彷彿とさせながらも、二足歩行に適した大きな両足、ヒイラギの葉に似た形の背鰭、背丈と同程度の長さの尾、そして肉が付いていなくとも分かる、王者の風格を漂わせる流麗な形状をした頭蓋骨。
この全身骨格を見て、倉島の脳内は一瞬にしてデジャヴに襲われた。




「こ、これはまさか・・・!」
「そのまさかだよ・・・後は同じ『GOD』の肉片さえ見付かれば、我らがこの世に甦らせる事が出来る・・・!
そう、あの『シダール弾きのカルナ』に登場する魔獣『ガジャ・ナーガ』を・・・!
そして、『呉爾羅』を!!」




狂気すら感じさせる声色で高らかに叫ぶ男性の瞳には、「象蛇ノ像」が肉体を得て天高く咆哮を上げる姿・・・「呉爾羅」の復活が、見えていたのだった・・・
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