‐Gift‐ オノゴロからの贈り物











『えっ!?菜奈美、その偽バランって本当に連れて行かれたの?』
「うん。何か、SF映画に出てきそうな白い戦闘機が来て、光の網みたいなのに捕まってそのまま運ばれて行ったのよ。」
『偽バラン、採ったど~!!』
「いや、そう言うノリじゃないって飯坂・・・俺はあれが噂に聞く、『Grasp』とか言う巨大「G」を捕まえる組織だと思う。」
『あの特捜課も来てたって噂も、ネットで流れてたし・・・怪獣だろうと「G」だろうと、犯罪者はご用になる時代になったのね。』
『そうだよね~?「G」を使ってのなりすましなんて、私は何を信じればいいのかっ・・・』
「とりあえず、私達の仲は信じていいわよ。咲菜。」
『そうそう。今は違う場所と大学にいるけど、こうして電話でいつでも繋がれるしね!』
『あっ、でも美奈が大学卒業するまで菜奈美ちゃんに心変わりしないでよ!?長瀬君!』
「だから、ならないって!」
「真人ったら、そこまで否定しなくてもいいのに・・・ぐすん。」
『そうだぞ~?菜奈美が美人なのには、変わりは無いんだからね~?』
『この私や美奈に菜奈美ちゃんって贅沢な選択肢があるのに、長瀬君の幸せ者~!』
「もう、騒ぐな女子組!とりあえず、そろそろ切るから。」
『ふふっ!まぁとにかく真人と菜奈美も、今日の観光は楽しめたから良かったじゃん。』
『夏休みは、私と美奈とも一緒に観光してよね?』
「分かったわ。ありがとう、美奈。咲菜。じゃあ、おやすみ。」
「おやすみ、2人共。」
『『おやすみ~!』』




同刻、ホテルの一室で菜奈美・真人はグループ電話で今日の出来事を報告していた、友人の石川美奈・飯坂咲菜との電話を切った。
2人は菜奈美・真人と同じ高校に通っており、特に美奈は真人の幼馴染みと言う事や二年前の一件に偶然関わった事もあり、菜奈美の正体についても知っている稀有な存在である。
今は美奈・咲菜共に御浜を出て東京の大学に通っているが、こうして4人の交友関係は続いている。




「ふう、女が3人寄ればって言うけど、やっぱり美奈と飯坂を加えて話すと長くなるよなぁ。」
「ちょっと?女が3人寄れば何よ?」
「冗談だって。言葉の文・・・でもまぁ、こうやって2人と今でも元気に話せるのは嬉しいし、菜奈美と高校で一緒に楽しくやってた事を思い出すなぁ・・・」
「うん・・・そうね。だから、今日は観光も楽しめて良かった。また明日から、あそこでの日々に戻るし・・・」
「・・・大学を出たら、多分もう美奈と飯坂には会えなくなるかもしれないしな。」




和気藹々(あいあい)と輝かしい日々や今日の出来事の記憶に浸っていた菜奈美と真人の顔が、急に険しくなる。
まるで明日から、囚人として刑務所に収容される身であるかのように。




「・・・ごめんなさい、真人。私が、依子の過去さえ貴方に見せなければ、ただの大学生でいられたのに・・・」
「いいんだ、菜奈美。俺はその事は全然後悔してない。逆に真実を知らないまま、あの人と一生過ごしていたかもしれない日々の方が怖いから・・・」
「真人・・・」
「けど、まだ俺はあの人に抗えない立場だ。大学だって本当は美奈や飯坂みたいに他所の大学に行きたかったけど、結局逆らえなかった。自分が行けなかったからとか言っときながら、俺と菜奈美を手元に置いときたいだけなのは分かってるのに・・・」
「逆らえるわけ無いよ。大学に時々来てる、明らかに怪しいエージェントみたいな人が多分品定めと監視を兼ねてるし・・・高卒止まりで、真人の学費も問題無く払いながら、生活費を賄えるお金が貰える仕事・・・真人が言う『空(から)の贈り物』、依子の背後にいるそのエージェントみたいな人達の関係者・・・得体の知れないプレゼンターの事を考えたら・・・」
「だから俺は大学を出たらフリーターとして少しでもお金を稼いで・・・菜奈美と一緒にあそこから、あの人の元から出る。俺だけじゃない、菜奈美の為にも。」
「ありがとう、真人。私も一緒に頑張るから、少しでも早く出て・・・また、ここに来よっか。」
「そうだな。でも菜奈美は意外と思ってる事が顔とか声とかに出るから、美奈と飯坂に色々バレないようにしろよ?」
「えっ?それは真人もあんまり変わらないでしょ?」
「そっか?」
「そうよ。でもあの『風使い』・・・隼薙と穂野香も私達と同じような事情があって、旅人になったのかな?」
「かもな。俺達もいつか『タイムトラベラー』とか言われたりして。菜奈美と『風使い』の風車を足したら、どっかの魔法少女みたいだし。」
「その必要はないわ!」




また明日から始まる、見えざる偽りと恐怖にまみれた日々・・・その前に菜奈美と真人は、本当に自由でいられる今この時を他愛の無い雑談で満喫するのだった。
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