‐Gift‐ オノゴロからの贈り物







こうして、「風使い」を巡る騒動は終わりを告げた。
一行はバランの力を借りて、裏参道付近に即座に下山。
特捜課がアンバー達から白虎に纏わる真実・出来事の話を聞き、綾が呼んだパトカーが到着した頃には太陽は地平線に沈んで空は星の輝きに覆われ、パトカーの後部座席に「ババルウだった者」と一樹、助手席に綾、運転席に凌が乗り込む。




「貴方達の協力、本当に感謝するわ。表彰は出来ないのが残念だけど、代わりにお礼も兼ねてまた会いましょう・・・そうね、カフェはどうかしら?」
「「なっ!」」
『あらあら♪それなら、あたし達女子組はお邪魔かしら?』
『そうだねぇ~?わたし達は空気は読めるからねぇ?』
『カフェは交流の場に最適の場所だと聞いたが、何か問題があるのか?』
「マイン様がフェミニストなのを考えると、恐らくわたくし達がいない間にカフェに行く方向で、二階堂様を口説かれたのでしょうね・・・」
『ふふっ、皆さんへのお礼ですから流石に2人きりと言うわけにはいきませんよ。ですが・・・貴女と再び会える、その素晴らしき時を楽しみにしていますね?二階堂さん。』
「と、とにかくご協力あざっす!そう言う事でオレ達行くんで、さよなら!とりあえず穂野香ちゃんが元に戻ったら、すぐ報告してくれよ!」
「夜になったから、帰り道には気を付けて。それとラピスさんにラズリーさん。またお世話になりますね。さようなら。」
「それから、マインさん。貴方はもう罪人じゃない。俺達はそう思っている事は、はっきり伝えておきます。あと、バラン・・・隼薙に宜しく伝えて下さい。それでは、皆さん。」
『ありがとうございます、皆さん・・・!さようなら!』
『『さようなら~!』』
『さらばだ。』
「皆様のこれからのご活躍を、心から願っております。さようなら・・・」




凌達と共にパトカーは去って行き、特捜課に別れを告げた一行は諭鶴羽ダム付近の駐車場に停めたマインの車の元へ、徒歩で向かう。
当然、アンバー・アークを連れて。




『ねぇねぇ、アンバー!宿に着いたらまたモデルになって~!またキミを描いたらもっと有名な画家になれるかもしれないし、何よりまた描きたいっ!』
「はい。いいですよ、ラズリー様。」
『ラズリーね、あの時の絵を描いてから画家の仕事の依頼が増えたのよ♪あたしとしては、助手が休むのが増えて仕事としては困ってるんだけど・・・だからアンバー、しばらく「RuRi」でバイトしてみない?バイト代は奮発するから♪』
「そうですね・・・旅の資金も底が尽きる可能性が出て来ていますし、隼薙に相談してみますね、ラピス様。ラズリー様も、画家として順調のようでわたくしも嬉しいです。」
『えっへん!!』
『・・・あの、アンバーさん。これからは、私の診療所で住みませんか?』
『『ええっ!?マインさんったら、アンバーにまで・・・?』』
『いえ、やましい事情では無く・・・確かに貴女が強い女性である事は、今日改めて分かりましたし、バランこと隼薙さんもいらっしゃいますが・・・やはり、旅を続けるのはどうしても様々な危険が伴い続けます。それなら私のお部屋をお貸ししますし、穂野香さんの心を取り戻すお手伝いもさせて頂きます。それに近くの林でなら、隼薙さんも匿えますので・・・』
「マイン様、そのお心遣いに心から感謝致します。ですが・・・お気持ちだけ、受け取らせて頂きます。」
『そなた達と別れたあの日、私達は決めた。穂野香様が心を取り戻し、アンバー殿が元の身体に戻り、隼薙が帰って来るまでは、人々の中へは戻らないと。』
「そう言う訳ですので・・・わたくし達は、旅を続けさせて頂きます。貴方からの善意を踏みにじってしまい、誠に申し訳ありません・・・」
『いえ、その固い決意を蔑ろにするくらいなら、私はそのお返事を受け入れます。どうか、お気になさらず。』
「ありがとうございます、マイン様・・・」
『あたし達も、穂野香ちゃんが帰って来てから本当の「ただいま」が言いたいわ。』
『そうだよ!やっぱし、ほのかがいないとね!』
「・・・では、せめて明日は皆様と、新しい思い出を作りたいと思います。」
『それって、わたし達とかんこうしてくれるって事!?いやった~!!』
『そのプランはいいわね♪折角淡路に来たんだから、あたし達もちゃんと観光はしたかったし♪』
『そうですね・・・!是非、お願いします!アンバーさん、アークさん。』
「はい、心得ました・・・!」
『じゃあ、明日はどこに行こうかな~?わたしは「ニジゲンノモリ」とかいいと思うんだけどな~♪』
『あたしは温泉に入りたいわ♪ホテルニューアワジとか行かない?』
『ちなみに「岩屋」と言う、アンバーさん達にとってベストな名前の場所もありますが・・・』






『・・・水を差すようで悪いが、アンバー殿。隼薙とはすぐに立ち去る約束で、マイン殿達を助けた筈だが・・・?』
「はい、そこは十分に心得ております・・・だからこそ、わたくしが心を込めて隼薙を説得します。わたくし達への再会を心から願い続けていた、マイン様達の心に尽くしたいと・・・」




ーー・・・行って来い、アンバー。アーク。
お前の心の内も、あいつらの気持ちも分かるからよ。
その代わり・・・俺の分まで、楽しんで来いよな!




「!!」
『アンバー殿?』
「・・・行って来ていいと、隼薙が・・・」
『そうか・・・それは私にとっても、最良の回答だな。隼薙・・・』




ーー・・・わたくしの我が儘を受け入れて下さり、心から感謝致します・・・!
貴方と心を共にして、明日は楽しんで参りますね・・・
ありがとうございます、隼薙。




腰から下げた、微かに光る勾玉を握り締めながら、アンバーは歓喜の感情に潤う瞳を静かに閉じる。
最も愛しい存在の「声」の、最高の「答え」が聞こえて来たからだ。




『あれ?アンバー、どうしたの?』
「いえ、何でもありません。それよりバラン、隼薙から明日は俺の分まで楽しんで来いよな、との伝言がありましたよ。」
『そうなんだ?あいかわらず、はやてはいけすかない言い方だねぇ。』
『まっ、白虎様の許可が出たのなら沢山楽しまないといけなくなったわね~♪』
『では、明日は最高の一日にしましょう・・・それから、ありがとうございます。アンバーさん、アークさん、隼薙さん。』
『わたしからも、「感謝感激雨あられ」だよ!アンバー!アーク!はやて!』
『「雨嵐」、ね。ラズリー。あたしからも、ありがとう。アンバー。アーク。隼薙君。』
『こちらこそ、こうして再び私達と再会してくれたそなた達に、感謝の意志を・・・』
「わたくしからも、皆様と再び巡り合わせた事と、三年の時が過ぎてもわたくし達との再会を心から願い続けて下さった皆様へ、感謝の言葉を送ります。
マイン様。ラピス様。ラズリー様。心より、ありがとうございました・・・!」




感謝の心を伝え合った一行は空を見上げ、その目線・・・雲の先の彼方に居る、今日の三年振りの再会と、明日の観光と言う機会を与えた「風神」に、万感の思いを馳せる。
それは彼らにとって、まさにバラン・隼薙からの・・・「イザナギ」からの贈り物であった。




グウィゥゥゥゥゥゥゥゥウウン・・・




ーー・・・お前ら、ありがとな。










ーー・・・良かったね!アンバー!アーク!
・・・それと、ありがとね。お兄ちゃん!
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