‐Gift‐ オノゴロからの贈り物







「パ、パラグラーがあぁ!?」
「これで頼みの綱が切れたな?次は、お前の番だ!」




パラグラーの敗北を目の当たりにし、ババルウの内心もまた絶望のドン底に叩き付けられる。
そんな中、ババルウの体を包む風が消え失せたかと思うと、ババルウの周囲を無数の氷鏡が取り囲む。




「うおっ!?」
「東條様、今です!」
「アンバーさんの力・・・お借りします!」




続いて凌が左手の光刃をその場で袈裟斬りするや、三日月状の光の斬撃がババルウへ向かって行き、それとタイミングを合わせてアークの風車が勢い良く回転を始める。
すると斬撃が光球に形を変え、氷鏡に真っ直ぐ当たったかと思うと、鏡のように透き通る氷面が光を反射させ、違う氷鏡に当たってまた反射して・・・のサイクルが光の速さで繰り返され、1秒も経たない時間でババルウの周囲は光の筋に囲まれた。
それはまるでババルウを拘束する光のバリケードテープのようであり、凌の「光撃」をアークが操作し、アンバーの氷鏡を利用して作り上げた、まさに三位一体の封印戦法であった。




「ひ、ひええええええっ!?」
『何これ、すっご~い!!』
「凌の『光撃』、あんな使い方が出来んのかよ!?」
「「G」を操作するって、そう言う事・・・アークの本当の力も、即座にこれを思い付くアンバーも凄いわね。」
『詐欺師相手には勿体無いくらい、鮮やかなやり方ね♪』
『・・・やはり、素敵だ。アンバーさんも、アークさんも・・・』




凌は手錠を手にババルウへ近付き、三度目の逮捕を試みる。
光の筋は全てアークの正確な制御によって、ババルウの体に当たる寸前の所を通過しており、ババルウは身動き一つ取れないがその手元には光が通っていないので、手錠を掛けるのは容易であった。




「『三度目の正直』って言葉、知ってるよな?いい加減お縄に付いた方が、自分の為だぞ?」
「う、うるさい!知っているわそれくらい!それに、『二度ある事は三度ある』と言う言葉も・・・」
「それは無い。もし、また逃げ出そうとか思っているなら本気で止めとけ。この光は全て刃だ・・・迂闊に手でも当たったらどうなるかは、『帝国の逆襲』くらいは見てるだろうから分かるよな?」
「う、嘘だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」




四面楚歌と言わんばかりのババルウの叫びが諭鶴羽山に木霊(こだま)し、遂にババルウの両手に手錠が掛かる。
すると手錠が一瞬だけ光り、謎の紋様が手錠に刻まれ・・・ババルウの体が「元の姿」、白いシャツとブリーフを着た特段特徴の無い中年の男に変わった。




「詐欺、脅迫、公務執行妨害、名誉毀損、殺人教唆及び未遂で午後5時58分、現行犯逮捕。」
「・・・えっ?あ、あわああああっ!?私の姿がぁ!?」
『「うわ、ブリーフだ!!」』
『2人共、そこは言ってあげたら可哀想よ?何処かの将軍様だってもっさりブリーフ派だし・・・でも、やっぱり中の人はオジサンだったのね?』
『ペテン師に相応しい末路ではありますね・・・』
「な、何故ババルウで無くなった!?このみすぼらしい姿になってしまったのだ!?」
「何故かって?それ、『倉島さんからの贈り物』の効果。」
「そして、何と言おうと・・・貴方が在るべき真(まこと)の姿は、みすぼらしいと仰るそのお姿と言う事です。」
『現実を直視せよ。それがお前がするべき、最初の償いだ。』




こうしてババルウは漸く拘束され、アンバーとアークが力を止めると光は消え去り、氷鏡は水と砂へと変わってババルウの周囲に自由落下した。




『あれ?と言うかそれ、今なんか変に光らなかった?』
「よくぞ聞いてくれました、ラズリーちゃん・・・これは『封力手錠』!手錠を掛けた瞬間に「G」封じの術式が出て「G」を使えなくする、おニューの逮捕アイテムさ!」
『おお~♪』
「以前まではさっきの「G」ブレスレットで「G」を封じてから、手錠を掛けて確保していたの。でもこれで、確保と同時に「G」封じも可能になったのよ。」
『「G」ブレスレット・・・って、まさか?』
「はい。三年前・・・恐らく「ジャイガー事件」の際に、貴女達が配達していた物です。」
『それだ~!お姉ちゃんがツチノコがいたって言って、一日待ってもらってたやつ!』
『「「「ツチノコ?」」」』
『いえいえ、そこはお気になさらず~♪ラズリー?貴女は余計な事は言わなくていいのよ~?』
『むぐっ!?』




三年前、「G」ブレスレットのサンプルの納期が一日遅れた理由が言い訳であると口を滑らせかけたラズリーの口を、物理的に塞ぐラピス。
呼吸すら困難なラピスの手の圧にラズリーの顔が青ざめて行く中、一行はラズリーへ同情しながら言わんとした事を悟りつつ、綾と一樹は「G」だけで無く全身の力も失って最早抵抗する気配すら見せない、「ババルウだった者」に近寄る。





「貴方は、さっきまでのヒーローはともかく、何故『風使い』にまで成り済まそうとしたの?」
「・・・現代のヒーローに、なりたかったからだ。」
「はっ?」
「確かに、ババリューもルーク・スカイウォーカーも架空のヒーローだ・・・だが、「G」と言うありえないモノが広まったこの世界にこそ、ヒーローは存在する・・・「G」ハンター、サンジューロー、諸星弾、そして『風使い』・・・謎多き、しかし能力者であろう彼らは私にとって、まさに実在するヒーローなんだ!そしてそんなヒーローに、私はなりたかったんだ・・・!」
「「「・・・」」」




「隼薙を名乗る者」になった、余りに幼稚で短絡的な理由に閉口する一行。
理由もだが、本当の「諸星弾」である特捜課の3人は特に飽きれ果てていた。




『ぷはぁ!はぁ、はぁ・・・とりあえず、あいつイタいね?』
『ラズリーさんも、中々ストレートに言いますねぇ・・・』
『まっ、イタい勘違いをした人には一番効くんじゃない?』
『俗に言う「中二病」、と言う事か?』
「えっと・・・当たらずといえども遠からず、と言う感じでしょうか・・・?」
「・・・謎の能力者達に憧れるのは勝手だけど、とりあえずタチの悪いコソ泥の「G」ハンターなんかに憧れている時点で間違ってるんだよ。お前。」
「おいおい、私情入ってんぞ?凌?」
「それは置いておいて・・・『風使い』を選んだ理由は、バランと誤解されたパラグラーと偶然遭遇し、支配に成功したから。こんな所ね?」
「そうだ・・・だ、だが私は特に何もしていない!本当だぞ!」
「そこは署で、じっくり聞かせて貰おっか?ついでにオレのタフブックの修理代のお支払いも。」
「お前も私情入ってるぞ、一樹・・・お前は確かに、『風使い』として何か盗んだり壊したりしてはいないかもしれない。でも・・・お前が傷付けたのは、白虎に似ていただけの罪も無いパラグラーの、本物の初之隼薙に会いたいと願ってやって来たマインさん達の、心だ。そしてそれが一番、許されない事なんだ。」
「貴方は『初之隼薙』を全く知らずに、『風使い』の上部だけを真似て成り代わろうとした。それが最初で最大の過ちだったのよ。」
「まさにヒーロー失格、コスプレするなら心まで飾れって事さ。」
『・・・「仏の顔も三度まで」、と言います。パラグラーと、隼薙さんと、私達で三度です・・・だから、次は無いと思って下さい。』
『刑務所でガンドコ式精神トレーニングをして、出直して来る事ね?』
『そうそう!特別にゆるしてあげるから、かんしゃするんだね!』
『幸い、殺人は未遂だ。既遂に成らなかった事だけは許容しよう。』
「貴方が心を入れ替え、少しでも良き人間となって下さる事を・・・わたくし達は、願っています。」




グァウウウ・・・!




バランを含めた、一行からの様々な感情が入り交じる目線。
「ババルウだった者」が取れる行動は、土下座以外に何一つ有りはしなかった。




「・・・ごめん、なさい・・・ !」
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