‐Gift‐ オノゴロからの贈り物
ギィィゥゥゥゥゥウウ・・・
その上空では、本物(バラン)と偽物(パラグラー)の白虎一大空中戦が展開されていた。
パラグラーは両手の爪を突き立てながらバランに突撃し、飛行以外の特殊能力を持たないハンディキャップを埋めようと、唯一得意とする格闘戦に持ち込まんとしていた。
だが、パラグラーがどれだけバランへの接近を試みても、バランはその全てをひらりと回避し、爪先すらバランは掠りもしなかった。
目の前に相手がいるのに、まるで空を掴むかのような感覚にパラグラーのストレスが蓄積されて行き、攻撃が散漫になって行く。
そこをバランは見逃さず、パラグラーの大振りな一撃をかわすと同時に体を捻り、長い尾をカウンターアタックとしてパラグラーの腹に命中させた。
当然、受け身など取る余裕の無いパラグラーは腹部の苦痛と共に諭鶴羽ダムの溜池に叩き付けられ、山に溢れ出んばかりの量と大きさの水柱がダムに立つ。
ギィアアアアウ・・・
「な、何者だ!この女はぁ!?」
『さっき説明したでしょ?人の話くらい、ちゃんと聞きなさい?』
「ですが、そちらの方々はお初にお目見えになりますのでご挨拶を・・・わたくしはアンバー、訳あって今は白虎の巫子の初之穂野香の体を借りている、白虎の心そのものです。よしなに。」
「「は、はい・・・」」
『私は人工「G」のアークだ。宜しく頼む。』
「アンバーに、アークね?宜しく。私達は警視庁特殊捜査課、『特捜課』の二階堂綾。それで、この2人は同じ部署の東條凌と宮代一樹よ。」
「「よ、宜しくです・・・」」
『しかし、何故貴女達はここへ?』
「諭鶴羽山の付近で『風使い』とバランが目撃されたと言う情報を聞き、真偽を確かめる為に淡路に上陸した所、あの巨大「G」の気配を感じ取り、馳せ参じました。この男が、あの巨大「G」と共に隼薙の名と姿を騙った張本人ですか?口封じを目論むような言葉が聞こえましたが・・・」
『せいかい!こいつ、ヒーローのパチモンのへんたいなんだよ!』
『一応言っとくと、「変体」の能力者ね?アンバー。まっ、口封じしようとしていたのは事実だから、犯罪者なのは変わらないけど?』
『それから、そなた達の活動・・・正確には「諸星弾」の活動は全て把握している。』
「えっ、そこから!?」
「ちょっと無理はあるって思ってたけど、まさかAIに見抜かれるなんて。」
「これは係長の耳に入れとかないとな・・・」
山頂ではアンバー・アークが一行が合流し、一行の状況の確認をする。
ちなみにここで話に出た「諸星弾」とは、特捜課の報告書にのみ登場する架空のダミー人物であり、能力者との交戦・駆逐絡みの報告書から警視庁上層部に凌達の能力が知られるのは良くないとして、彼らの上司でありラピスのお得意様・倉島敏之係長が凌達が能力を使えなくとも事件の内容と辻褄を合わせられるよう、報告書の脚色の為に提案した存在である。
大抵が「特捜課が能力者と遭遇・若しくは襲撃された際に颯爽と現場に介入、様々な能力を駆使して華麗に能力者を倒し、名前だけを名乗って去って行く」・・・と言う内容で登場し、無論存在理由の都合上報告書に度々登場するので、警察内や自衛隊内での知名度は地味に高く、一部のマニアからは結果的に生まれた多彩な能力やストイックさから英雄視されていた。
「も、諸星弾だと!?その中にいるのか!誰だ!」
「な、何かあいつ食い付いて来たぞ?」
「もしかして、いるとは聞いてた諸星弾のファン?なら、ご愁傷様ね。」
「そうですね。いずれにせよ、今からご用にするし・・・あれ?でも風で捕まってたら手錠が・・・」
『東條凌殿、一つ質問する。そなたが諸星弾の能力の一種である、「光で攻撃を行う能力」の大元だな?』
「まぁ、そうなるけど・・・」
『私の能力は、「G」由来の自然現象を自在に操作する能力。そして「光」は自然現象の一つ、即ちそなたの「G」も操作が可能だ。』
「東條様、わたくしに考えがあります。今からわたくしが氷の鏡を作りますので、貴方はその鏡に向かって光を飛ばして下さい。出来れば、攻撃性のある光を。」
「光を操作・・・?とりあえず、了解しました!」
「ありがとうございます。では、四神・西方守護のアンバー、参ります・・・!」
凌に自分の作戦が伝わったと判断したアンバーが右手を振り上げるや、地面から掌サイズの平らな形状の岩が幾つも飛び出し、空気中の水分を集めて岩々をコーティングしたかと思うと、水分は瞬時に冷凍されて氷の鏡へと生まれ変わる。
凌の方は左手の形を手刀に変え、生成していた光弾を手に纏わせる。
すると光弾は手刀の先から腕程の長さまで伸びて行き、光の刃へとその姿を変えた。
『わあ~!アンバーってやっぱり、きれ~な技を使うよね~♪けいじさんの光も、にょきにょき伸びてるし!』
『まさにアンバーさんはイリュージョン、東條さんはライトセーバー、ですね。』
「ああ言うの見てると、自分の能力って『映え』無いのを思い知らされるなぁ・・・」
「宮代君の能力は今の社会にとって一番脅威になる能力の一つなんだから、贅沢言わないの。」
「もっちろんです!」
「それにしても、風を操るだけじゃ無くて岩や氷も生成するなんて・・・あれが四神の力の一部なのだとしたら、それを巨大なスケールで繰り出す四神が『神獣』と呼ばれるのも、納得ね・・・」
四大元素を使役する、アンバーの人智を越えた力を垣間見た綾は目線を諭鶴羽ダムの方に向け、イレギュラーな事情がありながらも四神・白虎として力を振るう、バランの戦いを見つめた。
グァウウウ・・・
バランは口を開いて空気を吸い込み、凝固して風の弾丸「真空圧弾」を作り出すと、多量の水飛沫と共に諭鶴羽ダムから飛び出し、自分へ飛び掛かるパラグラーへ発射。
弾丸はパラグラーの胸部正面に直撃し、パラグラーは再び弾き飛ばされる。
更にバランは両手を突き出し、諭鶴羽山を丸ごと巻き込めそうな程に巨大な竜巻を起こしてパラグラーを夕焼け空へと巻き上げると、皮膜を展開してパラグラーを追うように飛翔。
やがて竜巻が消え、パラグラーは目を回しながらも即座に右手を振り上げ、自分へ攻撃を仕掛けて来るであろうバランへパンチで反撃しようとする。
ーー・・・お前には、必殺技の贈り物をしてやるぜ!
だが、パラグラーの反撃をバランは頭を右に傾ける事で必要最低限の動きで回避し、回避された事に驚愕するパラグラーの顔面を、激しく渦巻く風を纏った拳・・・神速の右ストレートで殴り付けた。
ギィアア・・・アアアウ・・・
弱々しい悲鳴を漏らしながら、失神したパラグラーは力無く林に落下して三度諭鶴羽山を揺らし、直ぐ後にバランも着地。
「本物のバラン」とは如何なる存在であるのかを、その振る舞いによって示したのだった。
グウィゥゥゥゥゥゥゥゥウウン・・・