‐Gift‐ オノゴロからの贈り物





「ぐ~っ!!言う事を聞かないのなら、こうだ!」




業を煮やしたババルウは、パラグラーの目の前で宙返りし、またしても違う姿へと変わった。
全身が蛇腹状になった、真っ赤な二足歩行の怪獣のような姿で、その姿を見たパラグラーは怯えたような様子を見せる。




ギィアアアアウ・・・




『またかわった!?』
『今度のは、中々厳ついわね?』
「あの姿は、『ババリューが行く!』に出て来る『赤王』とか言う怪獣の姿みたいで・・・つまりは、またパチモンだな?」
「と言う事は、やはりあの容疑者は以前逮捕した『変身』の能力者と違って、写真か何かで記憶さえすれば自在に変身出来るみたいね。」
「しかも、長時間ババルウや初之隼薙に成り済ましていた事を考えると、能力としては高い方か・・・まぁ、『変身』はコピー先の能力も使えましたけど、こっちは結局『疾風』の能力は使わなかったので、能力まではコピー出来ないみたいですけど。」
『だからこそ、あのパラグラーを使役しているのでしょうね・・・外見的恐怖によって。』




マインの指摘通り、パラグラーは「赤王」になったババルウに恐怖を抱いていた。
マイン達に攻撃をしないのも、バッジが足りないわけではなくパラグラー自身の温厚な気質が攻撃を拒絶した結果であり、彼はただこの山で大人しく過ごしていたかっただけなのだが、偶然シルエットがバランに似ていた事と、ババルウに見付かってしまった事・・・
この二点の、本人に悪気など全く無い不条理な理由がこの状況を作ってしまったのだった。




「この姿を見ても、まだ私の言う事を聞かないかぁ!?さぁ、奴らをその手でやってしまえ!お前なら出来る!やるんだ!パラグラー!!」




ギィィゥゥゥゥゥウウ・・・




恐怖の感情に支配されたパラグラーは、震えながら目を瞑ると・・・覚悟を決め、開眼すると同時に左手を振り上げ、マイン達へ目掛けて叩き付けた。




『「わ、わああああっ!!」』
『ラズリー、こっちよ!』
「皆さん、こちらへ!あいつ、遂に攻撃して来たな!」
「これで巨大「G」への脅迫と、殺人教唆の罪が増えたわね・・・!」
『心が恐怖に屈してしまったのか、パラグラー・・・!』




マイン達はどうにか後方に下がって回避したが、たった一振りの衝撃が諭鶴羽山を揺らし、他の登山者にも間接的にこの事件を知らせる。
巨大「G」の存在自体が起こす、人知の及ばない現象だ。




「な、なに?今の・・・?」
「山頂の方からだったよな?」
「おーい!!山頂辺りに怪獣が現れたみたいだぞー!!」
「「「怪獣!?」」」
「それって、巨大「G」って事じゃない!?」
「に、逃げろぉ!!」
「待ってぇ!置いていかないでぇ!!」




登山者達もまた恐怖心と生存本能に支配され、全力疾走で一目散に下山し始める。
夕方近くなので登山者は少なめになっていたものの、裏参道だけで無く逆方向の表参道も人々のパニックで騒然となった。




「ふはははははは!!マグレで避けれたようだが、次はかわせるかなぁ?」
「くっそ~!巨大「G」と戦うなんて聞いて無かったから、ドローンとか持って来てねぇぞぉ!」
「無いものは仕方無いわ。だから、宮代君はマインさん達を安全な所まで誘導して。」
「言われなくとも、全力で道案内させて貰いますとも!」
「巨大「G」との戦いは初めてだけど・・・やるしかない!綾さん、サポートお願いします!」
「勿論よ、東條君。」
「戦い?まさかお前達、ただの人間の癖にパラグラーと戦うとか言うつもりじゃないだろうな?」
「そのまさか、だよ・・・ただの人間が、これまでマグレで何度も能力者を逮捕して来たとでも思ってるのか?」
「浅はかなのよ・・・貴方は。」




ババルウは「赤王」から再び「真の姿」に戻り、一樹がマイン達の護衛に付くと共に凌は綾を同伴してパラグラーの前に位置取ったかと思うと、凌は左手の中指・薬指・小指を折り込んで人差し指だけを向ける、まるで銃に似たポーズを取り、綾は両目でしっかりとパラグラーを捉えながら、両手を突き出す。
すると凌の指が光に包まれ、パラグラーは全身を小刻みに震わせながら動きを止めた。




「なにぃ!?」
『けいじさんの手が、ピカピカしてる!』
『パラグラーの様子も、何か変な感じね?』
『これは・・・まさか、東條さんと二階堂さんは?』
「そう。凌は『光撃』の爾落人、綾さんは『念撃』の能力者なのさ。ちなみにオレも、『電脳』の爾落人だったりするんだけどね?」
『「じらくびと」に「のうりょくしゃ」って、はやてとほのかといっしょじゃん!』
『何となくは聞いてたけど、実際に見ると納得ね。』
『「G」を持つ方達による、スペシャルチーム・・・言うなれば、「トライスクワッド」と言うわけですね・・・!』
「オレとしては『新世紀中学生』の方がいいかな?あと1人増えれば4人になるし、全員スーツ着てるし。」




そう、凌は光を自在に使いこなす「光撃」の、綾は念力を駆使する「念撃」の「G」を持っており、パラグラーが動きを止めたのは綾の念力によるもので、凌は光を集めて自前の光線を放とうとしていたのだ。




「の、能力者のチームだと!?」
「そう言う事だ・・・パラグラーとか言ったな?脅迫された事には同情するが、公務執行妨害を犯した以上はおとなしくして・・・貰うぞ!」




光のチャージを済ませた凌は、左手の銃身から光の弾丸を発射。
光弾は綾の念力で拘束されているパラグラーの顔面に直撃し、その一撃にパラグラーは固まったまま後ろに倒れ込む。




ギィアアアアウ・・・




「ば、馬鹿なああっ!?」
『これが、「光撃」・・・!』
『ば、きゅ~ん!!ってかんじだったよ!すご~い!』
『伊達にあの世は見てない感じ?』
「いや、まだそこまでは行ってないけど・・・刑事で爾落人だし、いつかマジで霊界探偵になりそうで怖いよなぁ・・・オレはそうならないよう、後方支援に特化しとこっと・・・」






「綾さん、やりましたね。」
「ええ。でも、相手は巨大「G」だから油断は禁物よ。あれで死んだとは思えないし、気絶している隙に容疑者の方を・・・」




左手を元に戻した凌と、念力を解いた綾がババルウに目線を合わせた・・・その時。
再び揺れが発生し、凌・綾の左側とマイン達の右側に衝撃が起こった。




「「っ!」」
「おわっ!?」
『ひええええっ!?』
『これは・・・まさか!』
『「やってない」、のパターン?』




ギィィゥゥゥゥゥウウ・・・




衝撃を起こしたのは、瞬時に意識を取り戻し再度起き上がったパラグラーの両手であった。
光弾が直撃した顔の眉間に傷は付いているものの、人間と体組織の質量に圧倒的な差がある巨大「G」のパラグラーには、切り傷を付けられた程度の負傷でしか無かったのだ。




「俺の攻撃が、効いてない!?」
「思った以上に、巨大「G」は丈夫だったのね・・・」
「や、やれば出来るじゃないか!流石はイザナミからの贈り物だ!」
「それじゃあここは、やっぱ逃げるに限・・・」
「逃がすな!パラグラー!」




特捜課で一番の攻撃力を持つ凌の「光撃」が通じない、圧倒的な生物としての差による結果を見せ付けられた一樹は、一同が最も安全を確保出来る策を取ろうと下り道を一瞥するが、その策もまた潰された。
下り道は瞬時にパラグラーの左手で塞がり、とても通れるような状態で無くなってしまったからだ。




「・・・すんません!無理です!」
『むりだ~っ!』
『これで逃げ道も無くなったわね・・・』
『そうなると、山頂に行って表参道から逃げる他ありません!』
「じゃあ、俺と綾さんがこいつを引き付ける内に早く!」
「宮代君、護衛お願いするわ!」
「アイアイサー!!」




一樹はマイン達を連れながら慌てて山頂へ続く坂道を駆け上がり、凌は左手だけで無く右手も同じように指を曲げて銃身に変えると、今度は指先・・・拳銃で言えば銃口の部分に光を集め始める。




「背中を向けて逃げる敵を、見逃す訳が無いわぁ!やれ、パラグラー!」




そんな一樹達へババルウは不敵な笑みを浮かべながら前髪を掻き上げ、即座にパラグラーへ命令。
パラグラーは空いた右手を一樹達へ伸ばし、掴み取ろうとする・・・が、その手は一樹達に届く前に静止した。




「それは、こちらも同じよ・・・!」
「ついでに、お前もな!」




そう、綾の念力によるストッパーが働いたのだ。
その隙に凌は右手のチャージを先程よりやや早めに止めると、右手から光弾をババルウに向けて発射。
一発目に比べて小型な弾丸でかつ、利き手で無い事もあってあまり狙いを定めていない、言うならば威嚇射撃のような一発であったが、戦い慣れていないババルウを即座に回避させる事には成功した。




「うおわぁ!?ふ、不意打ちとは卑怯な!!」
「最初からちゃんとお前にも手を向けていた、だから別に不意打ちじゃない。と言うか、ヒーローって言うなら豆鉄砲くらい正面から受け止めるか、もっと早くかわせよ。」
「な、ならパラグラーよ、隙だらけのあの女を狙え!」
「補足だけど・・・戦いを仕掛けるなら、常に二手先くらいまでは考える事ね?」




動転しながらもババルウはパラグラーに新しい命令を下し、ターゲットを綾に変更したパラグラーは動く左手で目標を叩こうとするも、その目標の能力によって左手も動かなくなる。
両手が使えなくなったパラグラーに待っていたのは、一瞬認識から外れた凌からの二撃目だった。




ギィアアアアウ・・・




一撃目とはまた違う、正しく「レーザービーム」と呼ぶに相応しい棒状の光線は顔の先端の鼻部に直撃。
一撃目以上のダメージを与え、昏倒したパラグラーは参道に蹲る。




「しまった!パラグラー!」
「当然の、結果ね・・・」
「綾さん、大丈夫ですか?」
「ええ、まだ大丈夫・・・でも、長くは持たないから出来れば早めに、あいつを拘束して。」
「了解です!」




まだパラグラーが息の根を止めた訳では無いので、綾は念力による固定を続けているものの、今まで相手にして来た対象に比べて純粋に巨大過ぎる為に負担が多大であり、持久走を続けているかのように綾の発汗量が増え、呼吸が乱れ始めていた。
凌もまた、自分の攻撃ではパラグラーに致命傷を与えられない事は重々承知しており、このまま長期化による消耗戦を強いられると、遠くない内に限界が来る事は明白であった。
そんな現状を早急に収拾する為、凌は手錠を取り出しながらババルウを確保せんと、早足で歩み寄る。




「一応再確認だ、抵抗しないなら手荒には扱わない。大人しく投降しろ!」
「な、何を言う!パラグラーはまた死んではいない!すぐに起き上がって、今後こそお前達を始末するぞ!」
「お前こそ、パラグラーありきで話を進めているが・・・頼みの綱のあいつも巨大「G」である以上、いつか『対「G」条約』で自衛隊が出動するぞ?と言うか、その前にガメラとか言う『僕らの守護神』が来るかもな?」
「自衛隊!?ガメラ!?」




凌のその場の思い付きの言葉に、激しく動揺するババルウ。
これまで仕事でも客を相手に必要最低限の会話して来なかった、舌戦も不得意なババルウにとって、今まで投降の勧めに従わない者達ばかりの犯罪者を相手にして来た凌に、言葉による脅迫で勝てる訳が無かった。




ーー不味い、不味いぞこれは・・・!
こ・・・こうなったら!!


「・・・パラグラー、ここは任せたぞ!私は確実に倒せる方を倒す!さらばだぁ!!」




・・・が、窮地に立たされた者は予想だにしない行動をする時がある。
ババルウが取った行動は、山頂に向かう一樹達を先に始末する事であった。




「ま、待て!」
「そう来たわけ、最悪ね・・・!」




立ち幅跳びをしながら走っているかのような、異様に広い歩幅で山頂へ向かうババルウを凌と、念力を解いた綾が追う。
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