‐Gift‐ オノゴロからの贈り物





「おい、お前ら人を疑っておきながら親しげにペラペラと・・・!何だよそれ!あんなにオレに会いたかったって言った癖に、オレを偽者だって言うのかよ!」
『・・・会いたいと焦がれていた待ち人がペテン師だったら、そうなるでしょう。』
「だから、偽者なんかじゃ・・・」
『では、一つご確認ですが・・・白山権現に助けられたのは、穂野香さんの方ですよ?』
「!」
『わたし、「キューティー画家」なんかじゃなくて、ふつーにプロの画家を目指してるんだけど!』
『えっ、そうなの?』
『そ~、なんすっ!じゃないよ、お姉ちゃん!はやてならこの答えが正解なんだけど!』
『それはさておいて、見た目は完璧な隼薙君なのに、こんな簡単な引っ掛け問題が分からなくて、記憶喪失でもないなら偽者じゃなくて何なのかしら?だからマインさんとラズリーにメールでこっそり確認してみたら、2人も同じ事を思ってくれていて、すぐに計画に乗ってくれたわ。』
「・・・それ、お前らだってオレを騙したって事か!ふざけんなよ!」
『ふざけてるのはそっちだよっ!にせはやて!本物のはやてならこんな所にいないで、ほのかを探しにクリプラでも月のうらでも行ってるよ!あの時、ほのかとはなればなれになってあんなにメソメソ泣いてた人が、そんな「しおたいそう」なんかしないよ!!』
『「塩対応」ね、ラズリー。でもラズリーに乗っかるなら、隼薙君はアークを「使う」なんて物みたいに扱う言い方、絶対にしないわ・・・だって、大事な相棒ですもの!』
「・・・!」
「その辺りの事情は、俺達もラピスさんから聞いた。お前はそのアークが故障したから自分の「G」を使えないと言ったらしいが、それなら何故アークが一緒になる前から加減する事は出来ていた、使い方をある程度理解している筈の自分の「G」を今は使えない、なんて言ったんだ?」
「もしかして本当に「疾風」が使えないから、その場しのぎで適当に言ったんじゃねぇの?それに前に逮捕した『憑依』の能力者も、似たような簡単なカマ掛けであっさりボロ出してたしな?」
「ちなみにこの山での白虎の目撃例自体も、それより以前から巨大「G」らしき姿を見たと言う情報が、幾つかあったわ。白虎の正体はその巨大「G」の見間違いで、それに便乗しているんじゃないの?」
『と言うか、そもそも喋り方もぎこちない上に微妙に違ってたわよ?』
『シャレも分かんない、つまんないおしゃべりしかしないし!』
『何より、貴方の目と口元は嘘を付いている人のもの・・・悪事を働いている人の精神状態のものと同じでした。今なら私達も、まだ貴方の事を許せます・・・だから、正体を現しなさい!』




マインの叫びが象徴する、つい先程まで自分に親しく接していた「昔の友達」が、失望と怒りが籠った眼差しを向けながら、自分を激しく糾弾する・・・
この「隼薙を名乗る者」の状況はすっかり90度反転し、彼の焦りと苛立ちもまた激しくなる。




「お、お前ら・・・!オレがあくまで偽者で悪人だって決めつけんのか!ならオレが詐欺の「G」を使ってるって証拠を見せろよ!証拠を!」
「言ったな?え~っと、確かに外見のスキャン結果は100%に近いのに、なのにこんな明らかにボロが出てるって事は、「G」の悪用を疑った方が早いだろ?フツー。」
「ただの変装なら、骨格や声帯や黒子の位置の違いとかで引っ掛かる。と言う事は、「G」によるものと考えるのが自然なんだよ。」
「隼薙さん本人の歩行データは無いから、信用性の高い歩行認証が出来ないのは残念だけど・・・これを使えば、「G」による偽装では無いかどうかは分かるわ。さっ、これを手に嵌めて。「G」を使っていなければ、何も起こらないから。」




綾はスーツのポケットからブレスレットを取り出し、「隼薙を名乗る者」に差し出す。
この「G」ブレスレットは特捜課が発足当初から使っている、装着者の「G」を封じる能力者専用の装備品であり、Gnosisからの技術提供として配備された物である。
即ち、このブレスレットを嵌めている間の能力者はただの人間になるのだが・・・「隼薙を名乗る者」は無言のまま、ブレスレットを手に取ろうともしない。
ただ、心拍数や発汗量が増加している事が傍目から見ても分かるその態度は、彼への疑念を更に確実なものにしていた。




「どうしたの?早く嵌めなさい。」
「「G」で詐欺してないってなら、嵌めたって何の問題も無いよな?けど嵌めないって事は、今「G」が無くなったらマズイからじゃないの?」
「このまま黙秘しても、お前への疑いはいつまでも晴れないんだ。だから早く・・・」
「・・・その必要は、ないっ!!」




するとその時、「隼薙を名乗る者」は綾の「G」ブレスレットを強引に右手で振り払ったかと思うと・・・




「いゃあああああああっ!!」




妙に気合いの入った掛け声と共に、背後に向かって身の丈以上の高さで宙返りし・・・




『『っ!?』』
「「!」」
『「えぇ~っ!!」』




マイン・ラピスは面食らい、凌・綾は警戒を強め、ラズリー・一樹は驚きのあまり叫ぶ。
そう、「隼薙を名乗る者」は刹那の間に姿を変え・・・怪人ともヒーローとも取れる、黄土色の見知らぬ姿へと変貌していたからだ。
黒い全身タイツに骨格に少々似た形のアーマーを付け、鬣を思わせる髪から大きな二本の、上腕のアーマーから無数の小さい角が突き出し、目許だけを隠す仮面から覗く赤い眼差し。
明らかに人間では無い、二次元から抜け出して来たかのような異形の姿は、この者が今まで「初之隼薙」と言う姿の皮を被っていた事を、如何なる証拠よりも強く示していた。




「ふははははははは!どうだ!驚いたか!この姿を見られたからには、お前達!ただでは済まさんぞ!」




自ら初之隼薙の偽者である事を晒しておきながら、何故か意気揚々としながら一同に啖呵を切る謎の者。
しかし、一同の彼に対する見解は今まさに一致していた。




『『「「・・・誰?」」』』
「なにぃ!?せ、世代で無いとは言え、やはり私のこの姿を見ても誰も何も引っ掛からないとは・・・!インターネットと言う便利な道具がありながら、近頃の若造は・・・!」
「近頃の?」
『わかぞう?』
『いきなりペテン師に上から説教をされるとは・・・』
『とりあえず、中身はオジサンなのは分かったわね?』
「インターネットがある近頃の若造は、だそうだ。一樹。」
「えっ、オレ?つうかオレ、そこそこアニメや特撮は知ってるけど、あんなヒーローも怪人も知らねぇって!」
「とりあえず、あの姿にもモデルはあるみたいだから、宮代君は調査して。それより、貴方は今自分から隼薙さんに成り済ましていた事を証明したわね?」
「しかも、「G」による変身である事も含めてな。自首する気にでもなったのか?」
「違う!もう『風使い』でいる必要が無いからだ!ここが、お前達の墓場となるのだから!だが、その前に聞かせておいてやろう・・・
ある時は、生まれも育ちも淡路のしがないおもちゃ屋店員・・・
またある時は、淡路にも噂が届く旅人「風使い」・・・
しかして、その実態は・・・!
『変体』の能力者にして、ヒーローの名前と姿をお借りする者!ババルウだー!!」




若者との認識の差に対して怒る年長者かのような言動をしたかと思えば、まるでヒーローの変身後の名乗り口上の如く、演劇役者を彷彿とさせる大層な動作で自分の正体を解説し、最後は右手で前髪を掻き上げた後に絶叫する謎の者・・・「変体」の能力者・ババルウ。
意もすれば滑稽ですらある、唐突な立ち回りを見せられた一同は各々の反応を見せる。




『へ、「変態」だー!!』
『「変体」ね、ラズリー。』
「『編隊』?元パイロットか?」
「『変体』よ、東條君。そもそも『変態』には『姿を変える』って意味もあるんだけど・・・」
「あぁもう、ややこしい能力名付けんなって・・・えっと、『ババルウ』っと・・・」
『同じ言葉でも、ここまで意味が変わるとは・・・やはり、日本語は難しいですねぇ。』




一同が困惑する中、一樹が手持ちのタフブックを開いて手を翳すと、何の操作もしていない筈のタフブックが瞬時に複数の処理を開始する。
一樹はあらゆる機械への自在かつ高度なハッキング能力を持つ「電脳」の爾落人であり、やろうと思えばその手一つでサイバーテロや無人機の操作によるミサイル攻撃すら可能な彼の手に掛かれば、どんな検索エンジンよりも多くの情報を、一斉にかつ一瞬で得られるのだ。




「お前達、ヒーローを変質者扱いするか!なんたる無礼だ!」
『無礼なのは、貴方の方ですよ。貴方はその力で、初之隼薙と言う存在を侮辱したんですから・・・!』
『と言うかあたし達からしたら、ヒーロー以前に最初から詐欺師なんだけど?』
『そうだよ!そんなへんなヒーロー、いるわけないし!』
「いやいやいや、いるんだよぉ!お前らが知らないだけでぇ!」
「検索終了っと・・・確かにあんたはヒーローだな?見た目だけは。あのババルウっての、50年くらい前にやってた『ババリューが行く!』って言う、DVDも出てないマイナー特撮ヒーローのまんまパチもんさ。そりゃ、オレが分かるわけねぇって。」
「つまり、その姿も「変体」で変わったものと言う事ね?」
「いや、これが私の真の姿だ!ババルウこそが、本当の私なんだ!どいつもこいつも『ババリューが行く!』をソフト化しないから、マイナーヒーロー扱いしてちゃんと評価しないから、この姿でいようと決めたんだぁ!!」
「何だ、それ?まぁどちらにしろ、拘束すれば化けの皮はいくらでも剥がせる。これ以上抵抗するなら、俺達も・・・」
「それはどうかな?さっき言ったぞ、ここがお前達の墓場になると!この山に来たのも、面倒な『風使い』の知り合いを始末する為・・・今更後悔しても、もう遅いぞぉ!
見るがいいわ、バランの正体を・・・来い!パラグラー!!」




ババルウは高らかに叫ぶや、夕焼けに染まりつつある空を見つめながら口笛を吹く。
それと同時に諭鶴羽山が一瞬だけ揺れたかと思うと、ババルウの背後に広がる森林から巨大な「何か」が飛び出し、宙を舞う。




・・・ィゥゥゥゥゥ・・・




「なんじゃ、ありゃ!?」
「まさか、巨大「G」?」
「綾さんが言ってた、偽バランか・・・?」
『でも、あのムササビみたいな感じはバランよ?』
『ですが、あのババルウとか言う詐欺師は違う名前を叫んでいたような・・・?』
『た、確かにパッと見はバランみたい・・・でも、わたしが見えたのはバランじゃない・・・つまり・・・!』




巨大な「何か」はババルウのすぐ後ろの木々をへし折りながら着地、一同にその姿を見せ付ける。
その巨大な「何か」・・・人々が僅かな情報からバランと判断したその巨大「G」は、全体的にムササビに似たシルエットを持った二足歩行の爬虫類型、と言う点こそバランと共通する特徴を持っていたが、バランを知る者が見れば一目瞭然でバランでは無いと分かる姿をしていた。
背中から生えた無数の針のような体毛、バランに比べて短めな尾、阿修羅像を思わせる顔面のバランに対して優和さすら感じる爬虫類の顔立ち、そして何より違う紫のボディカラー。




ギィィゥゥゥゥゥウウ・・・




『そ、そっくりさんだぁ~!!』




類い稀な動体視力から、バランとの相違点に誰よりも早く気付いたラズリーが叫んだ通り・・・この巨大「G」の名はパラグラー。
バランとも、ましてやアンバーとも何の繋がりの無い、一部フォルムが似通っているだけの巨大「G」である。




「で、でけぇ~っ!!」
『ほんとにバランのそっくりさんじゃない・・・』
『これだけ類似点が多いと、他の方が見間違えるのも無理はありませんね・・・』
「これが、巨大「G」・・・!」
「直に見るのは初めてだけど、そこにいるだけで威圧されているみたい・・・」
「見たか!!これぞ諭鶴羽神社に祀られしイザナミからの贈り物!!その名もパラグラーだ!さぁ、パラグラー!私の目の前にいるこの目障りな人間を片付けてしまえっ!」




ババルウはマイン達を指差し、パラグラーに攻撃を促す。
だが、パラグラーは両手を握り締めて離す・・・を繰り返すだけで、一向に攻撃しようとしない。




『・・・あれれ?』
「攻撃して来ない?」
「どう言う事かしら?」
『ちょっと?その偽バラン、全然言う事聞いてないわよ?』
「バッジが足りないんじゃねーの?人から貰ったポケモンは、レベルに合ったバッジが無いと言う事聞かないんだぜ?」
「そんなの、知らん!さっさとやらんか!パラグラー!」


ーー・・・あのパラグラーと言う巨大「G」の表情、パワハラに悩んでいる方のものとよく似ている・・・もしや?
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