‐Gift‐ オノゴロからの贈り物











『・・・はい、分かりました。では、そのままお願いしますね。わざわざありがとうございます♪それでは♪』
「ラピス、誰に電話してんだ?」
『お得意様よ~?明日の依頼の確認♪』




太陽が西の空を沈んで行き、夕方が近付いた頃、4人は諭鶴羽(ゆづるは)山の裏参道にいた。
あれから隅々までアトラクションを堪能した後に「ONOCORO」を出て、隼薙からの誘いで登る事になったこの諭鶴羽山は、先山・柏原山と合わせた「淡路三山」の一角であり、関西百名山・近畿百名山にも選出され、イザナギとイザナミによる「くにうみ信仰」の伝わる修験道の聖地として、歴史の山百選にも選ばれた名誉ある山である。




『はぁ、はぁ・・・はやてって、ほんと山が好きだよねぇ・・・』
「おいおい、そう言うなよ。」
『隼薙さんは、岩屋山の白山権現に命を救われた事がありますからね。』
「そう言う事だ!山がオレを待ってるぜ~!」
『バランの目撃情報も、この山だったわよね?もしかして、アンバーに会えたりするかしら?』
「だからバラ、アンバーは瀬戸内海で眠ってるって言っただろ?いきなり会えないって。」
『それもそっか?』




丁石地蔵を合図にしながら参道を上がり、イザナギ・イザナミが乗る鶴が休んだとされる「神倉(かんのくら)神社」での休憩を挟みつつ、一行は山頂を目指す。
登山を始めてから一時間程が経ち、山頂が近くなって来た頃・・・






「止まれ。お前が『風使い』こと、初之隼薙だな?」
「少し、お話を聞かせて貰えるかしら?」
「ここまで来るのに大変だったんだから、あんまり抵抗しないでくれよ?オレ達、こう見えて警察だから。」




隼薙達は背後から突如現れた、黒いスーツを着た3人組に呼び止められた。
少し跳ねた黒い短髪と、実直さと未熟感を身に纏ったかの様な雰囲気を持つ青年・東條凌。
長い黒髪をポニーテールで流した、一目で分かる知的さと冷静さを持つ女性・二階堂綾。
青のセミロングヘアーと左目の泣き黒子が特徴的な、飄々さが滲み出る青年・宮代一樹。
一樹が言う通り、彼らはれっきとした警察官・・・しかも、「G」による犯罪を取り締まる為に「対「G」条約」の元、2019年に警察庁に新設された部署である、警視庁特殊捜査課・・・通称「特捜課」であった。
設立目的の都合、特捜課の活動は世間にはあまり公表されていないが、2020年12月に「変身」の能力者を逮捕して以降、能力者が絡む様々な犯罪・事件を解決に導いている。




「警察?オレに何の用だ?」
「お前に、「G」を使っての詐欺未遂疑惑があると通報が入った。任意同行してくれるなら、手荒な真似はしない。」
「さ、詐欺!?確かにオレは『風使い』とか言って四国中を旅してたけどよ、特に詐欺なんか・・・」
「『風使い』がした事は問題じゃないの。問題なのは今まさに貴方が『風使い』として、「G」を使っての詐欺をしている疑惑があると言う事なのよ。」
「誰かになりきるだけなら、コスプレもアウトになるからそれは大丈夫なんだけどさ、「G」を使って地元の有名人になりきって動き回ってるとなると、オレ達も十分に動く理由になるんだよ。」
「おい待て!お前ら、さっきからオレが偽者みたいな言い方してるけどな、何の証拠があってそんな事言ってるんだ?」
「通報があった、って言っただろ?この人達からな。」




有らぬ疑惑からの軽い追求に苛立ち、段々と声色を荒げ始める隼薙に対し、凌は犯罪者を相手にする際の振る舞いである、強気で毅然とした態度を一切崩さず、隼薙の隣にいるマイン達を指差す。
そう、通報者はマイン達だったのだ。




「・・・はあ?マイン達が通報者?」
『はい。私・・・正確に言えば、ラピスさんが通報しました。』
『あたし、実はこの人達の備品を何度か運んだ事があって、上司の方とはお得意様の仲だったりするの♪だからあたしが上司さんに直電したら、すぐにあの人達を向かわせるって言ってくれたのよ。』
『「おのころ」にず~っといたのも、この山をぜいぜい言いながらのぼったのも、この人達が来るまでの時間かせぎだったってこと!だまされたねっ!』
『そう言うわけで、皆さんここまでご足労お疲れ様です♪』
『ありがと~♪』
「いえ、以前似たような事件に携わった事があるので。」
「それに私達の活動はあまり公に出来ない都合、いつも内密に装備を運んで下さるお礼です。」
『シークレットポリス、と言うわけですね。私も今しがたラピスさんとラズリーさんから活動を聞きましたが、昨年9月の空港立て籠り事件にも関わっておられたとは。』
「まっ、何よりオレ達は刑事!困っている人がいたら、駆け付けるのが道理でしょ!」
「そう言うお前が一番刑事に見えない点ばっかりなんだけどな、一樹。」
「なっ、青い髪だから刑事に見えないってか?黒い髪だったら刑事っぽいってか?そう言う事か凌!」
「そこまで。宮代君は外見以前の問題でしょ?精神の弛みや日頃の行いの悪さが出てるって事。それに東條君も、私からすればまだまだ新米感が抜けてないんだけど?」
「「は、はい・・・」」
『このチームのリーダーは、二階堂綾さんのようですね。男を寄せ付けないそのクールビューティーさ・・・立派で素敵です。どうですか?事件が終わったら、お礼に近くのカフェへでも?』
「なっ!?あいつ、さりげなく綾さんを口説きにかかりやがったぞ!」
「俺がとても言えない事を、あっさりと・・・!」
『気にしないで下さいね?マインさんは生粋のフェミニストなので♪』
『そうそう!「すけとうだら」なんだ、マインさんって。』
『「スケコマシ」ね、ラズリー。それにその言葉、マインさんへの悪口になりかねないわよ?』
「お褒めの言葉、ありがとうございます。ですが、私は安易な褒め言葉でカフェに行くような女ではありませんので、そこはお断りします。」
「「ストレートに断った!?流石は綾さん・・・!」」
『オー、マイ・・・どこまでもクールですね、綾さんは。』
『マインさんが、あっさりフラレマンになっちゃった!』
『あたしが見込んだ通り、やっぱしやる女ね、二階堂さん♪』
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