‐Gift‐ オノゴロからの贈り物





「やりましたね、マインさん!」
『いえいえ、運命の女神からの贈り物ですよ。』
『それにしても、アトラクションの中にいたなんてね。もし屋内に行かれてたら、もっと時間がかかったわ。』
『でも、時間は止まってるから入りたいほうだいだよね?わたしも、どっかに入っとけば良かったな~?』
「あのね、私の能力はズルをする為のものじゃないんだけど・・・」


ーー・・・あの時の汽車とか、あの時の船の事は・・・時効だから大丈夫と言う事にしておこう。うんうん。




菜奈美が後ろめたい過去の乗車記録を思い返す中、ワールドクルーズのゴンドラが返って来る。
そして、ゴンドラから降りて来たのは・・・




「ふう~、中々楽しかったな~。」



茶の長髪、緑を基調にした服、首から下げた双眼鏡、右手に付けた風車の「相棒」。
それは間違いなく、マイン達が探し求めていた「風使い」・・・初之隼薙その人であった。




「「あっ!やっぱり『風使い』!」」
『隼薙、さん・・・!』
『本当に、隼薙君だわ・・・!』
『はやてだ・・・!はやて~!!』




感極まったラズリーは両手を広げたまま隼薙目掛けて駆けて行き、そのまま隼薙に激突しながら抱き付いた。
転倒こそしなかったが、よろけた隼薙の体勢が崩れる。




「お、おい・・・」
『もう!心配したんだよ!三年もず~っと行方知らずになってさ!ひっしに探したわたし達の「しんちょう」も考えてよぉ~!!』
『「心境」、ね、ラズリー。でも、会えて良かったわ。隼薙君♪』
『隼薙さん・・・貴方に会えて、本当に良かった・・・まずは、三年前の数々の愚かな過ちを謝罪します・・・!申し訳ありませんでした!!』
『ふえっ!?』
『マインさん!?』




マインは隼薙に会えた喜びと、彼や妹への所業への自責の念に声を震わせながら、人目も憚らずに隼薙の前で、地に頭を付けるかのような深々とした土下座をする。
これは隼薙に会えた時、必ず最初にしようと決めていた事だった。
一方、隼薙はラズリーに抱き付かれてから困惑が消えない。




「えっ、と・・・わ、分かった。分かったから落ち着けって。お前も、お前も・・・ほら。お前は顔上げて、お前は・・・オレから離れろ。」
『はっ!ついつい、はやてにハグしちゃってた・・・!』
『あ、ありがとうございます・・・!』


ーーそっか・・・
あの時、マインさんが意識を取り戻した時にはもう隼薙君はバランになってたから、ちゃんと顔を合わせて謝れなかったのね・・・




マインは涙を拭いながら立ち、ラズリーは赤面しながら慌てて隼薙から離れる。
ようやく、再会を喜ぶ空気になったのだが・・・




「と言うか、お前らなんて名前だっけか?三年も会ってないと、名前忘れてよ・・・」
『ええ~っ!わたしの名前、忘れちゃったの!?』
『それは酷くない?隼薙君?』
『まぁ、この三年間に色々とお辛い出来事があったのでしょう。拝見する限り、記憶喪失の症状はあまり見られませんし・・・失礼。改めまして、私はマイン・シーランです。』
『しょうがないな~。わたしはラズリー・T(ティエル)・スピリーズ!もう忘れないでよ!』
『ラピス・F(フォルス)・スピリーズよ。次忘れたら・・・罰金だからね?』
「あ~、そういやそんな名前だったわ!すまんすまん・・・それで、そこの2人は?」
『こちらは桧垣菜奈美さんと、長瀬真人さんです。』
『ななみもまさとも、キミを探すのを手伝ってくれたんだ~。』
『この2人がいなかったら、隼薙君は見付からなかったかもしれないのよ?』
「長瀬真人です。『風使い』の話は前から知ってたので、会えて光栄・・・」
「へぇ、貴方が『疾風』の爾落人・・・」
「・・・な、なんだよ。人の事ジロジロ見てんなよ。」




菜奈美は隼薙を、じっとりとした眼差しでまじまじと見つめる。
彼女は記憶の中の「ある男」と隼薙とを重ね合わせ、彼との近似値をスキャニングしていた。




「・・・なんか、何処かの電磁バカとちょっと似た匂いがするわね。もしかして、弄られタイプ?」
「で、電磁バカ?」
『ご名答!そこまで言ってないのによく分かったわね、菜奈美ちゃん♪』
『ななみって、もしかして「けいじ」なの!?』
「いや、ただの大学生だから・・・とりあえず、探し人は見つかったので俺達はそろそろ失礼します。」
「それもそうね。でも、無事に見つかって良かったわ。」
『そうですか・・・今日は本当に、ありがとうございました。このご恩は、忘れません。』
『あたし達こそ、観光を邪魔してごめんなさいね。でもまた、こっそり運びたいものがあったらご指名お願いしま~す♪』
『じゃあね~!ななみ~!まさと~!』
『ボン、ヴォヤージュ・・・よき旅を!』
「はい!皆さん、さようなら!」
「また会えたら、その時は宜しくね~!」











「いやぁ、まさか一時期噂になった『風使い』に本当に会えるなんて・・・あれ?菜奈美、どうしたんだよ?」
「実はね、真人・・・マインさんから、ほんの少しだけ「G」の気配がしたの。」
「それって、マインさんが実は能力者ってだけなんじゃ?」
「ううん。能力者にしても、気配は小さかったんだけど・・・その気配、マインさん達の話に出た『ジャイガー』と同じだったのよ。」
「えっ?でも、俺達は隼薙さんと妹の穂野香とバランが、ジャイガーからマインさん達を助けてくれたとしか・・・」
「・・・私、バランとジャイガーが戦ったあの時、未来から来た友達に連れられてその場にいたの。だから勘違いは無いし、マインさん達から悪い感じや邪悪な「G」の気配はしなかったけど・・・これは多分、ただの再会にはならなさそうかも。」








こうして、菜奈美・真人と別れた3人は隼薙と共に「恐竜ワールド」を歩きながら、隼薙から空白の三年間についての話を聞き出す事にした。




『ねぇ、はやて!ほのかは何処にいるの?いっしょに来てるんだよね?』
「ほのか?えっとな・・・」
『あれ?穂野香ちゃんはいないの?シスコンの貴方の事だから、絶対連れて来たか穂野香ちゃんに着いて行ったと思ったんだけど?』
「いやぁ、それがさ・・・」
『・・・もしや、喧嘩中だったり?』
「そう!そうなんだよ!しょうもない事で喧嘩してさ、そのままあいつクレプラキスタンに行っちまったんだよ!」
『クレプラキスタン、ですか?』
『クリプラ・・・?聞いた事無いなぁ。』
『その国、アメリカと外交していない国だからニュースとかに出てこないの。ラズリーが知らないのも、無理は無いわ。』
『つまり、マイナーな「じょがいこく」って事だね。』
『「諸外国」ね、ラズリー。』
『しかし、クレプラキスタンは1993年にテロが起こった事もある、中東の国と言う場所を考えても、正直言って治安は良いとは言えない国です。いくら能力者で喧嘩中とは言え、穂野香さんをお1人で行かせていい場所では無いと思うのですが・・・?』
「う、うるせぇって!お前らがシスコンシスコン言うから、オレだって妹離れする気になっただけだよ!」
『そうなの?シスコンは隼薙君のアイデンティティの一つだったのに、何か寂しいわね・・・』
『自立は大事ですが、なるべく早く仲直りして穂野香さんを迎えに行って下さい。物理的な距離が離れたままだと、比例して心の距離も離れてしまい、時間が経つ程に関係の修復が困難になって行きますので。』
「わ、分かってるって。」
『うーん・・・アークとか、その辺うるさそうなのに・・・あっ、そう言えばアークもさっきからしゃべらないね?どうかしたの?』
「アーク?それはな・・・そう、今故障中なんだよ。無理に使っちゃってな・・・」
『そうなの?』
『頂いた人が謎ですから、それは困りましたね・・・』
『わたし、アークともおしゃべりしたかったのになぁ・・・あっ!じゃあ、アンバーに会わせてよ!はやてが戻ったんだから、アンバーも「もとのもくあみ」でしょ?』
『「元通り」ね、ラズリー。それだとアンバーが無事じゃなくなるわよ?』
『貴方と共にバラン、つまりアンバーさんの目撃情報もありましたから、アンバーさんもお元気ですよね?』
「アンバー、はな・・・今、瀬戸内海で眠ってるんだよ。」
『えっ?お休み中?』
『そうなの?』
「ほら、あのガメラだって怪獣と戦う時以外は何処かの海底で眠りに付いてるらしいじゃねぇか。アンバーも同じ四神なんだから、そりゃそうなるって。」
『・・・確かに、四神が必要以外に現れないのは力を蓄えているから、と言う説を見た事があります。朱雀ことギャオスも、五年前のエアロ・ボット暴走事件以降はあまり姿を見ないそうですからね。』
「だろ?ギャオスだってきっと力を蓄えてんだから、アンバーもそうなんだよ。」
『ん~!出来ないことばっかりだなぁ~!はやてがこんなに使い物にならないなんて・・・なら、せめてリアル「らせんがん」、見せてってばよ!「風使い」!』
「螺旋丸?風の技か?風もなぁ、アークが使い物になんねぇから控えてんだよ。ここは人が多すぎるし、もしここに被害とか出たら激ヤバだろ?」
『え~っ!!』
『そうなの?』
「そうだよ。」


ーー・・・あれ?
はやてってポケモン好きなのに、お姉ちゃんの「そ~なの?」に「そ~なんすっ!」とか返さないんだね?
あの時、「ゴーリキー」には「カイリキー」で返してたのにな~?


『私と出会った時に見せた、あの小さな竜巻も無理なのですか?』
「無理なもんは無理!人生諦めも大事、ってな!」
『そう、ですか・・・分かりました。』
「んな事より、折角また会えたんだから観光しようぜ?」
『まっ、「やくぶそく」のはやてに出来るのはそれくらいだよねぇ~?』
「うるさいな~!」
『・・・んっ?』




と、ここでマインは気付いた。
ラズリーがまたいつものように明らかに熟語の言い間違いをしているのに、ラピスからの訂正と言う名のツッコミが来ないのだ。
そのラピスを見てみると、スマホを片手にメールを早打ちしていたが、その様子は妙に真剣であった。
ちなみに、ラズリーは「役立たず」と間違えて「役不足」と発言しており、蛇足ながら「役不足」は「実力不足」の意味合いで使われる事が多いが、本来はその逆の意味合いを持つ言葉である。




ーー・・・ラピスさん、貴女もしや・・・?




しばらくして、マインとラズリーに同時にメールが来た。
マインは無言で何かの確信を持った堅い表情を見せる一方、ラズリーは露骨に仰天する。




『へえっ!?』
『・・・』
「んっ?どうした、ラズリー?」
『い・・・いや、ちょっとびっくりするニュースが来ただけ・・・つ、次のコンクールでわたしの絵がメインだって・・・』
「そうか、そりゃ良かったな!」
『そうなのよ~♪だからさっき、コンクールを見に行けるようにお得意様とメールで打ち合わせしてて~♪』
『そうみたいですね。これでまた、「キューティー画家」への道に一歩近付きましたね?ラズリーさん。』
『そ、そうだね~♪やった~!』
「キューティー画家って何だよ。」
『「宮廷画家」の事よ?ラズリーの昔からの夢なんだから♪』
「そういや、そうだったな!」
『とにかく、隼薙さんの言う通り観光に戻りましょう。是非、新しい思い出を作らないと。』
『そうそう!わたし、「シーサイドプロムナード」で海が見たいな~!』
「全く、仕方ねぇな。じゃあ、行くか!」
『あっ、お得意様から電話掛かって来たから、あたしは少し抜けるわね~?』




そう言いながら、そそくさと隼薙達と離れたラピスはスマホで電話の着信に出る・・・のではなく、電話を掛け始めた。




『・・・あっ、もしもし?倉島さんですか?いつもお世話になっております、ラピスです♪』
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