‐Gift‐ オノゴロからの贈り物











『マインさ~ん!おはよ~!』
『お久しぶりです、ラズリーさん。一年見ない間に、ファンタジックな美しさにより磨きが掛かりましたねぇ。』
『ふえっ!?そ、それは「げーじゅつか」として最近上手くやれてるから、かなぁ?』
『あの日描いた「心との出会い」がコンクールで入賞してから、ラズリーさんの芸術活動は絶好調ですね。それから、ようやくお会い出来ましたね?ラピスさん。』
『おはようございます、マインさん。でもその言葉は、これから探すモノを見付けた時に取っておきません?』




翌日、朝10時。
マインは車を使ってラピスとの待ち合わせ場所である、兵庫県・淡路島のテーマパーク「淡路ワールドパーク ONOCORO」に来ていた。
約束を取り付けた張本人であるラピスに加え、姉がいる所に妹もあり・・・と、ばかりにラズリーも同行。
ここに来た目的は、観光やイベントショーの見学・・・では無く、「風使い」がここで目撃された事に他ならない。




『「風使い」・・・つまり隼薙さんを見たと言う事は、アンバーさんと穂野香さんは元に戻れたと言う事でしょうか?』
『そうですよね?じゃあ、バランと言うよりアンバーを見たって事になりますけど、あの日から全く一目に付かないようにしてるみたいですから、他の人にはバランとアンバーの区別は付かないでしょうね。』
『みんな、分かってないなぁ~。ネットを見ても、ガセや作り物ばっかし!あんなのにあたふただまされるなんて、「うつすかちなし」だね!』
『それでは某バラエティ番組になってしまいますよ、ラズリーさん。しかし、貴女達もバランについてかなりのリサーチをされていたのですね?』
『はい。だからこそ、「風使い」の情報をいち早く掴めたんです。』
『お姉ちゃん、時間が空いたらすぐに調べてたもんね~。それにこのスクープ、あの時来た岸田さんって人からのタレコミなんだ~!』
『あぁ、あの時バランが去ってから突然現れた、騒がしい人ですか。あの人とも連絡先を?』
『あれから何度か、あの人の仕事先の荷物を運びましたので。一度でもご依頼を下さった方の連絡先は、全て保存しているんですよ♪』
『それは素晴らしい、アドレス帳のフル活用法ですね?』
『それにしても、はやてもアンバーも元に戻ったらわたし達にすぐに会いに行くって約束したのに~!こんなの、「ばくしょうもの」だよ!』
『「薄情者」ね、ラズリー。まぁ、隼薙君は爆笑ものレベルのいじられ体質だけど♪』
『はははっ。こうして話していると、すぐにあの日の事を思い出しますね。それだけ、彼らは私達にとって特別な存在なのですね・・・』




近況・情報・思い出を共有し合いながら、3人はそれぞれが監視カメラのように左右を見渡しながらパーク内を回って行くが、探し物は見付からない。
空を掴む状態から、少し実感を感じられた状態になっただけで、そう簡単に見付からないと思ってはいたものの、テーマパークにいるのに3人の心中は穏やかでは無くなって行く。




『・・・入り口に戻って来ましたか。いませんでしたね、隼薙さん・・・』
『「風」みたいに自由で気まぐれとか言ってたから、ここにはもういないのかしら・・・?』
『も~!はやてのくせに「ふーたろー」気取りなんかしなくていいのに~!』
『「風来坊」ね、ラズリー。それだと、五つ子の女の子とラブコメしてる男の子の名前になっちゃうわよ?』
『私としては、「風来坊」と聞くとラムネと夕陽が似合いそうな感じがしますが・・・それなら、夕方までに再会したい所で・・・』
「菜奈美、あそこにいたのってやっぱり『風使い』じゃないか?」
「まぁ、そっくりだったけど能力者にしても気配の感じが・・・」
『『『!!』』』




と、そこへ突如通りすがった「風の噂」を、3人は逃さなかった。
3人は一斉に振り返り、噂を流した2人の男女に背後から話し掛ける。




『ちょ、ちょっと待ってぇ!!』
「「?」」
『その「風使い」についての話、詳しくお聞かせ下さい!』
『あたし達、その「風使い」を・・・あら?貴女、菜奈美ちゃん?』
「あっ、ラピス!それにラズリーも!」
『ほんとだ!ななみだ~!』
「えっ?菜奈美、この人達と知り合い?」
「あの緑色の髪の人は知らないけど、ラピスとラズリーは真人と会う前くらいまで、何度かお世話になった事があるの。えっとね・・・」




風の噂を流していたのは、男友達の長瀬真人と一緒に観光に来ていた「時間」の爾落人・桧垣菜奈美であった。
御浜の地の灯台で密かに暮らしていた彼女は、2020年7月に偶然真人と出会った事と、ある事情で自分の命を狙って来た男女・川崎隆文と渋川蘭子との一件で灯台に居られなくなったのを機に、真人と姉の依子がいる長瀬家に居候として暮らす事になった。
居候になってからは菜奈美も真人と同じ高校に通い、現在は依子からの勧めで真人と共に地元の大学に通っている。
ちなみにスピリーズ姉妹とは、灯台で生活していた頃に自分の存在が周りに知られないよう、新しい生活用品や服を買う際に何度か「RuRi」に発送して貰っていた事で、お得意様になっていたのだった。




『・・・それで、最近はご依頼が無かったわけね~♪でもありのままでいられる友達が出来たって事だから、それは良かったじゃない♪』
『ねぇねぇ、ほんとにななみとまさとって友達未満なの~?「どーせー」してるんでしょ~?』
「と、友達だって!別に菜奈美にいやらしい事なんてした事無いし!」
「いや、真人も年頃だから私にいやらしい事の一つや二つは考えてるだろうけど・・・そんな事をする度胸も無いから、大丈夫かな~?」
「いや、俺もう一応大人だから・・・」
『素晴らしい一般人の友と出会えて、本当に良かったですね。菜奈美さん。「時をかける孤独な美少女」に、ようやく安息の時が訪れたわけですね・・・』
「ま、まぁそうかな・・・あっ、それより『風使い』について聞かなくていいの?」




お互いの事情を話し合い、一同は合流した本題に入る。




『そうそう、それそれ!』
『菜奈美さんと真人さんは、何処で隼薙さんを見たのですか?』
「ミニチュアの所です。遠目で見えただけですぐに何処かへ行きましたが、間違いはありません。」
『ここって言えばあのミニチュアの所だし、隼薙君なら行きそうね。』
「昔、幾つか実物を見た私からしたらなんか微妙だったんだけど・・・そうなの?」
「その感想は少し酷じゃないか?菜奈美・・・見てからそんなに時間も経ってませんし、とりあえず俺と菜奈美も協力します。」
「真人?私は協力するなんて・・・」
「だって、放ってなんておけないじゃないか。マインさんの命の恩人が、ここにいるかもしれないんだぞ?菜奈美だって、七年前に再会した『電磁』の人にまた会えるなら、会いたいだろ?」
「な、なんでそこであいつの名前を出すのよ!」
『「電磁」の人・・・な~るほど、あのお得意様と、ねぇ♪』
『これは、いいコト聞いちゃったねぇ~?』
「ほら、こうやって変な誤解を生むじゃない!も~!」
『これはこれは・・・真人さんが、菜奈美さんの「ボーイフレンド」で無い理由が分かりましたね?』




その単語を聞くや、顔を赤らめて余裕の態度を崩し、とても約4000年の時を生きているようには思えない、まるで女友達から好きな男子の事で尋問されている女子学生のような反応を見せる菜奈美。
どうやら彼女にとって、「電磁」とは昔の知り合い程度で収まる存在では無い事を、今会ったばかりのマイン達も即座に悟った。




「わ、分かったわよ!私も協力するから、ここから電磁バカの話は一切禁止!」
『「電磁バカ」、ねぇ♪りょ~かいっ♪』
『わたしもりょ~かい!ぐふふ~。』
『レディからの頼みなら、私も了解しました。』
「まぁまぁ、落ち着けよ菜奈美。それより協力してくれて、ありがとう。」
「真人はお人好しだから、そう言いそうな気はしたわ・・・と言うか、ラピスもラズリーもそうやって私を笑ってるけど、私が凄い爾落人って事、忘れてるでしょ?だから、今日は特別に見せてあげる・・・『時間』の力を!」




そう言うと菜奈美は右手を前に向け、先程の外見相応の振る舞いから一転した、歴戦の戦士を思わせる凄味のある表情を見せたかと思うと・・・










・・・その瞬間から、マイン達を置き去りにして全ての「時」は止まった。



『『『!?』』』
「これが、私の能力。私は『時をかける少女』にも、『ザ・ワールド』にもなれるって事。」
「そうか、時を止めればいくらでも隼薙さんを探せる!やっぱり凄いよ、菜奈美!」
『と・・・ととと、止まってる~!!』
『能力だけは聞いてたけど、こうして見ると本当に菜奈美ちゃんってヤバいのね・・・』
『オー、マイ・・・なんと言う事でしょう・・・』
「そう言うわけで、今からタイムパトロールの開始よ!」




「時」を止めた張本人の菜奈美と、何度か体験している真人を除く3人から驚愕の感情が抜けないまま、5人はそれぞれ分担しての捜索を開始。
観覧車に乗るカップル、「童話の森」を楽しむ親子、「遺跡の世界」を駆ける学生達、今まさに入場しようとしている男性・・・その全てが一時停止したままの「ワールドパーク」を、時間の理から逃れた5人が障害物の如く立ち尽くす人々を外見を確認しながらかわし、巡って行く。






「喋ってた時間的には、この辺りにいるか・・・?」




「これ続けるのも限度があるから、早く見つかってよね・・・」




『隼薙く~ん?そこにいるのは分かってるのよ~?あの時泣きべそかいてたのをバラされたく無かったら、早く顔出しなさ~い?』




『はやて~!どこ~!さっさと出てきなよ~!!は~や~て~!!
・・・って、時間が止まってるから、はやてには聞こえてない?』






『隼薙さん、一体何処にいらっしゃって・・・んっ?』




そして、風車が目印である「ワールドクルーズ」を探すマインの目が、見覚えのある茶の髪を捉えた。



ーーあれは・・・間違いない、隼薙さんだ!




マインはズボンのポケットからスマホを取り出し、スピリーズ姉妹に加えて連絡先を交換した菜奈美・真人にもメールを送る。
進まない時間の壁を超えた、菜奈美の加護にいる5人だけの連絡手段だ。




『ワールドクルーズの乗客に、待ち人発見です!』




メールを見た4人は即座にマインと落ち合い、菜奈美が時間停止を解く。
静止した時が再び動き始め、観覧車のカップルは手を繋ぎ合い、「童話の森」の家族は笑顔を分かち合い、「遺跡の世界」を駆ける学生達は次の場所へ向かい、男性が入場した。
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