‐Gift‐ オノゴロからの贈り物
2022年・4月。
新たな季節の到来を告げる緩やかな春風が吹く、高知県・越知市の精神診療所「SIN」の一室に、パソコンを操作するマインの姿があった。
パソコンの画面には検索エンジンによる検索結果が映されており、様々な画像やサイトへのリンク・説明文が表示されているが、マウスを操作するマインの表情は何処か浮かない。
『・・・やはり、見つかりませんか。』
マインが検索していた単語は「四神 巨大「G」 目撃情報」であり、多種多様な検索結果こそ出てくるものの、その中に彼が求める情報は全くと言っていい程見付からず、既に知っている他の巨大「G」の情報や信憑性に欠ける情報が大半であり、挙げ句の果てには巨大「G」と無関係な「四神」を扱った事柄まで検索結果に引っ掛かる始末だった。
『去年のエジプトに現れた巨大「G」・ヤマタノオロチと謎のロボットか、同じ四神でも六年前から人気者のガメラ・・・玄武に関する事しか出てきませんね。最近のネットはどこもかしこも匿名掲示板化が進んでいて、見ているだけで頭が痛くなる所ばかりだ・・・』
かつて弟を死に追いやった、「ネット」と言う自身にとっては魔境のような場所。
頭痛の種を増やしてでも、マインが魔境へ赴く理由。それは・・・
『・・・バランは、隼薙さんとアンバーさんとアークさんは今、何処に居るのでしょう・・・?』
三年前、忘れもしない・・・いや、忘れてはならない出来事。
自身の心に潜む闇を「悪魔」に利用され、悪魔の操り人形として解き放ってしまった存在・・・四神・白虎。
白虎を解き放つ為に傷付けてしまった、ある兄妹・・・物言う風車を相棒にした兄と、白虎の心を宿した妹。
兄は白虎と一つーーその名はバランーーになり、悪魔を消し去り、妹と共に朝日の中へと消えて行き・・・それ以来、風の噂にも聞かなくなってしまった彼らを、マインは探していたのだ。
『仕方ありません、一番情報量と信憑性がある「GALLERIA」へ行って・・・』
と、そこへマインの携帯に電話が掛かって来た。
着信者の名前に、バラン程で無いものの久方振りの感覚を覚えたマインは少し心を躍らせながら、着信に出る。
『もしもし、こちら精神診療所「SIN」です。』
『あの~、直接携帯に掛けてるんだからその第一声は無いんじゃないでしょうか?マインさん?』
着信相手は、三年前の事件で図らずもお世話になってしまった、フリーの運送屋「RuRi」の社長である女性・ラピス。
お互いの仕事の都合もあって、ここ一年程は会っていないが、それでもマインにとっては疲弊した心を癒すには十二分過ぎる相手であった。
『ふふっ、ジョークですよ。お久しぶりです、ラピスさん。相変わらず、素敵で大人な声ですね?』
『貴方も、そのフェミニンさは相変わらずね♪お久しぶりです。早速ですけど、良いニュースと少し悪いニュース、どちらから聞きます?』
『少し悪いニュースから。』
『では、いきなりですが明日空いていますか?淡路でお会いしたいんですけど?』
『おっと・・・失礼ですね、ラピスさん。貴女は少し悪いニュースと言いましたが、私にとってレディからのお誘いは悪いニュースにはならないのですが?』
『あら、そうですか~?突然のお誘いだから、そう思ったんですけど~?』
『言っている事と思っている事が、逆になっていますよ?まぁ、それはさておき明日は休みなので、お誘いはオッケーです。』
『それは良かった♪ありがとうございます♪』
『いえいえ。それで、良いニュースとは?』
『・・・淡路で、「風使い」とバランが目撃されたそうですよ?』
『!?』
マインの求めていた情報の糸口は、意外な所から不意に見つかったのだった。