本編
グァウウウ・・・!
バランはゆっくりと全身の針を抜き、アンバーを・・・穂野香を傷付けたジャイガーへの怒りを力が沸き立つ掌(たなごころ)に込める。
それからバランは地面に捨てていた悪魔の笛を掴み、全身に風を纏うと全速力でジャイガーに駆け出して行った。
ジャイガーも必殺のマグネチューム光線でバランを向えうつが、バランは天空高く舞い上がり、ジャイガーの反撃を避ける。
グヴォゥゥ・・・!
空中のバランに追撃を加えようとジャイガーは空を見上げるが、その瞬間にジャイガーの額に突き刺さったのは、バランが天空より投げた悪魔の笛だった。
アグァアア・・・
額から紫の血を吹き散らし、苦悶するジャイガー。
しかし悪魔の笛の「G」により、みるみるうちにジャイガーから力が奪われて行く。
グウィゥゥゥゥゥゥゥゥウウン・・・
そして、バランは風の翼と共にジャイガー目掛けて突っ込み、右手に集めた最大級の疾風の全てを、拳の一撃としてジャイガーの額に食らわせた。
アグォァァアアアアアア・・・!
悪魔の笛がジャイガーの体内に入り込み、それと同時に逆巻く嵐がジャイガーの体内で吹き荒れ、悪魔の笛もろともジャイガーは破裂。
断末魔の悲鳴だけを残し、ジャイガーの肉片は黒い雲のようなものへと変わり、弾け飛んだ末に消え去った。
『勝った!はやてが・・・いっ、やったあああああっ!!』
『やったわね!ラズリー!隼薙君が、アンバーが勝ったのよ!』
『我らの、勝利だ・・・!』
グウィゥゥゥゥゥゥゥゥウウン・・・
辺りに響く、スピリーズ姉妹の喜びの声と、バランの勝利の咆哮。
アークも静かにだが、確実に勝利の実感を噛み締め、マインはジャイガーが消えた事実をゆっくり受け入れていく。
『・・・これでもう、あの悪魔に苦しむ人はいない。もう心を弄ぶ存在は・・・いないんだ。そうだろう、カル。ありがとうございます。アンバーさん・・・隼薙さん。』
一方、アンバーは手を下ろして光が消えた勾玉を見つめ、自分の心の中でこの戦いを見守っていた「彼女」に話しかける。
――わたくしの忌まわしき運命は、今断ち切られました・・・
ラピス様。ラズリー様。マイン様。アーク様。
最後までわたくし達を支えて下さった、貴方達の存在のお陰です。
そして、隼薙。穂野香。
もしもわたくしが貴方達の元に来なかったら、わたくしは今も・・・
貴方達には、感謝してもしきれません・・・!
こみ上げる万感の思いに、涙を流すアンバー。
そんなアンバーの前に、戦いを終えたバランがやって来る。
そう、「彼」が帰って来たのだ。
――・・・あいつは俺がぶっ飛ばしたんだ、だから泣くんじゃねぇって。
その顔と体でよ。
あと・・・こんな事してすまなかった。
それから、良かったな。アンバー。
――・・・私、ずっと見てたよ。
お兄ちゃんの無茶も苦しみも、アンバーの悲しみも痛みも。
でも、お兄ちゃんとアンバーが、みんなの力でジャイガーは倒せた!
だから、今度は私が頑張る番だよね!
もうすぐこの迷宮を抜けるから、待ってて!
お兄ちゃん!アンバー!
「・・・はい!」
心の中へ聞こえる、初之兄妹からの励ましの声。
アンバーはそれに応える為、満面の笑顔でそう返す。
夕日に変わった太陽は地平線に沈み、夜を迎えようとしていた。
『ねっ!教科書に載るような大事件だったでしょ!菜奈美ちゃん!』
「う、うん・・・こんなに圧倒される体験なんて、久しぶり。四神をまともに見るのは始めてだけど、本当に凄い「G」なのね。」
『そうそう!こんなすっごい「G」がいるんだから、日本ってほんと「G」のメッカよね~。』
――それに、こうやってマイン君は苦しみから解放されたんだね。
良かったねっ。カル君。
「そういえば、あの戦いで白虎が持ってた道具から、あの時みたいな「G」を感じたの。」
『それって多分「琴静」だよね?菜奈美ちゃんが爾落人のみんなと協力してたジャンヌ・ダルクちゃんが持ってた、「G」を打ち消す「G」。』
「そうなのよ。でもアトランティス人って、そんな「G」までも再現してたの?」
『厳密には、「殺ス者」の力の再現ね。』
「『殺ス者』?」
『その名の通り、因果をも殺せる「究極の破壊」。全てを創る「至高の創造」と対になる存在。きっとアトランティス人は「G」を作るだけじゃなくて、「G」に対抗する為に「G」を消す手段も講じてた筈よ。それの一端として生まれたのが、琴静を再現したあの悪魔の笛みたいね。』
「ま、待って!ジャンヌはその「G」を神から貰ったって言ってたわ!けど、琴静が「殺ス者」の力の一端なのなら・・・」
『その「神様」の事も、本当にそんな存在なのか疑った方がいいかもね。そして、それはいずれ「殺ス者」が動き出す予兆よ。だってこの世の中、今までにないくらい「G」に満ちた世界になってるんだもん。きっと遠くない内に菜奈美ちゃんの元にも現れるわ。全ての「G」を「殺ス」為に、ね。』
「・・・ねぇ、貴方ってちょっと先の未来から来たのよね?でも、日本がとんでもない事になってるのなら・・・」
『お~っと!それ以上の質問は禁則事項だぞっ♪でも、二つ言える事があるなら、日本沈没と「殺ス者」は関係ないわよ☆それからもう一つ!あたしの知る菜奈美ちゃんは、そんなふざけた存在になんか負けないって事!』
「そっか・・・」
『あとあと、もう一個だけ言うなら沢山の爾落人とお近づきになっといた方がいいかも♪例えばあの「電磁バカ」君とか☆』
「えっ!?ちょ、ちょっと!なんでそんな事まで知ってるのよっ!」
『あれ~?最初に言わなかった♪あたしと菜奈美ちゃんは唯一無二の大親友だって!それにあたしとお近づきになれたんだったら、「殺ス者」なんて恐るるに足らずだよっ☆』
「まぁ、確かに貴方の「G」は凄いけど・・・」
『それよりさっ、次はどの時代に行く?あたしのオススメは1963年1月の青龍覚醒か、2017年8月のガメラVSギャオス!どっちにする?』
「ま、待ってって!だからわたしはタイムマシンじゃ・・・」
密かに白虎の戦いを見守っていた2人の爾落人も、慌ただしく決戦の地を去って行った。