本編





「隼薙っ!!」




・・・と、その時。
バランの耳に聞こえた、この意志を呼ぶ声。
懐かしくて愛おしく、慎ましくも力強い声。




『はやて!負けちゃだめぇ!!おねがいだから、負けないでぇっ!!』
『隼薙君、貴方男なんでしょ!だったらぐずぐずしないで、もう一発くらいぶん殴ってみなさい!』
『隼薙さん!私は信じています!貴方の心の強さを!私は負けた、ですが貴方なら負けない!そうでしょう!』
『隼薙!お前はこんな姿になりながら、再びこの魔に敗北するのか!これ以上アンバー殿から借りた体を傷付ける事など、許さん!私の主を名乗るのならば、勝て!』




続いて聞こえて来る、騒がしくも力に満ちた声。
それはバラン――隼薙――の為にここまで駆け付けた、ラピスの、ラズリーの、マインの、アークの声。




「隼薙!わたくしに勾玉を下さい!貴方がわたくしを、穂野香を傷付けたくない故に勾玉を持って行ったのは分かっています!ですが、四神は巫子と一心同体・・・巫子の力が無ければ、全ての力を出せないのです!わたくしも穂野香も、貴方と共に傷付く心構えは、もう出来ています!
だから、わたくしにも戦わせて下さい!貴方は、1人では無いのですよ!お願いします、バラン!
いえ・・・隼薙っ!!」




そして、アンバーの声であった。
アンバーの懇願にバランは一瞬だけ戸惑うも、直ぐ様左手を突き出し、白い光の塊をアンバーに向けて飛ばす。
すかさず両手で光を掴んだアンバーが手を開くと、そこには白き輝きを放つ白虎の勾玉があった。




「ありがとう、隼薙・・・心得ました!それでは白虎、バラン!そして、巫子、アンバー!いざ、参ります!」




アンバーが勾玉を空へかざすと、勾玉の中でうごめく風のような光が瞬き、凄まじい白光を放った。
その白光に共鳴し、バランの体が眩しい光に包まれて行く。




グァウウウ・・・!




ジャイガーは閃光に驚きながらも、慌てて棘をバランに突き刺そうとする・・・だがしかし、それより早くバランは白光の輝き纏う疾風を全身から放ち、ジャイガーを吹き飛ばした。




グウィゥゥゥゥゥゥゥゥウウン・・・




バランは雄々しく起き上がり、気高い咆哮を上げる。
巫子・アンバーの力が加わった事による、バランの完全復活だ。




『やったぁ!ジャイガーをぶっ飛ばしたよっ!』
『どうなるかと思ったけど、これならいけそうね!』
『巫子の力が加わった途端に、あそこまで「G」の力が高まるとは。やはり四神と巫子は二つで一つ。対となる存在なのだな・・・』
『そうですね。男と言う生き物は、結局の所最後は女性がいなければならないのです・・・この愛を全て捧げられる、女性の存在が。』




グヴォヴゥゥゥゥ・・・




ジャイガーもまた重々しく起き上がり、重力波をバランへ放つ。
それに対してバランは渾身の突風を繰り出し、重力波を突き抜けてジャイガーを後退させる。
更にバランは全身に風を纏わせ、四つ足になると全身の空気抵抗を消し、光の速さでジャイガーに接近。
その素早さのままジャイガーに激突し、馬乗りの体勢でバランは両手に集めた風と共にジャイガーへ、拳の応酬を続々と浴びせた。
ジャイガーも必死に両足でバランの拳を押さえようとするが、その抵抗をバランは強引に突き破りながら、ジャイガーを殴り続ける。




『し、しかし・・・隼薙さんは本当にジャイガーを百発殴るつもりだったのですね・・・』
『当然よ♪その為だけにわざわざ白虎になったんだから、百発は殴っとかないと!』
『そ、そう・・・ですね・・・いやはや。』
『いっけぇ~!はやて~っ!!』




アグァアア・・・




最後の一撃をボディブローで決め、百に近い殴打をジャイガーに浴びせたバラン。
全身に打撃痕を付けたジャイガーは、見る間に弱っていた。




――・・・隼薙、そろそろとどめの一撃を!




アンバーに促され、一旦バランはジャイガーと距離を取った。
だが、それを見たジャイガーはアンバー達の方に顔を向けるや、アンバー達目掛けて針を撃った。




「っ!バランには叶わないと見て、わたくし達をっ!」
『ほんと、卑怯なやつね!』
『に、にげろ~っ!!』
『だ、駄目です!私達は間に合っても、アンバーさんが!』
『・・・バラン!私に向けて風を!』




ジャイガーの卑劣な策に窮地に立たされ、退避を試みるアンバー達だが、そこへアンバーの右手に付いたアークがバランに向けてそう叫んだ。
バランもそれに手早く応え、右手から小型の竜巻をアークに向けて出す。
竜巻はジャイガーの針よりも早くアークに届き、アークは全速力で風車を回す。
すると竜巻はアークの「G」を受けて拡散し、自身とアンバーだけでなく、ラピス達をも包む風の防護壁となり、針を見事に弾いた。




『た、たすかったよぉ・・・』
『アークさんの「G」が作った、私達を守る風の楯・・・!』
『アーク!ありがとね♪』
『礼には及ばない。これで私達への危害を案ずる事は無くなった。』
「あとは、ジャイガーを倒すのみです!」
『行け、隼薙!』




アグァッ・・・
アグォァァァアア・・・




ことごとく策を潰され、怒りの叫びを上げながらジャイガーは寄生の棘を出すと、重力波で今度はバランを強引に引き寄せようとする。
それに対して、バランは皮膜を広げながらあえて重力波に乗り、ジャイガーの目の前で体を一回転させると、ジャイガーの顔面に強烈な尾撃を浴びせ、ジャイガーに隙を作る。
ジャイガーが重力波を解いた隙にバランはジャイガーの背後を取り、尾を掴むと寄生の棘を強引に引きちぎった。




アグォァァァアア・・・




寄生の棘を失い、凄まじい苦痛から悲鳴を上げるジャイガー。
しかしながらバランにジャイガーへ情けをかけるつもりは微塵もなく、そのまま両手で尾を掴んでジャイガーを持ち上げ、何度も全身でジャイガーを回し、ジャイアントスイングの要領でジャイガーを投げ飛ばす。
三度ジャイガーは山肌に激しく叩きつけられるも、バランが一瞬体を休めたのを見逃さず、叩きつけられる瞬間に針をバラン目掛けて発射し、バランもそれを左腕に受けてしまった。




「くうっ・・・」




バランの傷が巫子のアンバーにリンクし、アンバーの左手からも赤い血が流れ、アンバーも痛みに顔をしかめる。




『わあっ!アンバーの手から、ち、血がっ!』
『これが巫子の同化現象・・・』
『ガイアの「G」を我が物にする代償に、四神と傷も痛みも共有してしまう。分かってはいましたが、直に見るとなんと辛い光景なのでしょう・・・』
『くっ、ジャイガーめ!アンバー殿、大丈夫か!』




初めて見る巫子の同化現象に、ラピス達は各々の反応を見せる。
しかし、当のアンバーは腕を庇う事もせず、力強く勾玉を空にかざし続けた。




「わたくしなら、問題ありません・・・隼薙と穂野香は、もっと辛い痛みに傷付き続けていたのですから。これくらいで、わたくしの心意気は消えません!」


――アンバー殿・・・
慎ましやかでありながら、なんと剛健な心を持っているのだ・・・
きっと本当の穂野香様も、こんなお方なのだろうな・・・
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