本編











約1時間後、愛媛県・西予市、大野ヶ原。
日本三大カルストとして有名な四国カルストの一部であり、なだらかな緑の山肌が広がるこの地を、魔獣が闊歩していた。




アグァッ・・・
アグォァァァアア・・・



そう、ジャイガーだ。
これからこの地を・・・いや、この日本全ての大地を自らの悪意の元に蹂躙し、思うがままの支配に置く事を夢想しながら、ジャイガーは悠然と歩いていた。




・・・ゥゥウウン・・・



・・・だが、ジャイガーの暴威を吹き飛ばさんとする「風」が、今まさに空から迫っていた。
その予兆としてカルスト中に旋風(つむじかぜ)が吹き、草花は空よりの存在を待ち焦がれるように揺れ、風の切れる雑音にジャイガーは足を止めて巨大な力の到来を予期する。




グヴォヴゥゥゥゥ・・・




そして、風を割いて真空の弾丸が天空より現れ、音速のスピードでジャイガーに直撃、ジャイガーを弾き飛ばす。




アグァア・・・




轟音と土を巻き上げながらジャイガーは地に倒れ、憎々しげにジャイガーは空を見上げる。




グウィゥゥゥゥゥゥゥゥウウン・・・




空に気高い咆哮を響かせ、起き上がったジャイガーの前に降り立つ赤茶色の巨獣。
その名は白虎――バラン――。
眼前の悪魔を鋭い眼差しで捉える意志は「風使い」、初之隼薙。
幾多の時間を越え、こうして再び二つの「G」が、相まみえた。




――貴様ぁ・・・!
わざわざ白虎の体を使ってまで、しつこい人間めぇ!!
そんなに命を粗末にしたくば、今度こそ我が引導を渡してやる!!
永遠に癒えぬ苦しみと痛み、我に牙を剥いた後悔と懺悔の坩堝へなぁ!!



――・・・大口叩きはそれまでか?悪魔野郎。
俺は絶対負けねぇ・・・あいつの為に!
だから・・・くたばるのはてめぇなんだよっ!!
この風使いの前に平伏して、一生往生しやがれぇぇぇっ!!




グウィゥゥゥゥゥゥゥゥウウン・・・


アグァッ・・・
アグォァァァアア・・・




戦いの火蓋を先に切ったのは、バランだった。
バランは手に持った悪魔の笛を地面に捨て、胸元に両手を寄せると手と手の間に素早く風の渦を作り、それを竜巻としてジャイガーに打ち出した。
目にも止まらぬ速度で竜巻はジャイガーの顔面を捉え、ジャイガーは一瞬下を向く。
その隙にバランは四つん這いになり、勢い良くジャイガーへ走り出して行った。
ジャイガーが顔を上げる間にバランはジャイガーとの距離を一気に詰めて立ち上がり、右手に風を集めてジャイガーの頬に強烈なパンチを食らわせる。
怯むジャイガーにバランは左手にも風を集め、間髪入れず二発目のブローを浴びせ、アッパーで三連撃を決める。
隼薙がバランとなる前から決めていた、ジャイガーへの拳による報復だ。




グヴォヴゥゥゥゥ・・・




更なる隙を見せたジャイガーへバランは脇の皮膜を広げ、突風を起こしてジャイガーを転倒させる。
ジャイガーも一方的にやられまいと、足の裏から重力波を放つが、素早くバランは飛び上がって回避し、空中を旋回して直立しながら自身目掛けて放たれるジャイガーの針をかわす。




グァウウウ・・・




再び竜巻でジャイガーを牽制し、バランは口を開いて空気を吸い込む。
吸い込まれた空気は口内で激しく逆巻いて風の塊となり、バランはそれを疾風の弾丸「真空圧弾」として発射した。
真空の一撃は瞬時にジャイガーの腹部に直撃し、めり込みながらジャイガーにダメージを与えつつ、ジャイガーを山肌に弾き飛ばした。




アグァアア・・・




バランの強い意志による猛攻はジャイガーに逆転を許さず、更にバランは追い討ちをかけんと突風を浴びせ、右手に風を集めると続けて打撃攻撃を仕掛けようとする。




アグァッ・・・
アグォァァァアア・・・




が、ただやられているだけのジャイガーでは無く、バランの鉄拳が当たるより先に顔の脇からジェットを噴き出し、空中に逃げて拳を避ける。
攻撃を避けられ、慌てて空を見上げるバランへ、ジャイガーは重力波を発射。
バランは重力波に呑まれ、今度はバランが山肌に叩きつけられた。




グガアアン・・・




ジャイガーは空中で方向を転換し、バランに向けて突撃。
どうにかバランは回避に成功するが、続け様に放たれる無数の針にペースを乱され、中々反撃に転じられない。
その間にジャイガーは歩みを進めてバランとの距離を縮めて行き、尻尾の先から極太の棘を伸ばす。
ジャイガーはかつての白虎との戦いの時のように、バランに寄生の棘を植え付けるつもりなのだ。




グァウウウ・・・




無論、バランもジャイガーの策略を察してはいたが、やはり針達が反撃を許さない。
だが、それでもバランは甘んじて寄生攻撃を受けるわけにはいかなかった。
あの棘を受ければ最後、元の木阿弥(もくあみ)どころか、憎きジャイガーの下僕に成り下がる。
それだけは、バランにとってあってはならなかった。




グウィゥゥゥゥゥゥゥゥウウン・・・




意を決し、バランは針の応酬の中へ飛び込んだ。
きっとこの地へと向かっている彼女、アンバーから借りたこの体を決して傷付けたくはなかったが、バランにはこうするしか反撃の糸口を見いだせなかった。
ジャイガーも容赦する事無く針を打ち続け、やがてバランの脇下を針が突き刺さる。
しかしバランは怯む事無くジャイガーに向かって行き、体を捻って太く長い尾でジャイガーを叩く。
思いもしなかった打撃にジャイガーは倒れ、刺さる針をバランは抜き、攻勢へと転じた。




グウィゥゥゥゥゥゥゥゥウウン・・・




ジャイガーが起き上がる間にバランは空中を吸い、真空圧弾をジャイガーへ放つ。
が、ジャイガーは額から放たれる極超短波・マグネチューム光線で真空圧弾を受け止め、消し去ってしまった。
なおも怯まずにバランは四つ足でジャイガーへ向かうが、ジャイガーは重力波を自分の足元へ出し、土埃でバランを撹乱した。
手早く風を土埃を払い、バランは辺りを見渡して消えたジャイガーを探すが、ジャイガーはジェット噴射で空を飛び、バランの背後を取っていた。




グヴォヴゥゥゥゥ・・・




振り向いたバランがジャイガーに気付くも、時既に遅し。
ジャイガーはバランに突撃し、バランはどうにかジャイガーを両手で受け止めるも、全体重を掛けたジャイガーのパワーが、バランを追い込む。
そしてバランはジャイガーの針を肩に受け、力を緩めた隙に地面に叩きつけられてしまった。




グガアアン・・・




バランは決死に抵抗するも、重力波を併せたジャイガーの圧力がバランの抵抗を許さず、バランもまた肩の針の痛みで力を出せずにいた。
満足に体を動かせず、両手を押さえられて皮膜も広げられず、まさに万事休すの状況だ。




アグァッ・・・
アグォァァァアア・・・




ジャイガーは憎々しい笑みを浮かべ、尾の棘をバランの腹へ向かわせる。
バランにもそれが見えていたが、自分にはもはやどうする事も出来ない。
ただ、最後までこの悪魔には絶対に屈しない。
その意地の一心で、バランはジャイガーを睨み続けた・・・
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