本編





――カルの死後、ガラドさんは音信不通になり、1人で診療所を続けられるような状態ではなくなった私は診療所を閉め、ただ何か答えが見付かるのでは無いか・・・そんな動機から、四国八十八箇所巡りのお遍路の旅に出ました。
ですが、何も答えが見つからないままの日々が続き、35番目の巡礼地・清瀧寺を訪れた時の事です・・・




『ここが「入らずの山」か・・・出来れば、高岳親王像もお目にかかりたいが・・・』


――・・・ならば来い。
見たいのだろう、真実を。
ならば、来い!


『だ、誰だ!それに、高岳親王像は一般人が勝手に見ては・・・!』


――貴様は知りたいのだろう、答えが!
本当に答えを知りたいのなら、そんな決まりなど破ってしまえ!
他人の決まりに縛られるな!己の思うがままに、行動しろ!
それを貴様は、望んでいるのだろう・・・?


『っ・・・!私は・・・俺は・・・!!』




――結局私はその声に乗せられ、不入山である入らずの山に入ってしまいました。
そして、高岳親王像の前に立った私は・・・




『ここが・・・それと、あの声は・・・?』


――来たな、憎しみに捕らわれた者よ・・・!


『っ!さ、さっきから何故私の頭に話し掛ける!君も「G」なのか!』


――ご名答!
中々「G」に詳しいようだな・・・なら好都合!
貴様、我に体を貸せ!


『体を?何を言っているんだ!君は何処にも・・・』


――我はこの地の下で、眠りに付かされている者・・・我は、貴様の足元にいる!
貴様は相当な憎悪を心に抱えている・・・我の意志がこんなにも簡単に届き、我の元に来たのだからな!


『憎しみ・・・なら、君も分かるかもしれない。私は、「G」を持った弟を無自覚な人達の言葉によって殺されたんだ。それを受け入れられず、私は答えを探す旅に出ている所だ・・・君も、何か恨みがあるのか?』


――あぁ。そうだ・・・我も憎い相手がいる!
我の目的を達成出来ぬまま、我をこの地に封じた!あの白き「G」を!!
そうか、貴様も「G」に恨みを・・・くくくくく!これは運命!!
我の目的を達成する為、貴様の体を貰う!


『私の体を!?なっ!ま、待ってくれ!』


――貴様の憎悪、利用させて貰うぞっ!!
このジャイガーの、悲願の為にぃぃぃぃぃっ!!


『ジャイガー!?待て、確かムー大陸が生み出した侵略用の・・・!!』


――もう、遅いわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!


『や、やめろ・・・!やめてくれ!やめろおぉぉぉっ!!』






『・・・こうして私は心の闇を利用され、ジャイガーの駒になってしまいました。あとは初之兄妹のお話の通りです。ジャイガーは初之兄妹・・・いえ、アンバーさんを探し出して襲撃し、今度はカウンセラー「マイン・シーラン」をも利用し、新しい診療所を作って初之兄妹が私の元へ近付いて来るのを待ちました。その思惑通り、初之兄妹は私がジャイガーの化身であるとも疑わずに私の元へやって来てしまい、私は隼薙さんを、穂野香さんを、アンバーさんを・・・!』




回想を終えたマインは自らが犯した過ちの数々に両手で頭を抱え、下を向きながら嗚咽する。
しかし、そんな彼の頭に柔らかく手を乗せ、彼をなだめる優しい感触。
その感触にマインが泣き顔を上げると、アンバーの穏やかで慈悲に満ちた表情が見えた。




「マイン様。貴方は何も罪を犯してはいません。全ては「G」による歪み・・・貴方はそれに否応無しに呑まれてしまっただけの、被害者なのです。」
『アンバーさん・・・』
『確かに実行犯はマイン殿かもしれない。しかしマイン殿自身の意志は関わってもいない。無自覚な中傷、それに心を潰された故に存在を奪われたカル殿、そしてその傷に付け入ったジャイガー。全てはジャイガーの策略だ、だから私はマイン殿を糾弾する気は一切無い。』
『そうだよ!ぜーんぶ、ジャイガーが悪いんだからね!マインさんは「ばんざい」なんだよ!』
『「冤罪」ね、ラズリー。それじゃあ嬉しくて仕方ない感じになっちゃうじゃない。まぁ、マインさんに冤罪を負わせた真犯人のジャイガーは死刑に処すって事で、罪を償って貰わないとね?マインさんも当然出廷しないと♪』
『みなさん・・・!』
「ジャイガーへの裁きは、バランとなった隼薙が下します。わたくし達はそれを見届けなければなりません。無論、マインさんもご一緒に。」
『・・・本当に、本当にありがとうございます。私は押し込められた心の迷宮の中で、決して許される事など無いと思い続けていた・・・ですが、こんなに素敵なみなさんが、私を受け入れてくれるなんて・・・!』
『もう、こんな時までナンパするなんて、いけませんよ?』
『わ、わたしはそんなのにまどわされ・・・』
『ふふっ・・・私もこんな時に女性を口説く程、空気を読めない男ではありませんよ。ただ、皆さんが素敵な女性なのは事実ですが・・・』




涙を拭いながら、マインはラズリー・アンバー・ラピスを見ると、甘い声といつも通りのやや不敵な笑みで、彼女達にそう呟く。
それはマインが普段の自分を取り戻し、ようやく罪の意識から解放された証でもあった。




『まっ、またそんな事言って・・・!』
『マイン殿のフェミニンな性分は、もはや真性なのだな・・・』
「いいのですよ、アーク様。こうしてマイン様が、元の自分に戻れたのですから。」
『それじゃ、あとは会場に向かうだけね♪ちょっと減速しちゃってたから、またギリギリスピードで行くわよっ!』
『へええっ!?この速さで減速してたって・・・わあああっ!』




ラピスがエンジンを踏み込むと共にトラックは急加速し、一行は決戦の地へと向かって行った。
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