本編





一方、アンバー達は動かなくなった白虎を見つめながら、それぞれの本音を吐露していた。




「・・・わたくしも穂野香やご両親には負けますが、隼薙の事を勾玉からずっと見ていました。だから、隼薙だけは危険に巻き込みたくないと、心からずっと願っていました・・・ですのにどうして、こうなってしまったのでしょう・・・?」
『アンバー・・・』
『私も所詮、物言う風車でしか無い。何を言おうとも、最後の判断は隼薙が決める事。私に隼薙を止める手段は無い・・・其れを分かっているからこそ、私はただ、彼を行かせる事しか出来ない。出来ないのだ・・・!』
『アーク・・・うぅ・・・』




小刻みに、だが何処か震える感情を抑えるように風車を回すアーク。
それを察したアンバーはラピスからアークを預かり、そっと抱きしめた。




『アンバー殿・・・?』
「辛い時、悲しい時、いつの世の人もこうして心の痛みを癒やしていました。今のわたくしに出来るのは、これくらいですので・・・」
『・・・否。その心使い、誠に感謝する。』
『ラズリーも、辛かったらあたしの胸に飛び込んでいいのよ?』
『そっ、そんな子どもみたいな事しないよっ!わたしは大人だし、お姉ちゃんよりお酒も飲めるし・・・』




・・・ゥゥウウン・・・




と、そこへ空気を振るわすかの様な低い唸り声が森中に響き、アンバー達は直ぐさま白虎に目線を戻した。




「これは・・・!」




更に何の前触れも無く一帯に風が吹き荒れ、霧を巻き立てながら風は木の葉達を揺らし、それによる一帯が騒がしくなる。




『うわあっ!な、なんでいきなり~!』
『この風の感じ、何処かで・・・はっ!』




やがて静止していた白虎が緩慢と動き始め、空を見上げながら己の身体を竜巻に変えると、暗雲に包まれた空へ昇って行く。




『ラピス殿、気付いたか!そう、この風の感覚は岩屋寺で白虎が覚醒した時と全く同じもの・・・「G」による凄まじい風の余波だ!』
「そして、それが意味する事は・・・!」




程なくして暗雲が消え失せ、夕日に染まる空より竜巻が地上へ舞い戻り、再び白虎が姿を現す。




「・・・新たなる『白虎』の誕生。初之隼薙の心を宿した、白虎の誕生です!」




グウィゥゥゥゥゥゥゥゥウウン・・・




そこにいたのは、確かに「白虎」であった。
しかしその外見は大きく変貌を遂げ、もはや別の存在だと思ってしまう程の姿となっていた。
しなやかで丸みを帯びた女性的な身体は、屈強かつ筋肉質で逞しい「男性的」な身体に。
背中の棘はやや黄色がかり、爪と合わせてより鋭い物に。
柔和だった顔は不動明王を思わせる、厳かな表情に。
高く清らかな咆哮は、全てを威圧する低く野太い咆哮に。
そして何よりも、真っ白だった全身の色はまるで隼薙の髪色を反映したかの様な、濃い赤茶色に染まっていた。




『うそっ!?こ、これが白虎!?』
『白虎と言うより、もう「バラン」みたいね。』
『ある意味、それは正解かもしれない。今の白虎は白虎であって、白虎では無いのだから。』
「そう・・・隼薙の心を宿した白虎・・・またの名は、バラン。」




グウィゥゥゥゥゥゥゥゥウウン・・・




再度、空へ叫びを上げる白虎――隼薙――。
そう、白虎は隼薙の心を受け、「バラン」として今ここに生まれ変わったのだった。




グァヴウウウ・・・




バランはアンバー達の方へ振り向き、彼女達を目に焼き付けるように黒い眼差しで見つめると、地面に転がる悪魔の笛を右手で掴む。
そして再び目線を空に戻すと両脇の皮膜を広げ、瞬く間にその彼方へ飛び去って行った。




『えっ?はやて・・・じゃなくて、バランがどっかに行っちゃった!?』
「今わたくしの手に勾玉が無いので、彼が何を考えているかは分かりませんが・・・予想は出来ます。」
『バランは、ジャイガーの元へと向かった。間違いない。』
『あっ、そっか!ジャイガーをぶんなぐるって、言ってたもんね。』
『じゃっ、さっさとあたし達も追わないとね。ジャイガーが現れた所にバランも現れるなら、そこに行けばいいだけよ。』
『旅は道連れ、世は泣けって言うしね。こうなったら、わたし達も最後まで付き合うよっ!』
「ありがとうございます・・・ラピス様、ラズリー様。ですが、正確には『世は情け』ですよ。」
『そうね♪1分1秒も惜しいから、ちゃっちゃと・・・』




と、走ってトラックに向かおうとしたラピスが突如足を止め、その場で固まった。
後を追うアンバーとラズリーが追い付き、ラピスの様子を伺ってみると・・・




『・・・う、ううっ・・・!』
「っ!?」
『あ、ああっ!』
『ごめんね~、急に止まっちゃって。でも、そう言うことなの。』




ラピスが突然立ち止まり、アンバー・ラズリーが驚いた理由。
それは「彼」にあった。




『こ・・・ここは・・・?私は、何故こんな所に・・・?』
『目覚めたか。マイン・シーランよ。』




そう、ジャイガーが覚醒してからずっと意識を失っていたマインが、今ここで不意に目覚めたからであった。
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