本編




「お前ら、こいつが目覚ましたら何でジャイガーなんかに操られたのか、問い詰めといてくれよ。んじゃ、仕切り直しと行くか・・・!」
「そうですね。ではもう一度・・・参ります!」




迫る白虎を正面に捉え、再度隼薙は両手に疾風を、アンバーは自身に光の風を吹かせ、儀式を再開する。




「・・・っ!!人間の底力、見せてやるっ!!」




隼薙は持てる全ての力を風に乗せて白虎へ放ち、風は隼薙の滾(たぎ)る意志のままに暴風へと変わり、アークの制御が加えられた暴風は白虎の全身を覆うように吹き荒れ、白虎は身動きが取れなくなった。




――・・・卑弥呼。
貴女はその命を掛けて、わたくしを呪われた体から引き離し、わたくしを守って下さいました。
ですが、貴女の子孫の前でその体に戻る事になるとは、なんと言う因果でしょう。
貴女からの加護を、これからわたくしは自ら破る・・・ですが隼薙と穂野香が、ラピス様とラズリー様が、わたくしに今一度立ち向かう決意を下さりました。
どうか、冥土から見守っていて下さい・・・
わたくしが、「白虎」に戻るその時を!




閉じた両目を凛と見開き、アンバーは勾玉から出る白い閃光の筋を白虎に向けた。
矢尻の如く瞬光は白虎の胸を射抜き、それと同時にアンバーの全身は光の風に包まれ、透明になって行く。
そう、白虎の体と心が今繋がり、一つに溶け合おうとしていた。




「ラピス様。貴女のような強い女性は、わたくしの憧れでした。ラズリー様。気が向きましたら、交通費代わりにわたくしを絵にして下さいね。アーク様、時には隼薙を褒めてあげて下さい。隼薙は実は褒めて伸びる方ですから。」
『アンバー、あなたって・・・』
『ぐすっ・・・そんなのっ、当然だよぉ・・・!』
『アンバー殿・・・』
「それから、隼薙。穂野香の事を、頼みましたよ。風使いとして立派になった貴方の姿・・・忘れはしません。あと、ほの・・・!?」






「・・・悪ぃな。こっからは、俺の番だ。」




それは、一瞬の出来事だった。
白虎を縛る隼薙の暴風が止んだかと思うと、今まさに白虎に向かおうとしていたアンバーの手から勾玉が消え、アンバーは光の風から弾き出された。
更に間髪入れず、隼薙の手から外されたアークが宙を舞い、すかさずラズリーの指示の元にラピスがキャッチする。




「えっ・・・!?」
『ちょ、ちょっと!なんでアンバーが出てきて、アークが飛んできたの!?』
『これって、まさか!?』
『どう言うつもりだ!隼薙!』




そう、アンバーから勾玉を奪ったのも、アークをスピリーズ姉妹に投げたのも、隼薙の諸行であった。
隼薙の手には勾玉が強く握られ、アンバーの代わりに隼薙の体を光の風が包んでいる。




「は、隼薙!何をしているのです!早く勾玉を返して下さい!」
「俺さ、気付いたんだよ・・・ジャイガーの野郎をまた99発殴ってねぇってな。けど、もうあいつ怪獣みたいになりやがったし、ならお前が穂野香の体を借りたみてぇに、俺も白虎の体を借りようってな。」
『か、からだをっ!?はっ、はやて!もしかして「ちまよった」のっ!?』
「そう言う時だけ正しい熟語を使ってんじゃねぇ。穂野香は卑弥呼の子孫だから巫子になったんだろ?だったら俺だって、俺にだって巫子の力があるって事じゃねぇか。」
『正しくは「巫師」だ!それに穂野香様は特別な巫子だからこそ・・・否!それ以前にアンバー殿で無いお前が白虎と一つになる事など・・・!』
「不可能、ってか?決めつけんじゃねぇ。理屈じゃねぇんだよ、俺がやろうとしてる事は。俺にいつもくっついてたお前が、一番分かるだろ?」
『こんな時に何言ってるの、隼薙君!みんな君を心配して言ってるのよ!ジャイガーを倒すのは、アンバーの役目なの!アンバーが苦戦しても、きっとガメラかギャオスが来てくれる!だから止めなさい!』
「ジャイガーを倒すのは俺だ。俺のこの意志で、俺の風で倒すんだ。ガメラとギャオスにも・・・アンバーにだって、絶対譲りたくねぇ。だからアンバー、お前は穂野香が元に戻るのを最後まで見届けてくれ。俺が一番心配してんのは・・・最初から穂野香なんだからよ。」




自分を止める声を跳ね退け、一心を捧げて白虎と繋がろうとする隼薙。
彼の声は何故か異様に落ち着いた、「隼薙らしくない」と形容出来る声だった。




「大丈夫だって。お前が穂野香を大事にしてくれてるみてぇに、俺は必ずお前にあの体を返す。俺は死んでも死なねぇよ。」
「ですが・・・隼薙・・・!」
『・・・隼薙、お前は本当に愚か者だ。後先を考えずに行動する・・・すぐに調子に乗る・・・自分1人だけで物事を考える・・・それ故に、いつも私や穂野香様に心配を掛ける!今もこうして、アンバー殿やスピリーズ姉妹をも巻き込んで心配を掛けている!』
「・・・」
『だがそれでいて、自分がやろうとしている事には頑固なまでに一徹する・・・!そして私は分かる・・・今のお前が、真剣に白虎になる事しか考えていない、人間で無くなる覚悟を受け止め、この行動に出たのが・・・行け、隼薙。』
「ア、 アーク様!?」
『お前の成そうとしている事が本当に不可能で無いのなら、それを証明してみせろ!「風使い」、初之隼薙!お前の心の力を、私達に見せてみろ!』
「・・・そう言ってくれると思ったぜ、アーク。」
『あたしも・・・やっぱり、アークの意見に賛成かな。』
『お、お姉ちゃん!?』
『今日会ったばかりだけど、隼薙君ってとっても分かりやすい男なのよね。だから、いくらあたし達が止めても隼薙君は絶対聞かないのが分かっちゃうの。それならいっそ、ここで隼薙君に一世一代の男気を見せる機会を与えよっかなって。ラズリー、あんたも分かるでしょ?』
『そうだけど!でも、だからってほいほい行かせるわけないよぉ!』
『「男は度胸、女は愛嬌」って言う言葉もあるし、ねっ?』
『なにが度胸なの!お姉ちゃん、はやての事が心配じゃないのっ!』
『心配よっ!』
『っ!?』
『・・・けどね、さっき言ったみたいに隼薙君が自分でケリを付けたい気持ちも分かるの。それに自分がどうしたいか、最後に決めるのはその人自身だと思うわ。ラズリー、両親が死んで天外孤独になったあたし達も、そうやって生きて来たでしょ?』
『う・・・うん・・・』
『なら、今は笑顔で隼薙君を見送りましょ♪あたし達は絶対無敵の?』
『絶対可憐美女姉妹の、スピリーズ姉妹っ!もう、みんな「ひじょーしき」ばっかり!だからわたし、どうなってもしらないからねっ!はやてっ!』
『かっこつけたんだから、絶対帰ってきなさい!・・・約束よ?』
「・・・言われなくても、分かってるっての。」




――・・・穂野香。貴女なら、どう致しますか?
・・・そうですね。隼薙とずっと一緒にいた貴女も、そう言うと思いました。
・・・えっ?わたくしの体の問題だから、わたくしの心の声に従え、ですか?
わたくしは自分の体よりも、隼薙の事が心配です・・・もし隼薙が消えてしまったら、わたくしは・・・
しかし、アーク様にラピス様、ラズリー様、それに貴女も隼薙を信じました。
それなら、わたくしがすべき事は・・・




今なお、心の奥底に広がる感情の迷宮を彷徨い続ける穂野香から助言を貰ったアンバーは、自らの心の声に従い・・・両手を出して光子を纏った涼風を起こし、隼薙に与える。




「っ・・・?」
「わたくしの力を込めた風です。これがあれば、多少は負担が緩和されると思います。」
『アンバー殿、其れはつまり・・・』
「・・・行って下さい。わたくしの代わりに、白虎の『心』となって。だから、最後に今一度誓って下さい・・・絶対に、わたくし達の元へ帰って来ると・・・!」
「・・・俺を、誰だと思ってやがる。俺は風使い・・・風は、必ず誰にだって吹くんだぜ。つまり、俺は死んでも死なねぇって事だ!」




大粒の涙を流しながら懇願するアンバーへ、力強い声で答える隼薙。
その声は、いつもの隼薙そのものであった。




『隼薙・・・!』
『隼薙君・・・』
『はやて・・・っ!』
「ありがとな、お前ら。ボーっとせずによく見とけよ、この俺の活躍を!じゃあ・・・行くぜぇっ!!」




アンバー達がいる後ろへ振り返って啖呵を切り、再び白虎の方を向くや叫び声を上げ、隼薙は飛び上がった。
だがその直後、隼薙の全身を違和感のような異様な感覚が襲う。
それは巫子が覚醒した際の拒絶反応にも似ており、隼薙は違和感に苛まれながらも白虎を目指す。




「っ・・・!!」


――体が・・・スカスカになってきやがる・・・!
これが・・・白虎と一体化するって事、なんだなっ・・・!
けど、これは・・・俺が、俺自身が風になってるってこった・・・!
そうだ、俺は・・・俺は本当の風になる!
アンバーの、アークの、ラピスの、ラズリーの、マインの!
あいつら以外の全ての人を苦しめやがったジャイガーをぶっ飛ばす為に!
何より、穂野香の為に!
俺は、風になるっ!!




強靭な意志で体の違和感を跳ね退け、その体を風に変えた隼薙は白虎の胸部から「心」の中に侵入した。
中は煙のような紫のオーラと、この場を支配する者の悪意に満ちており、隼薙は悪意の強い方へと体を飛ばして行く。




――何処だ、何処にいやがる!
てめぇがここのどっかにいるのは分かってんだよ・・・ジャイガー!




アグァォァァァ・・・




程なくして、隼薙は悪意の根元と対峙した。
今だ白虎の心に寄生し続ける悪魔・・・ジャイガーの意志の一部だ。
顔の両脇の唾液角こそ無いが、それ以外はジャイガーと瓜二つであり、隼薙を見つけるや額からオレンジの光線を発射し、隼薙に苦痛を与える。




「ぐああっ・・・!」




アグァォァァァ・・・




「ふ・・・ざけんなぁ! 俺は、てめぇにやられる為に、来たんじゃ・・・ねぇっ!!」




が、それでも隼薙の意志が折れず、無理やり両手を突き出し、小ジャイガーに突風を浴びせた。
小ジャイガーはたまらず攻撃の照射を止め、隙を作ってしまう。




「痛ぇじゃ済まねぇぞ!おらぁっ!!」




更に隼薙は右手を振りかざし、瞬く間に鎌鼬を生成すると、小ジャイガー目掛けて飛ばした。
鎌鼬は小ジャイガーが反撃する間も与えずに直撃し、全身を切り裂かれた小ジャイガーは苦悶の表情を浮かべる。




グヴゥゥゥゥ・・・




「終わりだぁ!消し飛びやがれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」




そして隼薙は一気に小ジャイガーへ接近し、渾身の風と力を込めた拳で小ジャイガーの顔面に強烈なパンチを食らわせた。




アグァォァァァ・・・!




断末魔の悲鳴を上げて小ジャイガーは消滅し、それと同時に場を覆っていた悪意とオーラが消え失せ、本来の姿である純白色の場を取り戻した白虎の「心」を、光と心地良い風が包む。




「・・・じゃあ行くぜ、俺!!」




グウィウォォォォォウン・・・!
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